月記帳


『遠くへ行きたい……って訳でもないんだが』
湯けむり名古屋奇行



2004/6/27
 今月の『遠くへ行きたい……って訳でもないんだが』は、一年越しのお約束、ゲオの株主総会です。
 前回も行きたかったんですけどねー。
 どーして行かなかったか?
 そりゃ、あなた。
 会場が名古屋だからですよ。

 前回の株主総会は、松屋フーズを見物に行った。
 だが、ヤフー掲示板を見る限り、ゲオの株主総会後の懇親会は相当に豪華であったとの事。
 流石に羽振りの良い会社は違うなぁ、来年は行ってやろう、と腹を括っていたところが。
 唐突の社長死去のニュース。
 その後届いた総会の案内の手紙には、懇親会の文字はなかった。

 ……いや、別にそんなにタダメシ飢えてる訳ではないんですよ? ただ、興味湧くっしょ? ね?

 気が少々萎えつつも、名古屋旅行の意味合いも兼ねれば良いや、と自分を納得させる事に成功。
 そして、足と宿を確保すべく、JTBへ行った。

 ……旅行パンフレットが、七月からになってる。

 はい、株主総会の案内を待ってたら、ギリギリまで遅くなってしまいました、はい。

「えーっと、名古屋行きたいんで、宿と新幹線を」
「はい、宿と新幹線のパック商品がありますから、お待ち下さい」
 店員さんが、パンフレットのバックナンバーを出してくれたので、一安心。
「小田原発の新幹線でお願いします」
「えっと、小田原発のひかりは少ないんですよ。この時間以外だと、割り増しになりますけれど」
「……一番安い時間で」
「ホテルは――」
「……一番安い部屋で」
 という、悪い意味で男らしい決断をズバズバと行った結果が。

●往路:6/24 14:10 小田原 → 15:22 名古屋
●復路:6/26 13:57 名古屋 → 15:09 小田原

 滞在時間少なっ!

 ……まあ、いいんだけどもね。
 出発時は急がなくて良いし、明るいうちに帰れるし。
 二泊三日で二七〇〇〇円。
 宿代が少々高いんだな。

 ――当日の前。

 ご存知ないとは思うが、私の定期的執筆スケジュールというのは、毎月、十五日までにピトラの冒険、二十五日までにコバルト等のショートショートや短編、月末までにQBOOKS関連、としている。
 しかーも。
 今回は内々で一つ出さねばならぬものもあってー。
 ショートショート強化月間だったりしてー。
 偶然は重なるもので、同人誌の入稿の打ち上げがあったり、友だちに誘われたり、QBOOKS関連の飲み会が入ったり、というのが、一週間のうちに集中してー。
 もうチョー信じらんなーい。腸信じらんない、臓物信じらんなーい(昔日はやった若年婦女子の口調)。

 まあ、どうにかこうにか片付けたんですがね。
 正確に言うと、短編が一本まだだけども、これは月ずらしで出しているので、次の〆切までに二本書くことで対応する予定。


<二十四日>
 原稿をメールで送ったり何たりしつつ、結局十一時前に家を出る。
 いつも駅までは自転車で行くところ、駐輪場代の三、四百円をケチケチして、歩いて行く事に決定。
 荷物は極限まで切り詰めたお陰で、相変わらずいつものショルダーバッグに収まっており、しかもかなり軽い。
 十一時半過ぎに駅に到着。晴れていたせいで、やたら暑かった。
 さて、小田原行きの電車に乗り込む。しかし小田原行きの小田急は、相変わらず急行のくせに各駅停車をするなぁ。
 終点に近付くにつれて、櫛の歯が抜けるように客が減って行く(縁起の悪い表現をしない事)。
 ほとんどガラガラの状態で小田原へ到着した。
 十二時半前。
 新幹線の出発まで、一時間以上あるので、昼飯がてら小田原城でも見物に行く事にした。

