思い立ったが随筆


 日々思う由無事を書き連ねています。



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2006  5月  6月  7月  8月

2006/9/29 『遠くへ行きたい……って訳でもないんだが ナムコ新製品発表』
 国際展示場で、ナムコの新製品を見て来た。
 あの、モグラ叩き発展形の、ワニワニパニックのキックヴァージョンであるところの、ヘビヘビパニックだかなんだかそんなタイトルのヤツ。
 行って来ました、第33回国際福祉機器展 H.C.R2006!
 ――ゲームショーと誤認していた観客のみなさん大笑い、掴みは超OK!

 バイト先の介護施設に、これでもかってくらい案内葉書やチラシが届いていたので、ちょいと行ってみる事にした。
 何しろタダだ、うん、タダだ。タダより安いものはない、ダダより強いものはウルトラマン(タダとダダをかける、人類発祥以来一億人ぐらい思い付いていそうな、古き良き懐かし駄洒落)。
 「介護用品?」と思う向きもあろうが。
 今やアレが発明されているのだから、モビルスーツのご先祖様のロボットスーツが!
 あれの用途は、介護用と言われている。実際、障害者の人を負ぶって登山に連れて行ったという実績もある。
 もしも出ていたら実に面白げじゃあないか。

 当日、図書館に寄った後、横浜のリオでちょっと早い昼食を済ませ、国際展示場駅へ到着。
 ……何となく人が多いなぁ。それから、車椅子の人用に、駅員さんが乗り降り用のスロープを用意している。
 それから、改札口へ行くと、精算待ちの行列が出来ていた。
 「本日は混雑が予想されます、お帰りの切符をお買い求め下さい」てな放送も流れている。
 ん?
 なに、混むの?
 福祉機器展って、そんなに客呼べるイベントだったっけ?
 それとも、別のホールで大人気の別イベントをやってるとか?
 分からないまま、正面の階段を昇って二階入口から入ろうとすると、福祉機器展と、セブンイレブンの新作発表会(関係者のみ)の看板が。
 これは、どちらかと言うと、福祉機器展の混雑だなぁ。
 中に入ると、やはり結構な人。
 コミケ並とは言わないが、なかなかに人通りが多い。当然のように、車椅子の人も多い。
 受付を済ませ「福祉施設・老健施設」の識別シールを貰って、いざ、会場の東館へ。

 ロビーが人でごった返している。
 中は、各社ブースが作られ商品を展示したり、モノによっては販売したりという、良くある形態。
 まずはベッドや入浴関係。
 ベッドとマットが各社並んでいる。
 触るよねー、マットは触るよねー。
 一つ一つ触って歩く。
 知らない人に言っておくと、マットと言っても、介護用は綿が詰まっている訳ではない。人間、どこかを押さえっぱなしにしておくと、その部分の血が通わなくなって抵抗力が落ちるわ湿気が細菌が繁殖させるわで壊死し始める。健常者であれば、そんな状況はあり得ない。一日寝てたって、何百回も寝返りを打つのだから、押さえっぱなしにはならない、けれど寝返りの打てない人の場合はそうはいかない。一日車椅子に座っている人はそうはいかない。
 と、それを解消するために、圧迫しないように適度に柔らかく、細菌が発生しないように風通しの良い素材を、各社開発している訳。
 やはり色々な感触がある。
 ただ、ベッドよりも、車椅子用の座布団の方がヴァリエーションが多い気がする。
 中で目を惹いたのが、シリコンのような素材の座布団。
 板を組み合わせたような格子状で、確かに上から押すと座れるぐらいの弾力があるのだが、こう、手に持つとだらりとなるぐらい柔らかい。分かりやすく言うと、ダリの「記憶の固執」の時計みたいな感じ。
 こんな素材の座布団あるんだねぇ、高そう。
 ベッドは、電動で起き上がるというギミックが付いているのは、何一つ珍しくないのだが――これも進歩していた。
 従来の起き上がりのベッドは、何だかこう、人間を二つ折りにしようという悪意が見られる訳だが、新しいものだと腰が沈み込みながら背中が上がる。つまり、分厚い物(雑誌とか)を二つに折ると、折り目の部分は素直に角にならずに外に膨らむが、それを受ける余裕があるという事。
 他に、掛け布団跳ね上げ装置というのがあった。リモコン操作のアームのようなものでぐあーーっと掛け布団が持ち上がるのだが……これは、どういう状況を想定しているのか、も一つ分からない。暑い寒いを自分で調整するとか、そんなのかな?
 他にベッド周りには、「ベッド上での移動を楽にするシート」みたいなものが紹介されていた。
 これはつまり、ツルツルした二枚の布の上に乗っかると滑りやすいからすぐ動くという理屈。老老介護で、ベッドに寝かせた身体のでかい要介護者を「ちょっと場所を調整したいな」なんて時に使うイメージか。施設の場合、職員の技術と体力がそれなりにあるので、あんまり必要な感じはなく、むしろそのシートを入れたり出したりを面倒がりそうで、こういうのが家庭と施設の差かも知れない。

 生活用品類を扱っている団体のブースでは、面白雑貨、アイデア雑貨とでも言えそうなものが揃っていた。
 片手用ビンオープナーに、片手用爪切り、片手用包丁。
 片手用爪切りというのは、爪切りを固定してあるだけかと思ったら、てこの原理を使い「台を押さえると、爪切りの刃が下りる」という形になっており、本当に片手で操作出来るようになっていた。なるほど、実物を見ないと分からないものもある。
 包丁は、先端が固定されて(当然、片手で外せる)みじん切りなんかがし易そうなのと、包丁の刃と取っ手が平行に付いていた、いわゆる「ファンタジー漫画の異種族が使っている武器」っぽい形状のがあった。刃と取っ手が平行というと分かり難いが、要するに通常の包丁が、もう片方の手で材料を押さえてから「スパリと」切るのに対し、平行タイプは真上から「ザクリと」切る。つまりカタールと発想は一緒である――カタールで通じる相手がどれだけいるのかは知らない。