 小田原城は以前にも行った事があるのだが――まあ、神奈川県民にとって天守閣を見物出来る城として一番メジャーなとこではなかろうか。
 金払って天守閣に昇る金も元気もないので、手前の動物園を見る。
 うわー、一つの檻に、色んな鳥が!
 ……コンクリートの上でうずくまってる。
 かつての典型的動物園風景ではあるが、ズーラシアとか見た目には、これはかなり惨めに見える。
 真ん中にはお馴染みのゾウ。
 これも、堀に囲まれたコンクリートの舞台だけど。
 これは近い。
 見せ物小屋的にゾウを見るなら、これがベストか。相変わらず惨めさはあるけども。
 足でも痒いのか、ぼりぼりやってるのもしっかり分かるし。
 何より、堀のこっち側(観客側)の草でも食べたかったらしく、堀のギリギリから鼻を伸ばして、まさぐっていた。
 近い、でかい、こりゃ水もかけられようというもの。

 あんまり長居する訳にも行かないので、駅に戻る。しかし、城の堀にいる魚は、大概鯉だなぁ。余程水が悪に違いない。
 さて、駅前をぶらつく。
 小田原名物でも、と考えないでもなかったが、あんまり良さそうな店はなく、そもそもが小田原名物なんてカマボコぐらいしか出て来ないので、さんざ迷った末に吉野家に入る。
 ビールと鮭イクラ丼。
 鮭イクラ丼は、やっぱり思った通りに旨い。限定販売とか書いてあったので、売られている店舗にばらつきがありそうだったが。
 そういやぁ、BSEが米国でまた見つかったとか言ってたから、もうしばらくは吉野家もこの体制かねぇ。

 食事も終えて、半端に時間があったので、駅にくっついた本屋で名古屋ガイドブックをチェック。
 ふむふむ、名古屋名物って、こんなか。所々抜けてたな。滞在期間がそう長いでもないし、食べ歩きぐらいしか出来ないかも知れないなぁ。
 と、そろそろ新幹線の出発時刻になったので、売店でワンカップ式の地酒『酒匂川』があったので、魚肉ソーセージと一緒に買う。
 準備万端、駅のホームへ。
 自動柵のない、まるで地方の新幹線駅みたいなホームだった(そのものズバリだ)。
 ほどなく、新幹線が到着。
 指定席の上、平日の昼間という事もあり、かなり空いていて隣りにも誰もいない。
 良き哉良き哉。
 ええと、名古屋までは一時間ちょいだったな。停車駅は――なんだ、次が名古屋か。って事は、この隣の席は、到着まで開いているのか。広々してて良いね。
 まずは酒と、つまみを開ける。
 酒は普通。
 それから魚肉ソーセージは――久しく食べてないよなぁ。小学生以来か。あー、確かにこんな味したわ。しかし未だに同じ味って、どうなんだろ? あの頃は、肉のソーセージが贅沢品だったっけっかなぁ……。
 等とノスタルジーに浸りつつ、飲み食い終える。
 ところが、少々多かったのか、さっきのビールとの合わせ技なのか、今一つスッキリしなくなってしまった。
 気分が悪いって程でもないんだけども。
 一眠りした後、名古屋に到着した。
 本当、あっと言う間。
 こうして、少々思い胃を抱え、名古屋に到着したのであった。

 おー、やっぱり都会の駅なので、でかくて人が多い。
 そういえば、巷では名古屋ファッションとかいうのが流行っているらしいが、よく分からん。雑誌とかで見た感じでは、女子大生ブームの頃みたいな装束に思えるが、そんなのはいるようないないような。
 まずはJTB支給のホテル地図を見つつ、適切な出口を探索。
 ホテルは栄駅の側との事。地下鉄に乗るべきか、歩くべきか。
 でも、折角だから、地上を眺めつつ歩くのも良いよなぁ。
 ――まあ、今までの経験から言って、歩くのさ。ああ、歩くのさ。
 方向を決めて、歩き始める。
 オフィス街らしく、店らしい店もない。
 繁華街とは違う方向を歩いているらしい。
 ブラブラ歩くうちに、地下鉄駅に到着。
 国際センター前駅――うんうん、方向当たってる。
 でもやっぱり結構距離あんだよなぁ。
 余裕があれば名古屋城とか覗こうと思ってたけど、遠回りする余裕がなさそうだ。
 そして大通りを曲がって、栄へ。
 地図上では、結構近いんだが、歩き疲れが少々出てきたせいもあり、なかなか進まない。
 よく考えると、家から駅まで三十分以上歩いてるし、小田原でも一時間ぐらい歩き通しなのだから、疲れるのも道理だ。
 でも、栄に近付くに従って、次第に街が賑やかになって来て、気分的に楽になって行った。
 飲み屋、食い物屋、カラオケ屋やら漫画喫茶まで、夜に賑やかになりそうな店がいっぱい。
 なーるほど、栄は主要繁華街の一つであったか。
 地図を確認しつつ、大体この辺り、と当たりを付けて、まずはホテルを探す事に。
 えーと、ホテルの名前はガーランドホテル……。
 見上げると、そこなホテルの上に『ガーランドホテル』の名が。
 なんだ、真ん前まで来てたんかい! 目の前にキャバレーがあったり、ダイエーがあったり、餃子の王将があったりする、形容困難な場所だ。
 ともあれ、安心したので、夕食を取れる場所を探す。
 探す。
 探す……が、名古屋名物を扱う食べ物屋が、今一つ見つからない。
 ウロウロウロウロするうちに、いい加減疲れたので、ダイエーで適当に買い物してホテルの部屋で食事を済ませる事に決定。
 名物のフォローが出来んかったなぁ、と思いつつ見ると。
 おにぎりの中に、天むすが!
 よし、名物ゲット!
 後は、酒やら飲み物やらを買って、ホテルにチェックインと相成った。