 靴屋もある。
 介護用の靴というのは、履き脱ぎし易い事、それでいて脱げ難く転倒し難い事が大事である。紐靴は前者に当たらないので使えず、調整機能のない革靴やパンプスは後者に当たらない。で、これを実現する為にはマジックテープを使った「いかにも」な代物になってしまう。
 マジックテープというのは、どうして品物を安っぽく見せるのか。発明者のジョルジュ・デ・メストラルも泣いているぞ。
 そんな訳で、マジックテープの存在を匂わせない靴がいくらか。
 一見普通の革靴だけど、こう、上の部分がマジックテープで剥がれて開くとか。
 なかなかカラフルな靴もあり、工夫や努力の跡も見られるがしかし、普通の靴屋に並べたら明らかに浮くであろう事は想像に難くない。諦めるな、ユニバーサルデザインの夜明けは近い。

 介護事業には、レンタル業も入るのだなあと再認識したのだが、「マット洗浄機」なるものも展示されていた。
 ベッドに敷くマットを丸洗いする装置で、マットが丸ごと入るサイズだから、中で人が横になれるぐらいでかい。
 介護施設ではあり得ないけれど、介護用品レンタルなら確かに自前で洗わないといかんのよなぁ。失禁とかで汚れる事だって多々あろうし……。

 手すり類も当然ある。風呂桶に設置する手すりに工事不要型っぽいものがあった。
 これは結構良いかも知れない。
 無論、しっかり締めないとガタガタになったりしそうだが。
 手すりというと、突っ張りポールを縦にしたような手すりの実演をしていた。
「設置簡単で、頑丈、安全、これだけでベッドからの立ち上がりが出来てしまう」
 本当に実演販売風だった。
 そもそも何らその認識に間違いはないのだが。

 読書関係のものもいくつか。
 まずは、本を拡大する機械。
 読みたいものを置いて、テレビ画面で拡大するもの。置いた台は比較的自由に動かせるし、拡大率は変えられるし、カラーと白黒の切り替えや色の反転も出来る。ディスプレイに映った文字を読むのは少々難しい気もするが。これ、初めて見たものだったが、同種の機械を何カ所かのブースで見かけたので、結構メジャーなものらしい。
 それから、これもメジャーには違いないのだろうけれど、初めて見たのが「点字ディスプレイ」。
 点が盛り上がったり引っ込んだりして点字を形成するもの。理屈は簡単だが、実際にモリモリ点が動く様はなかなか面白い。
 かなり愉快だったのが、ページめくり装置。
 セッティングされた普通の本のページを、ボタン操作でめくる。本当にぺらりとめくる様が、なんか頑張ってる感じで微笑ましい。
 音声識別出来るようになれば、一般にも売れそう。本を見ながらお料理が簡単に――まあページをめくらなければ全貌を見られないレシピ本というのは、編集の仕方に問題があると言えなくもないが。
 これは割とスペオペ風未来の道具って感じだよなぁ。

 点字ブロックも展示されていた。
 なんか、これって、こういう風に取り扱うもんなの?
 公共事業で談合で赤坂でどんちゃん騒ぎで、とかそういうイメージで売買されるものかと思ってた。

 見ているうちに、耳に覚えのある商品や企業名を見かける事があった。
 バイト柄当たり前なんだけど、部外者感がなくてちょっと良いかも。
 ――部外者感を覚える事多いからねぇ、この企画は基本的に。

 会場内を歩きつつ、見物人の識別シールを眺めていると、施設関係やら一般やら何やら色々分類がある。
 ヘルパーさんと思しき紫のシールを付けていたのは、やっぱり中年女性ばっかりなんだなぁ。
 会場の端では、フレンチドック屋とパイ屋が店を出していた。フレンチドックって何だろ。
 当然、行き交う人に車椅子の人も多い。かなり混雑しているのだが、結構スイスイと通っていく。そんな中、寝転びながら動く……つまり、電動車ベッド? を使っている人がいた。ストレッチャーではなく、リクライニングの介護用車椅子(介護用車椅子:介護者がいないと動かせない車椅子。自走に必要な装置が付いていない)に近いような、そういうのもあるのか、これは驚いた。
 親子連れもいたが、ここに子供を連れて来ても、子供的には何も利点がはないような気がするけれど。預ける先がなかったのか、それとも何か子供の為になるものがあるのかな? 子ども広場とか用意されてはいるけれど。

 一通り見たので、向かい側のホールへ移動する。
 こちらは、車両なんかが置かれていて、比較的大きいブースが多い。
 トヨタとか三菱とかの介護用車両が色々と。
 そんな中、「考えてるなぁ」と思ったのが、ステップの角にLEDが仕込まれた介護車両。
 そうなんだよ、暗いんだよ。
 デイサービスは、帰りは夕方になる。日の長い時期は良いけれど、日が短くなると真っ暗。従来品でもドアを開ければ照明は点くけれど当然充分ではない。ステップが光れば利用者にとっても――いや、むしろ介護者にとってかも知れない――安全だ。
 それからもう一つ「夢の車椅子5台搭載型」の謳い文句付きの車両。
 夢の、そう、夢のだねぇ、それだけ乗ったらさぞかし楽だろうなぁ。そういうところに夢という言葉を使うのもどうかとは思うが。
 ……でもね奥さん、カタログスペックを鵜呑みにしちゃあいけないよ。
 車椅子ってのは、モノによってサイズ違うんだから。横幅も縦幅もね。
 多分、送迎車両というのは、そういう発想で発展させるべきじゃない気がするんだよなぁ。
 施設にいて送迎車両に一番大事だと思うのは――代車。
 トヨタが悪いのか業界全体の問題なのかは知らないが、送迎車両はしばしば故障する。その修理には時間がかかったりかからなかったりするのだが、その間の代車は自前で用意するしかない。
 壊れない機械はあり得ない、けれどその機械は顧客にとって一日も欠かせない程重要だ、そして予備を用意する余力は顧客にはない。だとしたら、代わりを販売業者か修理業者が用意してくれてもバチは当たらんと思うんだけどなぁ。
 新規参入業者がそういうサービス始めたら、あっという間に顧客が流れると思うんだけどねぇ。例え、一ヶ月に一度壊れる車両だとしても信頼される道理だ。