 ホテルは、少々高いのだが、別に普通のビジネスホテル。カードキー式、ユニットバス、テレビは有料チャンネルあり。後は、ベッドと机と引き出しには聖書と仏教教典――要するに普通。
 ともかく、天むすとおにぎりだけの晩飯を済ませ、ゴロ寝。
 軽く横になって元気が出たので、暗くなり始めた栄の街を散策開始。
 あっちを歩いても、こっちを歩いても、人が多いし、客引きもいる。
 何というか、一人では今一つ歩き難い。飲み屋ってのも、一人で入るのは少々敷居が高いものだし。
 しかし、お国柄なのか客引きはみんなキャバクラだった。前、何だったかで、名古屋はキャバクラ激戦地だ、という話を聞いた気もするけれど。
 何だか歩いているうちに、どんどん身の安全に対する不安を抱くようになって来たので、ダイエーでもう少し飲み物を買ってから、ホテルに戻った。そうそう、そのついでに、ダイエーの最上階に寿がきやを発見。おお、懐かしい、明日でも入ろう。
 後は、シャワーを浴び、今日のシャツと下着を洗濯して、ぼんやりテレビを眺めて過ごした。
 しっかし、ラジオないんだよなぁ、この宿。


<二十五日>
 総会当日。
 といっても、総会は十五時から名古屋駅のホテルなので、時間は余裕である。目標は名古屋城見物、上手くやれば名古屋港へ水族館見物に!
 まあ何はともあれ。
 執筆。
 ショートショート強化月間なので書こうとするが、自分の部屋にはいつもあるアイデアのきっかけになりそうなものが全然ないので、テレビをザッピングしつつひねり出した。
 お陰で、ようやく書き上げた時には、十時を過ぎていた。
 さて、気分も軽く出発。
 ――雨かよ。
 まあ、雨足も弱いし、平気だろ。
 向かいのダイエーに入る。
 目的は寿がきやだが、途中に百円ショップを見つけ、傘が売られているのも気付いた。しかし、当方もう数年来傘を持ち歩く風習がない上に、チェックアウト時にゴミ箱にこの傘が突っ込まれている様を想像すると、申し訳ない気がするので、「まあいいや」とスルー。
 そして寿がきやへ到着。
 ……最上階っつーのは、いわゆる寂れた食堂やゲーム機が置いてあるタイプの最上階である。
 店には客おらず、店員のおっさん独り。
 入口にレジはあったんだけども……。
 寿がきやの構造は、名古屋人には常識過ぎるのか、ここで先払いして札を貰う、というシステムだと理解するのに数秒を要した。
 注文したのは肉入りラーメン、三百五十円。
 名古屋発祥だった気がするラーメン屋、寿がきや。
 それは、小学校、それこそラーメンを丼からではなく、小さな椀に移さないと食べられなかったような年齢の頃、近所のニチイの四階にあった。
 親に連れられて行くその店は、いつも混んでいた気がする。
 当時珍しい豚骨スープと、きちんと煮込まれたチャーシューは、ラーメンと言えばインスタントが主流だったような時代としては大変に旨いレベルにあった。
 更に、ソフトクリームも、普通のものではあったが、そもそもソフトクリーム自体が普通ではなく、とてもステキなお店であることだと思ったものである。
 しかも値段は安く、ラーメンが三百円の、肉入りラーメンが三百五十円……って、当時と一緒じゃん!
 値段変わってない気がするー。
 いつの間にか、ニチイから寿がきやは撤退して、幻の味になっていたものだが。
 ともかくラーメンを食べる。
 チャーシューを食べる。
 スープを飲む。
 うむ。
 確かに、こんな味だった。チャーシューが特に、こんな味だった。
 なるほどー。
 今や、ずば抜けて旨い訳ではないけれど、特にチャーシューは貧相感は否めないけれど、でも値段を考えれば充分。少なくとも、駅前の豚骨ラーメン屋よりは旨いわい。あれは、麺が細すぎだったし。
 あー、懐かしい。
 けど。
 朝飯にラーメンは、やっぱり身体中の血が汚くなるみたいだなぁ……。