 そろそろ疲れたなぁ、でも昼飯はちゃんと済ませておいて良かったなぁ、と思いつつ、耐震関係の設備のところを見ると。
 免震装置の実演のようなものをやっていた。
 装置の上に人を座らせて、ナマズが地震を起こすんだが――。
 ナマズ?
 さかな君風にナマズを装備した、ワイシャツネクタイの人間。

 ヘンなナマズ出たーーーー!(最近自分一人が発見した、今後伸びに伸びて誤変換の本が二冊ぐらいは出るに違いないサイト『僕が見た秩序』風に)

 ……まあ当然、こういうネタにされる事を踏んでやってんだろうけど。
 しかし哀しいかな、会場は撮影禁止なので、写真が流れる事はないのであろうなぁ。

 車椅子のブースもいくつかあったが、試乗用の坂を作ったりしてあり、なかなか大がかりだった。
 動力付き車椅子というのはあるが、車椅子に付ける動力もあるようで、そいつを前面に付けるとスクーター風になる。こういうのは初めて見るなぁ。

 ナムコの出展があった。
 介護現場で、レクリエーションやリハビリの為にゲームを使うというのは、よく報道で取り沙汰されていたから、意外ではない。
 で、新作として出ていたのが、ヘビヘビパニック(名前うろおぼえ)。
 座って出来るように、座って蹴る形になっている。
 しかしよく考えると、足もとに来る蛇を蹴って追い払うって、蛇嫌いの人には嫌な嫌なシチュエーションな気がする。ワニ嫌いの人にはワニワニだって一緒? いや、リアル過ぎるじゃん、足もとの蛇ってのは。
 他に、コナミもあったが、こっちはゲームというよりフィットネス部門が出張っている感じで、ゲーム色は薄い。
 他のメーカーで、体験プレイをやっていたのがスキーゲーム風のツイストリハビリ装置。
 腰捻りのリハビリ装置に、スキーの大回転ゲームを組み合わせる、アルペンレーサーの腰捻り版みたいなヤツ。プレイすると、右へ左へと腰を嫌でも回す事になる訳だ。発想は良い気がするが、コースがかなり単調かつスピード感がない。フラッグの通過のみならず、コースをうねらせる事で反射的に腰を動かさせるとかすると、もっと良くなったかも知れません。もう少しがんばりましょう(謎の先生風)。

 建築系のものになると余計に大がかりになり、ドアやエレベーターが展示されていた。
 エレベーターの展示。
 どんなんだ、と思うかも知れないが、本当にエレベーターの展示。
 こう、エレベーターの筒が二階分ぐらい用意されていて、そこを上り下りさせていたり、蛇腹式の動力部が箱を持ち上げていたり。
 大がかり過ぎるぞ、おい。
 亜流に、エレベーター式に下がるベランダというのもあった。緊急避難用らしいのだが、どこまで本気で売ってるんだろう。要介護者を脱出させる目的だとしたら――根本的な間違いをしていないか。
 要介護者の部屋は……一階の事が圧倒的に多い。知らない人の為に言っておくと――という程の事もない、その方が介護をするのが楽だから。食事一つ取っても、お盆を持って階段を上がるか、要介護者の手を持って階段を降りるかしなければならない訳で。

 すっかり見終えたが、なかなかに面白かった。
 出発前は、ついでに上野でダリの絵でも見ていこうかと考えていたのだが、そんな時間もないぐらいだった。
 どうして面白いのかなぁ、と考えてみると、要するに、これは要介護者の生活に関わるもの全ての展示だからだ。
 人間の生活を、快適に楽しく過ごせるようにする様々な商品が展示されているという事は、どこかしら人の「楽しい神経」を刺激する部分がある。服が好きなら衣料に興味を持つだろうし、寝るのが好きなら布団やベッドに興味を持つだろう、食にこだわる人にも食品系の展示がある。そして、それらのある意味最先端のものが用意されているのだ。
 もっと時代が進んで、ユニバーサルデザインとか、バリアフリーなんて言葉が要らなくなるぐらい当たり前になったら、この展示会は存在意義がなくなるんだろうなぁ。
 あ、ちなみに、ロボットスーツはなかった。一般的になるのは、まだ先らしい。

<費用>
交通費:1800円(海老名―300―横浜―280―大井町―320―国際展示場)
昼食:550円(チキンカレー、サービス券でコロッケ)
駐輪場:100円
計:2450円



2006/9/22 『遠くへ行きたい……って訳でもないんだが非該当版 5000円未満、彫刻の森』
 要するに設定として、旅行で海老名に来た人なのである。
 旅行者というのは、えらい強行軍で観光地を巡るもの。
 日光の二日後に油壺というも、やっている人がいる可能性は充分ある。
 だから、小田急沿線ぐらいの人は、旅行で親戚か友達が来た際に「どっか面白いとこある?」と聞かれた場合、これらを参考にお薦めすると良いような悪いような。