 ダイエーから、栄の駅へ直行する。
 栄の駅の地下はかなり色々な店があって、なるほど繁華街と言った風情。地下鉄の路線図を見ても、乗り換え駅になっていたし、そういう場所なせいで宿代がちょいと高かったのかも知れない。
 七百円ちょいの地下鉄一日券を買って、地下鉄名城線に乗車した。
 行き先は名古屋城。
 最寄りの市役所駅に到着し、地上へ。
 まだ雨がぽつぽつ来ていたけれど、それほど問題はなし。
 出た場所は、すぐ城。
 ただ、天守閣は見えない。
 何しろ掘の向こうの向こうであるからして。
 その堀だけど……。
 空堀だぁ。
 水入ってなくて、凄い草が生えてる。
 今思うと、緊急時の遊水池か何かになるんだろうか?
 何か相撲協会寄付の見張りやぐらの脇を通り、券売機で入場券を購入、更に中に入る。
 と。
 おお、見えた天守閣。
 一目で分かる。
 金ぴかのシャチホコだ。
 あれが噂の金のシャチホコか。
 これだけ遠くても目立つてぇのは、やはりインパクトがあるって事だろうなぁ。
 ともかく、天守閣に行くべく、歩く、歩く、歩く。
 結構遠い。
 途中「きしめん」の看板が出ている食堂があったが、朝食後間もないので、場合によっては天守閣を見物した後に立ち寄るか、ぐらいの感覚で先を急ぐ。
 城に関する能書きによると、この城は江戸時代に家康の命令で作られたものだそうな。
 ああ、道理で城主のイメージがない。信長の地元だけど、特に関係はないのだね、つまり。
 そもそも、甲府城何かと比べると、要塞としての機能は少な目に見える。
 けど……内側にもう一つ堀がある。
 二重構造か。でかいな、しかし。
 門を一つくぐって、と。
 真っ直ぐ進めない壁に曲げられた道をぐるりと回り込む、と。
 おお、ようやく天守閣が。
 とにもかくにも、中へ入る。
 脇の小天守閣から入る事になる構造。
 ありゃ、内側に石垣が露出してる。これは再現だからか、元々そうなのか今一つ不明だなぁ。後は、天守閣へ屋根のない渡り廊下で繋がっている。
 さてさて天守閣は、と。
 シャチホコの模型と、古いヤツがある。やっぱりまあ、これが売りみたいなもんだからなぁ。
 もう一つ「黄金水の井戸」とか、少々首を捻ってしまうネーミングの遺物もあったが、敢えて品性を落とすボケをかますのも何なのでスルー。
 後は上へ上へと昇っていく。
 混雑を考慮してか階段は一方通行の指示が出ていたが、幸い観光客は少なく通り易い(雨の平日に多かったら問題だ)。
 各階毎に、ちょっとした博物館のようになっており、城下町の再現したものや、建設風景の再現、空襲で炎上する天守閣の写真、当時の模型等々が揃っており――かつてをしのぶ事が全く出来ない。
 城なんだから、城の内部を見せて欲しいと思うのは贅沢なんだろーか。うーむ。資料館は、脇に建てりゃいいのに。そりゃ、エレベーターとかの都合で、どうせ配置が変わってしまうってのは分かるけども。
 そして最上階は、展望台と土産物屋。
 ……通天閣と変わらん。
 土産物屋が、シャチホコ縁のせいか、ピカピカしたものばっかりなのは印象的だった。

 天守閣から出ると――雨足強くなってる。
 強くっつーか、もうザーザー降り。
 んー、小雨なら濡れて歩けるけど、ここまで来るとちょっとヤバイねぇ……。
 とりあえず、天守閣側の土産物屋で雨宿りしようと思ったけれど、客が極めて少なく(というより、自分しかおらず)、長時間滞在は不可能。
 傘も売ってはいたが、やっぱり傘一本使い捨てにする気は起こらず、仕方がないので。
 濡れて走った。
 一応木の陰になる場所を選んで走るものの、城というのは基本的に陰になる場所は少なく、かなり濡れた。
 その雨宿り途中に、先にあった食堂へ駆け込む。
 うわ、一人も客いないよ。店員は大きなお姉さん二人。
 まあ、ギュウギュウよりは入りやすいけども。
 ということで、入店。
 半分オープンの食堂。まあ、観光地によくあるタイプ。
 きしめんが温冷数種類あった中で、比較的高め(といっても六〇〇円ぐらい)のザルきしめんを頼む。
 ビールの一本も、という考えもないではなかったが、朝食が十時半、そして昼食が十二時半という接近戦のため、腹具合的に今一つで、頼むに至らなかった。
 そうこうするうちに、ザルきしめんが来た。
 ……少ないな。
 思わず、下にもう一段あるんじゃないかと確かめそうになった。
 まあ、外で頼むザルソバ、ザルうどんの類は、大体少ないもんだけど――あー、でも、近所の温屋の釜揚げうどんは量あったな、結構。
 さて、食べる。
 きしめんは、つゆをたっぷり付けるのが流儀らしいので(昔、『名古屋嫁取物語』で見た)、そのように食べる。
 ずぞぞぞ、ずずぞぞぞ……。
 んー、冷たい平麺が、濃すぎないつゆと絡んで、さっぱりとしていて。
 普通。
 もう、思い切り普通。
 麺類なら当たり前な感じの食感と味。
 まあ、下手なうどんよか旨いか。でも、冷たい麺類ランキングで言うなら、最上位に素麺を据えて、蕎麦、冷やし中華、中華サラダ(それはどうだろう)と来て、きしめん、うどんぐらいだしなぁ。冷や麦は食べた記憶がないのでどこに入るか知らない。
 小腹を落ち着けるにはベストな感じで、店を出る。
 ――やっぱり雨上がらず。
 後は一目散に、地下鉄へ走って行った。
 地下鉄駅到着がおおよそ一時過ぎ。まあ、三時から株主総会だと考えると、そして空模様を考えると、名古屋駅でウダウダしているしかないわな。

 という訳で、名古屋駅でウダウダする事に決定。
 ブラブラと歩いていると、目標のホテルらしき名前を発見。いや、違う、名前が微妙に違う。けれど、ふとポスターに目が留まった。
「名古屋名物バイキング」
 別に名古屋の名物がバイキングな訳ではなく、名古屋名物の食材のバイキングなので間違えないよーに。
 何か色々名産食物があると言われながら、胃の容量の限られている我が身を思えば、少量様々な種類が食べられるバイキングは打って付け。
 しかもランチバイキングなら二一〇〇円で、名物巡ってハシゴするよりは安上がりというもの。
 時間を確認して、明日行く事に何となく決定。
 その後、ようよう目的のホテルを発見した後、三省堂で『ICO』のノベライズ(宮部みゆき)を立ち読みしたり、自分の本が置いてあるのを確認したりで時間を潰し、いざ株主総会へ。

 勝手知ったる株主総会、ずかずかとホテルに入る。
 入ると、ホテルの従業員が、
「ゲオ様の?」
「はい」
 で、脇のエスカレーターを指示され、進む進む。
 会場前に、受付がしつらえてあり、議決権の用紙と、株主出席票を交換する。
 あれ、ゲオの場合、出席票は名札型で、首からかけるんだ。色もゲオのロゴ色である黄色で、何だか金掛けてる風だなぁ。
 それから、一緒に紙袋を一つ貰った。
 中には、長方形の箱と本一冊。
 箱の方は――おおっ、噂の美白美容液、DHCバッファウォーター! 先行販売(販売違う)という訳だ。定価三一五〇円な訳だから、結構なもの。
 そして、本は――『ゲオの商法』?
 ああ、会社のヨイショ本か。
 別にいらないけど、まあ。でもハードカバーで重い。
 総会の会場は開いていたけれど、まずは控え室へ行く。
 そこで、微妙なセルフサービス(説明はしてくれるし、カップは用意してくれるけど、注いではくれない)で紅茶を飲む。
 置いてあるテレビに何の映像が映っているかと思ったら、総会の会場だった。
 まあここで茶を何杯も飲む気はないので、早々に会場へ。
 会場は――。
 広い!
 これは広い。
 いわゆるパーティーなんかに使われるであろう、大宴会場。
 松屋フーズの総会の二倍ぐらいあるんじゃなかろうか。
 そして、株主席には椅子と長机が並べてあった。テーブルには緑の毛氈(テーブルクロスでいーじゃん)と、ホテルのロゴの入ったでっかい下敷きみたいなもんが置いてあった(正式名があるのかも知れないが、知らん)。
 松屋フーズは卒業式風だったが、こっちは大学の講義風だわい。