 今日は箱根の彫刻の森美術館である。
 これで、小田急線の両端、相鉄線の端っこ制覇。
 JRが残っているが無視。もう一カ所行くには金が足りない。特別に金を下ろしている訳ではないので。
 油壺行きの時に、候補の一つとして挙げていたのが箱根であるのは、前述の通り。
 で、箱根でお手頃な場所と言ったら、やっぱり彫刻の森美術館である。
 何しろ駅から三分と歩かない。
 敷地はそりゃあ広いが、たかが知れている。要するに歩くのが楽。
 そうと決まれば、切符をどうするか。
 箱根は観光地であるから、お得な切符も、フリーパスが二種類に、クーポンが一種類出ている。
 「箱根フリーパス」は、小田原までの往復、登山鉄道、ケーブルカー、バス、ロープウェイ込みで4240円、「天下の券」はロープウェイ別、小田急別で2000円、そして彫刻の森クーポンは3030円の1600円相当の入場料込み、と。
 大涌谷の見物かぁ、と考えつつ、計算をしてみると。
 必要最低限の交通機関を使うだけだと、実は彫刻の森クーポンの方が安上がりな事に気付いた。
 そもそもフリーパスは、あの広い箱根を縦横無尽に観光する事を想定したチケットだし。
 どうするかなぁ、と考えたが。
 まああっちこっちウロウロしないで、彫刻の森だけ見て帰る事にしようか。そうしたら、クーポンで何も迷わないし。
 そもそもロープウェイ(往復1470円)もケーブルカー(片道410円)もかなり高いのだ。その投資に見合うだけの見物をする元気と金銭精神的な余裕がない。
 ああ、ちなみに、定価で行くと、交通費往復2180円の入場料1600円で合計3780円。クーポンはほぼ二割引の計算か。

 そして当日、十時三分発の箱根湯本行きを狙って、海老名駅に九時五十分頃到着した。
 券売機を確認したが――。
 フリー切符はあるが、クーポン切符がない。
 窓口かっ。
 窓口に行くと、前に二人並んでいる。
 その間に、話を早くすべく、クーポンのチラシを見つけて取っておいた。
 しかし、思いの他前の二人が遅い。
 ようやく順番が回って来て……。
「チラシのこのクーポンをくれたまえ」
「出発は海老名駅ですね」
「いかにも」
 というようなやり取りの後、行き、帰り、入場券の三枚のチケットが発行された。
 時間は……十時過ぎ。
 やった、間に合った!
 これ逃すと十時十九分だから、危ういところだった。
 一路箱根湯本へ。
 小田原に到着し、ホームが前一両分しかない風祭なんぞを経て、箱根湯本に到着した。
 地続きで、箱根登山鉄道のホームがあるので、そちらで強羅行きを待つ。
 近場なので、あんまり久しぶりな気はしないし、駅の構造も何となく覚えているのだが、よくよく考えると箱根湯本まで来るのは随分久しぶりの気がする。小田原までは、新幹線に乗る関係で利用する事が幾度かあったが。
 明確に覚えているのは、高校の部活の先輩たちと彫刻の森美術館に行った事だが、とすると十年も前になってしまう。それ以降一度ぐらいは来ているのかも知れない。
 程なく強羅行きが来たので乗り込んだ。
 立っている人もいるにはいたが、流石にシーズンオフの平日、繁忙期(立つ場所がなくなるほど混む)とは比べるべくもない。
 箱根登山鉄道が出発し、景観のガイド放送が流れ始める。ダイヤきっかりの日本だから成立するサービスだよな、これ。三〇秒もずれたら、「右手をご覧下さい」みたいな台詞がみんはマヌケになってしまう。
 あじさい列車の異名の通り、あじさいの生えている各所にライトアップ用のライトなども見えたが、当然花はなし。新緑と呼ぶにも時期は遅く、紅葉にはまだ早い。さほど見るべき景色もないかなぁ、と思ったら。
 土手を彩る紅色が。
 曼珠沙華もしくは彼岸花が一杯に生えていた。
 言われてみれば、明日が秋分の日、彼岸のど真ん中ってヤツだ。
 盛りの短さを考えれば、逆に得をしたとも言える。
 座った席が、前――というか後ろというか(注:箱根登山鉄道は急斜面を登る都合上、前進と後退を繰り返して切り返しながら登る「スイッチバック方式」を採用している。さもないと山をぐるりと一回り、なんて事になってしまう)ともかく端っこだったので、線路がよく見える。
 ものすごいカーブとか傾斜とか、昔の風情を残すトンネルに入るところ出るところとか、正しく世界の車窓からって感じだ。
 走るスピードはやはりのんびりで、平坦なところの列車が「がたごと」だとすると「がったんごっとん」ぐらい。しかし、カーブは急なので、妙な遠心力がかかり、横座りのシートは少々辛い。前向きに座っとくんだった……いや、前後が入れ替わるから、それも快適とは言い難いか。
 ようやく彫刻の森駅に到着し、数人の客と共に降りた。
 駅員さんに切符を渡して外に出る。
 店の前に、そば屋とラーメン屋と中華屋があるが……どうしたもんかねぇ。
 見るからに高くて不味そうだし。
 不味い分にはさほど文句を言う気はないのだが、高いのが。繰り返すが、あんまり金を使う精神的な余裕がないし。
 ということで、さっさか彫刻の森美術館に向かう。

 ちょいと歩くと、すぐ彫刻の森美術館に到着した。
 入り口付近はあんまり覚えてないなぁ。
 えーと、どうだったっけなぁ、と、受付のお姉さんにチケットを渡し、中に入る。
 初っ端下りのエスカレーターが。
 ……何となく覚えがあるな、これ。
 下りきって、トンネルのようなところをくぐって……これも覚えがある。
 おぼろげな記憶のまんまだやね、しかし。
 まずは、とてつもなくひとけのない、本館ギャラリーへ入った。
 モダンアート? っぽい、彫刻の類。
 耳とか椅子とか、一つ上に上がると人物像がいくらか。
 ギャラリーであることをあまり明示していないせいか、人は限りなく少ない。
 お陰で気楽に一つ一つ割と丁寧に見られたが。
 ギャラリーは見終えて、外に出て散策を開始。
 「弓を引くヘラクレス」があるなぁ。
 ……これって、確か上野にもあるんだよな。
 小学校の頃の教科書に、上野の美術館を見に行く作文みたいなのが載っていて、「考える人」とかこれとかをベタボメする内容だった。今思えば、小学生は多分、芸術作品に感動はせんのじゃないかなぁ。ナマの人間を見た方が感動し易いのではなかろうか。動くし、音出るし。
 何となれば、芸術は前提として何かを描写したもの。走る人、愛し合う人、苦しみ、痛み、笑い、災害、形而下形而上問わず、なんか作者が頭の中で捉えたものを映し出したもの。だとするなら、作品は見る者の記憶や感情を引っ張り出すトリガーと言える。花を見た事がない人が、ゴッホのひまわりを見たって、ただの色を塗りつけた板にしか見えない。鬼や桃の知識がない子供が桃太郎を聞いても、単なる一伝記として受け止めるだけ。そういう観点から言えば、知識量の圧倒的に少ない、つまりトリガーによって呼び起こされる記憶がまだない小学生が、そうおいそれと芸術作品に感動は出来ないのではなかろうか。