 空調が効きすぎだなぁ、とか思いつつ、ぼんやり待っていると、総会開始。
 緊張がありありと見える新社長の音頭で、まずは故遠藤社長(先日事故死した)へ黙祷。
 それから、一通り議案や業績の内容の説明を口頭やらビデオやらで説明した。
 どうも、社長の死去に伴い、大幅な組織再編が行われる様子。ブレインだった二人が、社長と社長室長になり、前社長の息子が社長副室長になるとの事で、今後の展開が気になるところだった。
 それから、株主の質疑応答に入った。
 社長の死去と、ここ最近の株価低迷について、もめるかと思ったのだが、別にそういう事はなく、唯一もめたっぽいのは、『ソフトがヤマダデンキより高いのはどうしてだ』と、質問していた株主ぐらいだった。
 「ゲオは在庫を抱えるリスクを避けるために少数を仕入れるため、大量仕入れのヤマダデンキほどの値引きは出来ない」という答えを貰って、「理解できない、どうして高いんだ」と食い下がるのは、流石に仮に悪意がないとしても、経済の基礎知識不足という気がする。
 さて、そういう質問を強制的に打ち切った後、少々強引気味に採決は終了。別に総会出席者の株数なんて、全体の三割にも満たないので、どんなにもめていたって通ってしまうのだけど。
 かくして総会は終わりぬ。
 社長曰く。
「さて、三〇分ほど休憩を頂きまして、経営近況報告会を行います。休憩室には、軽食が用意してあります」
 ――へ?
 懇親会はない筈だったが、こういうスケジュールになっているのか。
 しかし軽食が出るとは、期待していなかった分、驚いた。
 で、いささかのんびりと会場を出て、クロークに荷物を預けて休憩室に向かおうとすると――。
 片方の部屋で人が一杯になったらしく、ちょうどもう一方へ移動が始まっていた。
 そして、ちょうどその先頭辺りに紛れ込む事に成功。
 ほどほど狭い部屋に、立食形式のテーブルが十ぐらい並び、料理は主にサンドイッチ類が並んでいた。
 この後名古屋名物を食べたいし、わざわざサンドイッチを食べるのも何かとは思ったが、喰わねば損なのでサンドイッチを二つ三つに、一口サイズのハンバーガーなんぞを取って食べる。
 ――と。
 うめえ。
 おい、これ旨いぞ。
 肉しっかりしてるし、パンもいい具合だし。
 侮りがたし軽食。メニューを絞ってうまいもんにするとは、ゲオ、やる(そういう意図があったかどーかは知らんけど)。その後、ケーキも旨く、何だかかなり満足してしまった。
 度々引き合いに出すが、松屋フーズの懇親会とは、やはり一段質が高かった印象だった。

 経営近況報告会は、今後のゲオの方針を説明する会で、故遠藤社長の出演した経済の番組を流していた。
 難しい事は分からないが、ともかく基本的に、故遠藤社長の方針を大きく変える訳ではない様子なのは分かった。
 その後の質疑応答では、ネットで騒がれていた故遠藤社長の遺産相続の質問も出たが、「善処します」みたいな答えしか出ず、貴重な情報を得たという感じではなかった。
 何はともあれ、なかなか興味深かった。
 それからもう一つお土産を貰って、会場を後にした。お土産は会場になったホテルの菓子だったが、あんなに立派な袋に入れられても困る。勿体ないけど、袋は捨ててしまった。