 夏の間によく伸びた芝生の中に、どかどか展示されている彫刻類。
 見たことあるような、ないような。
 東京の駅前辺りにありそうなものもある。
 しかし、やはりしっかり見てもよく分からないものが多く、一応分かっても「いや、『女』とかタイトル付けられて、たしかにそんな形はしているけど、可愛いとか美しいとかの感興も湧かないし……」みたいなものが多数。
 かつて印象には残っていた「断絶」なる、どくろがふんだんに使われた作品も、何となく不吉感はすれどもテーマはも一つ分からない。
 分からない分からないばかりなのだが。
 ただ、芝生の中に彫刻がどかどか転がってる感じは、やっぱり良い。何のことはない、風景の一部だと思えば良いんじゃなかろうか、とも思う。街角や、公園の中心に置かれているよりも、こういう場所で背景の山々もろとも見る方が良いような気もする。一つ一つには重要な意味や機能のある筈の建物や施設や人や鳥や動物が総じて「街並み」になってしまうように。
 次に、「幸せを呼ぶシンフォニー彫刻」、要するにステンドグラスの塔に登った。
 螺旋階段がステンドグラスに彩られた筒の内側を昇る。うーむ、階段狭いし、やっぱりなんか、足がすくむなぁ。高いところはやっぱりちょっと怖い。パンフによると、高さ十八メートルだそうな。例の高さですな。鉄の城とかそういうのの。
 屋上から周囲を見わたす。見晴らしは良いが、山々が目より上の高さに来るので、街でビルや塔に昇る程の「見ろ、人がゴミのようだ」感はないやね。
 長居すると怖いので、早々降りて、新しく出来たという足湯の方に行ってみる。
 足湯は、塔のすぐ近くにあり、横にずらりと並んで入る感じ。
 丁度、係員の人がいて「足湯は無料、タオルは100円」と幾度も繰り返していた。
 その係の人自体が、限りなく鬱陶しい感じがしたので、若干興味はあったがパス。
 少し歩くと、ガラスで作ったやけに小綺麗なスペースがあった。
 「恋人の聖地」とか書いてある。
 ……確か、ホームページでウェディングサービスがあるような事が書いてあったが、ここがチャペルって訳か。立入禁止でもなかったので、一応入って見物をしておいた。ガラスがふんだんに使われていて綺麗。
 ただ、こんなところで結婚式を挙げるのはどうかと思う。
 交通の便悪いし。
 次にピカソ館。
 この前来た時は意識してなかったけど、マタドールだのミノタウロスだの、牛肉かなにかが好きだったんだろうか、ピカソ。
 一枚、二階の壁のところにあるモノトーンのマタドールの絵が、なかなか良い感じだった。部屋に一枚あっても悪くないぐらい(何様?)。
 あらかた見終えたので、出口に行くと、「色と形と椅子」という特別展をやっていた。
 その名の通り、椅子が飾られていたが、これは本当に座れるのか、それとも単に椅子型の作品に過ぎないのかよく分からなかった。
 出口付近はミュージアムショップ兼用の建物で、レストランがあったのだが。
 片方は食べ放題の1680円、もう片方は居酒屋的価格設定の飲茶屋。
 よーするに今のお財布加減では手を出しにくいのでパス。

 結局、土産物を買っただけで、何も食べずに彫刻の森美術館を出てしまった。
 当然、山の中であるから他に店もない。箱根湯本か小田原でどうにかしよう、と、彫刻の森駅に戻った。
 彫刻の森駅は、来る時は気にしていなかったが、行きも帰りも同じホームから出るという、単線特有の構造をしている。のだが、向こう側にもホームとレールが見えるのは一体……閑散期だからかな。
 しかし閑散期と言っても、列車は一時間に四本きちんとある。無茶に待つ事もなく、帰りの列車に乗る事が出来た。
 その後、行きとほとんど同じガイド音声を流しながら、箱根登山鉄道は山を下って行った。
 箱根湯本で何か食べられるかと思ったのだが、ホーム内にそういう店はなく、小田原でようやく箱根そば屋に入る事が出来た。
 ここは、いわゆる半分駅の外、半分駅の中の駅そば屋。
 箱根旅行で箱根そばだから、間違っていないような気はする。新宿でも食べられるが。
 かけそばとビール、合わせて550円也。山の上での値段がアホらしくなる安さ。まあ、駅そばだから当たり前だけど。
 腹がふくれた後だとビールがまずくなるが、早く食べないとそばがのびるというジレンマを、「ビールをさっさと飲む」という方法で解決し、そばを食べ始める。
 具は葱とワカメ。
 駅そばの悲しさで、コシはあまりないけれど、そばらしいそばでつゆもそこそこ、なかなかよろしい。
 ……駅のそばなんて、食べるの何年ぶりだろうなぁ。
 小さい頃は、親に連れられて出かける時に、立ち食いそば屋に入る事は多かった気がする。自分はご飯党だったので、カレーを頼んだりするのだが、辛いし熱いしで辟易していたところに、卵を入れる事を教わり、しばらくはカレーに卵が定番だった。
 その後しばらく間があり、大学になって食事を自分の意思で決められるようになった頃には、コンビニが一般化して、駅そばよりも安い学食なんかもあったりで、続いて牛丼屋やらファーストフードやらの値下げ合戦があり。結局疎遠のままで来てしまったんだなぁ。
 こうして、そこそこ腹が膨れた感じで、海老名に帰ったのであった。

<費用>
交通費・入場料:3030円(彫刻の森美術館クーポン)
昼食:550円(かけそば:250、ビール:300)
おみやげ:682円
計:4262円



2006/9/19 『遠くへ行きたい……って訳でもないんだが非該当版 正味約5000円の油壺の旅』
 休みはまだ続くので、さて、今度はどこへ行こうとネットを調べた。
 条件としては、あまり金がかからず、あまり歩かずに済み、面白げなところ。
 といっても、出発する始点は海老名駅なので、いきおい相鉄線、小田急線、JRに限定される。
 手頃そうなのは、箱根辺りで彫刻の森やら大涌谷やら、という線なのだが、これ、ロープウェイとか使うと意外に金がかかる上に、自動的に歩くことが多くなってしまう。日光行きで足の疲れを引きずっているので、行くにしても少し日を改めたい。
 だとして、横浜方向かなぁ、電車代も安いし。
 金沢文庫とかちょっと気になってるし、あの辺でどうにかするか?
 念のため、金沢文庫がどういうものだかを調べてみると。
 火曜日休館日。
 ……調べておくものだな。
 でもそっか、京急沿線かぁ。こうやって見ると、三浦半島側って伊豆だの大島だのよりも遙かに近いんだなぁ。
 三浦半島の端っこは……油壺マリンパークねぇ。
 何となく行った事があるようなないような場所なんだよなぁ、ここ。
 物心付く前に、親に連れられて行ったところというのは、大抵「何があったか」「何をやったか」程度は覚えていても、「どこに行ったか」をさっぱり覚えていない。まして、水族館系の場合、「イルカのショーを見た」という記憶があっても、類似記憶が多すぎてさっぱり。
 まあ、今回は初めてにこだわってないから良いんだけど。
 んー、油壺マリンパーク行ってみるか。
 入場料1700円に、交通費かー、うーん、結構するなぁ。バス代節約に三崎口から歩くと、多分また足が痛くなりそうだし。
 ああ、一応マリンパークの割引チケットがホームページから印刷出来るなぁ。

 ――印刷してから、ふと考えた。

 ひょっとして、お得な切符系で何か安くなるものはないか?
 いや、箱根を調べていた時に、フリー切符系が目に付いてはいたので。
 京急のホームページを調べてみると、三浦半島1DAYきっぷというものが見つかった。
 これは1400円で、横浜――金沢文庫が一往復、それから金沢文庫――三崎口が一日フリー、指定バスもフリー、指定施設割引アリという代物。
 横浜から三崎口まで、普通に買うと550円で、往復1100円、バス代が三崎口から油壺までで往復520円、そして、油壺マリンパークも指定施設に当たり、なんと4割引になるので、1700円のところが1020円。
 3320円のところ、2420円で済む。
 これはなかなか気分が良い、是非使おう。
 しかし……どこで売ってんのかな。
 横浜着いたら窓口で聞けば良いか。

 そんな目算で当日。
 朝、図書館に寄って本を借り直してから出発した。
 相鉄線に乗ったのは10時頃。
 道中、『なぜ、猫とつきあうのか』を読もうとしたが、好みの文体ではないので止め、『新訳 ヴェニスの商人』を読み始める。
 もってまわった台詞のオンパレードだが、新しい版ということもあってか意外と読みやすく、気がつけば横浜に到着していた。
 さて、京急の切符売り場で、と。
 ボタンを見ると、「お得な切符」というものがちゃんと付いていた。
 選ぶと、いくつかのお得切符が表示され、三浦半島1DAYきっぷ購入完了、1400円也。
 さっさか列車に乗り込む。
 京急の三崎口行きは、久里浜に船に乗りに行く時に何度か使っているし、反対方向だと平和島やら、蒲田やらでお馴染みだ。三崎口まで乗るのが初めてってだけ。
 結構距離があるので、ヴェニスの商人を読み進める事暫し。
 しかしこの話、ユダヤ人の扱われ方が酷いなぁ。今の日本で言うなら、「ハゲ」だけは笑いの対象にしても一向に構わない、みたいな感じだ。
 長々と列車に乗って、ようやく三崎口に到着。
 11時半頃。
 さて、駅から出ると。
「とろまん」
 初っ端から、とろまんののぼりが。
 でぶやだったら、最初のカットで既に石塚&パパイヤがくわえているに違いない。
 三崎はマグロ商品が多いとは聞いていたけれど、はあ、こんな感じか。
 あんまり賑やかでもないけれど。
 観光拠点はもっと別なとこにあるのかな? 城ヶ島とか。
 さてさて、10分ばかしバスを待って乗り込む。
 後払いだが、フリーきっぷなので関係はなし。
 やけに丁寧な運転手さんだった。
 15分ぐらいで油壺に到着。
 歩いたら結構な距離ではあったろうなぁ。
 ただ、自転車でもあれば結構すぐに着いたかも。
 折り畳み自転車じゃなくて、携帯用自転車ってのがあれば良いのになぁ。スケボーぐらいのサイズになるようなヤツが。