 全部が終わったのが、五時頃だった。
 まあどこに行くにも遅すぎる時間ではあるが、折角一日券を買った事だし、とばかりに地下鉄で名古屋港駅へ向かった。
 水族館が営業しているかどうかは疑問だが、どうせ一日券だし交通費はかからないし、何と言っても特に他に行く場所が思い浮かばない。
 時間のせいか場所のせいか、名古屋港に着く頃にはほとんど乗客はいなくなっていた。 地上に出ると――やっぱり雨。
 相変わらず雨足が弱まらない。
 でも、地下鉄出口からすぐ、水族館っぽい看板が見えたので、雨に濡れながら走る。
 しかし、ひとけがない。
 ほとんどない。
 土産物屋も、何だか寂しげ。
 食い物屋の集まった建物も、客なんて数えるほどしかいない。
 あー、やっぱり終わってるんだろうなぁ、と思いつつ、港側へ出ると――。
 赤い――いや、オレンジ色かかった船があった。
 んー、どっかで見たような――。
 船体には「ふじ」。
 そう、南極観測船「ふじ」だ!
 なんだ、こんなとこにあるのか。
 ほえー。
 しかしどうして一目で分かるのか、それが不思議だ。
 なんか小さい頃から、何かに付けて見ていたんだろうか。ううむ。
 なかなかでかく、立派であった。
 思わぬ収穫に気をよくして、帰途についた。
 ――水族館?
 閑散期は五時半終わりだってさ。

 相変わらず雨は止まず、地下鉄でそのまま栄駅まで戻った。
 栄駅地下で夕食をとろうと思ったが、今一つ混み合った店や入りづらい店ばかりで、ブラブラさまよい歩くうちに脇の地下街へ紛れ込んでしまった。
 ほどほど寂れた地下食堂街で、ふと見ると「ひつまぶし」の名が。
 おっ、悪くない。
 入口から中が伺える程度の店で、変に高級店っぽくもなくて、客も少なく入りやすい。
 入って、上ひつまぶし(千八百円ちょい)とビール(四百円)を頼んだ。
 そうそう、ビールの銘柄をキリンかサッポロか訊かれたので、サッポロにしておいた。
 ビールを飲み、総会で貰った『ゲオの商法』なんぞを読んで時間を潰すうちに、ひつまぶし、やって来た。
 おひつに入ったうなぎご飯と、出し汁と、ワサビにネギと、漬け物に吸物。
 早速セオリー通りに食べてみる。
 まずは、そのまま。
 ふむふむ。うなぎご飯だ。
 次、薬味を使って。
 ふむふむ。うなぎご飯だ。
 最後に、出し汁をかけて。
 かけて……。
 かけ……。
 器熱いわ!
 取っ手とか付いてないし。
 仕方がないので、ハンカチを使って持って、茶碗に盛ったうなぎご飯にかける。
 軽くワサビを入れて、と。
 ずるずるずるずる。
 ふむふむ、茶漬けとは違って、しっかり味が付いている感じ。ウナギは元来脂の強いものだから、ワサビを入れた方が合う。
 後は、残ったうなぎご飯を主にワサビを添えて喰うべし、喰うべし、喰うべし!
 ふー、ごちそうさま。
 しかし何だな、ひつまぶしは、三通りの食べ方を標榜しているけれど、第一と第二は、分けるもんじゃないのではないかな。
 薬味を使う使わないで分類されてもねぇ。
 で、喰った全体的な感想としては、ウナギはウナギなりに旨い。でも、目からウロコが落ちるほど旨くはない。普通!
 張り合いがない?
 いやぁ、世の中には本当に目からウロコに旨いものもある訳だしさ。いーじゃん。旨いはその時にとっとけば。
 そうさね、今までそういう旨いは、イクラ丼初めて喰った時が一つ。学食で天丼喰った時が一つ(あんなにぞんざいなのに旨かったので)。後はツナマヨのおにぎりかな。
 ……って、みんな大学時代か。
 まあ、自分の金で食事するようになったのって、あの時からだもんなぁ。


<二十六日>
 さて最終日。
 マクラが変わるとロクに眠れないのは世のならいで、やっぱり半端な早い時間に目が覚めた。
 洗濯したシャツと下着は、どうやら着られる状態にまで乾いていた。
 テレビをつけたら、実写版セーラームーンがやっていたりしたが、まあそれはそれとしてゴロゴロする。そういえば、名古屋の番組は、キー局にかなり近い。
 ゴロゴロしているうちに、目が覚めたのでショートショートを書き始める。
 チェックアウトが十時なので、それまでに書き上げようと思うが、今一つ進まず。
 テレビを見たり、ゴロゴロしたりを続けるうちに、九時になってしまった。
 その辺りでようやくアイデアが浮かんだので、ガリガリ書いて九時半頃に完成。
 後は急いで荷物をまとめ、チェックアウトした。