 バスから降りると、土産物屋と呼ぶには小規模駄菓子屋みたいな店が二軒、駄菓子屋と呼ぶのもどうかという謎な感じの店が一軒並んでいた。買い物する事自体がハードルの高そうな店だったので、ともかく素通り。
 他に、バスターミナル……というか、折り返し地点の内側に駐車場があり、夏休み中は賑わったのかも知れない。その証拠に、近くにあるトイレには「ここで着替えをするヤツゆるさない」「水道で身体洗うヤツゆるさない」「砂を落とすヤツゆるさない」という感じの恨み節看板がいくつも付けられていたし。
 それでは、と、マリンパーク方向へ歩く。
 マリンパークの案内看板のようなものもない。バスの運転手さんが説明してくれたから方向分かったけど、さもなきゃちょっと戸惑うかも。まあ一本道だけど。
 ほんの少し歩くと、海が見えて来た。
 おお、広々と海が見える。
 そしてすぐに、旅館が一つ。
 「マリンパークはこっちの歩道を通れや!」というのぼりと、「まぐろ丼850円」ののぼりが立っていた。指示に従って歩くと、旅館の入り口前を通るという寸法。ちなみに、その指示を気にせず真っ直ぐ進んでも、マリンパークへは着く。
 12時過ぎで、腹も減っていたので、敢えて策略に乗って旅館のレストランに入った。
 スリッパを脱いで上がるという、いわゆる旅館の食堂兼用で、食券をレジで買ってテーブルに行くというタイプ。注文する度に口頭で厨房に伝えているのだから、まことにのんびりしたやり方だ。
 メニューには特製まぐろ丼と、限定10食いくら丼があったが、ここは普通のまぐろ丼と生ビールを頼んだ。特製って言われても比較対象がないし、いくら丼は北海道のイメージ強すぎるし。
 ビールを飲みつつ待つことしばし、まぐろ丼がやって来る。
 いわゆるヅケ丼というヤツ。
 まずは一口。
 良い醤油加減でうまい。海苔と大根のツマとワサビがマグロの味を引き立てている。
 値段相応、充分充分。
 驚くように旨い物を喰いたければ、うんざりする程の金を払わねばならんのが世の常というものだし。
 敢えて予想外だった部分を挙げるなら、器が丼というより鉢のような……筋模様の入った代物だった事ぐらいかな。ちょっと食べ辛い。

 腹もそれなりに膨れたので、マリンパークへ向かう。
 目と鼻の先だったが。
 右の方に「海洋深層水」とかでっかく書かれた、ガソリンスタンドのような施設があった。これは、海洋深層水を組み上げて、車両に積み込む(流し込む)為の設備の様子。
 さてマリンパークは。
 色褪せた入り口発見。
 中に入って、窓口でチケットを購入。
 きっぷを使った割引も忘れずにで、1020円也。
 さて、中に入ると。
 目の前に工事中の塀が。
 ペンギンの飼育場所が改装工事中なんだとか。
 ど真ん中に工事の塀が立てられているから、見晴らしの悪いこと悪い事。
 気を取り直して、左手にある水族館「魚の国」へ入る。
 入り口に古代鮫の顎の骨が飾られていた。
 でかいな、しかし。
 中に入ると、チョウザメの水槽があった。
 何種類かのチョウザメがうようよ泳いでいる様子は……そこはかとなく気持ち悪い。
 深い水とか大きい生き物とか、本能的なとこだとは思うが、何となく怖い感じがするのだ。
 するのだが、なんか、この感覚を助長するものがあるような気がする。
 何だかとても、水槽の中に違和感が。
 よくよく見ると、水槽の中に、砂利とか岩とか、そういう海をイメージするレイアウトが一切なく、青い底の水槽に魚がいるだけ。これがやたら無機質で、深いプールの底に沈められたような感触をもたらしていたのだ。
 新江ノ島水族館でもそうだが、最近は草やら珊瑚やらをふんだんに使う、いわゆる環境展示する事が多くなったと思ってたんだけど……流石は――良い方の表現をすると――老舗だな。
 他に、色々な魚に混じってタコの泳ぐ姿がなかなか滑稽だったり、やけに大きいミノカサゴやハリセンボンを見たり、陸に上がるタイプの魚が正直ヒルみたいで気持ち悪かったり、水槽のガラスがびしょ濡れで「水漏れ!?」と勘違いしたりした。
 二階は、回遊魚コーナーになっており、ドーナツ型の水槽を鮫やら鯵やらが泳いでいる。
 「次の餌付けは14:10」とか表示が出ていた。下の階では、魚のショーをやるような場所もあったし、そういう割とエンターテインメント系の手が加わってるんだな。水族館ではなく、マリンパークたる所以か。
 一休みがてら、他に客の誰もいない回遊魚の水槽を眺めていると、何だか溺れそうではあるが、なかなかに興味深くもある。
 鮫の周囲を鯵が群れを作って泳いでいる光景が目に付いたが、なるほど、大き過ぎる魚は、あまり小さい魚を食べる事はなく、逆に中ぐらいの魚を追い払う効果があるということだろう。
 水族館を大方見終えた頃、館内放送でイルカ・アシカショーが始まる知らせが入った。
 タイミングの良い事に、出たすぐ側がシアター入り口なので、そのまま入る。まあ、マリンパークの敷地が小さいので、一番離れたところに出たってたかが知れてるのだが。

 やたらと急な観客席と、どんちょう。
 どっかで見たような風景だが、やっぱりここの記憶かどうかは曖昧だなぁ。
 程なく、ショーが開始になった。
 イルカ・アシカショーというのも、見飽きたなぁ、と思って見ていたのだが。
 なんか、すごいぞ?
 イルカがプールの脇から中央に向けて飛ばしたボールを、調教師が一歩も動かずに取るとか。
 イルカがバク宙をするとか。
 イルカが捻りを加えてジャンプするとか。
 アシカが水面に落ちる前に輪をキャッチしまくるとか。
 記憶にある「一般的なショー」より、一段階動きが滑らかというか、スピーディー。
 一昔前の「本能的な動きを、人間が芸に見えるように利用しました」というのではなく、何か本当に芸を理解してやってる感じ。特にイルカがそんなだった。
 35分のステージも、長いと感じる間もなく終わり、図らずも堪能してしまった。