 やっぱり今日も雨。
 新幹線の出発時刻は十四時ぐらいだから、晴れていればどこかに行けない事もなかったが、これでは仕方がない。
 無理して水族館へ行く事も出来ない訳でもなかろうが、親子連れでひしめく土曜日の水族館に行くぐらいなら、真冬の江ノ島にでも行く方がマシだ。
 そんなわけで、名古屋駅へ行こうとして、栄の地下で迷いかけたりしたが、それはそれ。
 名古屋駅へ到着。
 朝飯を食べようかどうしようか迷ったが、何だか十時過ぎているのでホテルの名古屋名物バイキングでブランチにしようと画策。
 バイキング開始の十一時まで、本屋で立ち読みしたり、土産物を見たりして過ごす。
 ようやく十一時になったので、ホテルへ行く。
 入口から見える位置にエレベーターがあるという、実に有り難い構造のお陰で、さしたる抵抗なく入る事が出来た。
 そして目指すはバイキングをやっているレストラン。
 エレベーターから降りると、客が既に何人もいた。
 ウェイターだか支配人だかが、客を通していて、大体いなくなった辺りで声をかけると、満席との事。
 一時間ぐらいかかる、と言われたが、何かもう意地になったので、それでも良い、と、予約して時間を潰す事にした。
 朝飯抜きで歩き回るのは、ぶっ倒れそうではなはだ危険であるが、まあ仕方がない。
 雨も少し弱まってきたので、駅前散策に出た。
 栄のあるのと反対側に出てみると、初っぱなフーゾクのビル。
 というよりも、そればっかしだ。
 そりゃあ繁華街にフーゾクは分かる。でも、県庁所在地の駅の真ん前ってのはどうよ?
 更に進むと、ようやく普通の商店街に当たった。
 けれど、土曜日の昼だというのに、閉まっている店がいっぱい。厚木の商店街に近いが、もっと面積は広く賑わってはいない感じ。
 何というか、観光を産業として見なしていない土地なんだなぁ。
 面白そうなものがありそうでない商店街をつらつらと見ているうちに、ほどほどの時間になったので再びホテルへ。
 ほどなく、席が空いた。
 さて中は、と。
 レストランの一画を区切ってバイキングの会場にしている雰囲気。大分こぢんまりしている。
 でもまあ、喰えば官軍。
 片端から少しづつ食べて行く。
 味噌カツ、エビフライ、赤味噌のアサリ汁、名古屋コーチンのスープ、赤味噌ピザ、あんかけオムレツパスタ、天むす、ひつまぶし、きしめんサラダ。
 ふむふむ、どれがベストかというと、エビフライかも知れない。どういう揚げ方かは知らないが、頭から尻尾まで何の抵抗もなく食べられる。旨い。
 一通り食べた後、誰も手を付けないメニューに恐る恐る手を伸ばしてみた。
 それは。
 ビーフカレー。
 食べ放題のカレーと言えば、無為に腹をふくれさせる悪魔の誘惑なんだが、でも……ホテルのカレーだし。
 茶碗に一杯だけ喰う。
 うん、牛肉しっかり入ってて旨い。ただ、ちょっと子供向けに辛さが控えめか。
 と、すっかり腹がふくれ、満足して会計――を支払う場所がないので、少々ウロウロしたが、つつがなくその辺の店員さんに支払ってホテルを後にした。
 もう一つ名物があったんだけど、あれは流石に食べられなかった。
 ――小倉トースト。
 バイキングなのに、あんな甘そうなの食べたくないっつーの。

 その後、土産を買って、新幹線の発車時刻までの間を、『ICO』の立ち読みで潰し、とうとう『ICO』を読み終えてしまいましたとさ。
 変な体勢で読んでいたせいか、背中とか肩とかえらく痛くなったけど、良い話だった(なら買っとけ)。

 家に到着したのが五時前だった。
 ……よく考えると日帰りできる距離なんだな、名古屋ってぇのは。




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