 その後、工事中で脇に追いやられたペンギンや、どこから出入りしているのか分からないイルカを見た後、展望台(二階建ての屋上)まで歩いた。
 繰り返すけど敷地が狭い。楽は楽。しかし、夏休み中で親子連れが山ほど押しかけたら、鬱陶しい事になる……のかな。そんなにもう人気がなかったらどうしよう(どうもせんでよろしい)。
 最後に、海洋深層水館に入った。
 海洋深層水を使って深海魚系を飼っている場所だが、要するに海洋深層水の汲み上げをやっている会社のプロパガンダか何かだろう。
 中に入ると、ざっくり海洋深層水の説明がされており、後は魚の水槽。深海魚が多い関係で、中は暗く明かりはブラックライトで、白い服が発光してちょっと面白かった。
 回遊魚水槽の餌付けショーの時間に近かったので、これも見物。飼育係の人が色々説明していたが、印象深かったのは鮫とエイの見分け方。えらぶたが腹に付いていればエイ、背中に付いていれば鮫。マンタの裏側を思い出すと分かりやすい。
 見るものはあらかた見たので、水族館に併設された土産物屋に入り、バイト先用の土産物を買う事にした。
 そのまま食べるワカメという、先日の湯葉と同じメーカーが作ってそうなものがあり、少々食指が動いたのだが、「同じ所で買ったんじゃないか」疑惑を抱かれるのも不本意なので、かさばらず値の張らない毒にも薬にもならない感じのチョコレート菓子を買った。
 さて外に出ようとすると、出入り口にも土産物屋があり、そっちの方が遙かに品揃え豊富だった。
 かなりベタな「油壺まんじゅう」みたいなのがあったのに、残念(「そもそも土産物を買うという行為自体が野暮ったいので、開き直ってオシャレのカケラもない土産物を買う会」会員)
 ……シェアを食い合うような事すんなよ。同じ施設内で。

 油壺マリンパークを後にし、バス停にまで戻って来たところ。
 目の前でバスが行ってしまうという、ヴァナ・ディールの飛空挺乗り場で良くやらかす事態になってしまい、20分ほど時間が出来た。
 バス停の前では、土産物屋の歳を取った女主人らがATフィールドを張って(今、ヲタクの間で大流行、新世紀エヴァンゲリオン用語)雑談しているため長居出来そうもないし、そもそもぼんやりしているのも勿体ないので、海水浴場に降りてみた。
 やたらと急な坂を下ると、そこは……。
 ワカメとかゴミが打ち上げられたせっまいビーチと呼ぶのもどうかと思う海岸でしたとさ。
 シーズンオフの平日のせいで、海の家は完全閉店、釣り客が二人ばかり見えるだけ。
 しかし、シーズン中だとしても、岩場と砂浜が半端に混じってて、なんか崖の影が差し込みそうで、あんまり「素敵な海水浴」にはならなかろう。
 その後、今度はバスに乗り遅れる事もなく、無事に三崎口に帰還した。
 総じてなかなか楽しめた。やっぱり山より海の方が好きだなぁ。

<費用>
交通費:2000円(海老名―片道300―横浜―往復1400―油壺マリンパーク)
昼食:1350円(生ビール500、まぐろ丼850)
入場料:1020円(油壺マリンパーク)
土産物:530円 駐輪場:100円
計:5000円



2006/9/17 『遠くへ行きたい……って訳でもないんだが非該当版 ごまかしなし、正味約10000円の日光の旅』
 九月の第三週は、バイトの勤務日が敬老の日と秋分の日で二つ休みになるので、いっそ全部休んでしまえ、と、他の日も休みを入れて一週間の休みにした。
 どっか旅行にでも行こうかなぁ、とも考えたが、も一つここへ行きたい、というのが思い浮かばない。
 金がないでもないが、あんまり無駄金を使うのも気分が良くないし、泊まりがけも億劫だし、と、JRのホームページで路線図やら、ヤフーの駅すぱーとやらを眺めていたところ、日光が目に付いた。
 自分の住んでいる近辺では、小学校の修学旅行と言えば日光だった。
 一体全体、どうして日光なのか実際のところは分からないが、門前町で繁華街とは縁が薄く、児童をゾロゾロ引き連れて動くには治安が良いから、とかなのかも知れない。
 実際小学生の身には、ただ友だちと泊まりがけ旅行だから楽しい、というのが真相ではあるが、それはそれとして、楽しい思い出を伴う日光という土地に特別な感じはする訳なのだ。

 しかし、駅すぱーとでは、新幹線とか、特急とかばっかり出て来て、どうにも高い。もう少しお手頃価格にならないのかなぁ、と思いつつ、出発時刻やら何やら検索条件をいじっていると。
 新宿――赤羽――宇都宮――日光のルートが。快速ラビットを使うと、特急よりも早く繋がる場合もある、要するに――あんまり変わらないスピードである、という事だ。
 よし、とばかりに、計画立案。
 五時四十七分に海老名発だと、九時八分に日光に到着する。
 これなら、日帰りで充分行ける。

 そして当日。
 五時前に起き、簡単に朝食を済ませ、海老名駅へ。
 いつもの事だが、一本早い五時四十二分発の急行に乗る事が出来た。
 流石に日曜の早朝は乗客も少なめで、悠々と座れる。
 前日仕入れた不思議の国のアリス(訳:北村太郎)など読みつつ。アリスの台詞は、子どもの喋り言葉を狙ったという事だが……板には付いてない感じだなぁ。お父さんが無理矢理砕けた言葉を使おうとしてるみたいよ?
 新宿に到着し、さて埼京線快速の川越行きというのは……あれ? あれ? 川越行きは停まっているが、出発時刻が違う?
 ――隣のホームでした。
 東京のJRの、快速と各停をホームで分けるというやり方は実にややこしい。事情は分かるが、そこまで分けるなら、むしろ固有名でも付けてしまえばいいのだ。埼京線が鈍行なら、玉東線が快速みたいな感じの。
 結局一本乗り遅れてしまい、ここで、予定は狂う事になる。
 赤羽に到着はしたが、快速ラビットには乗れず。
 仕方がないので、普通の埼京線に乗った。
 快速ラビットと比べて、十三分のロスとなる。
 ゴトゴト進み、居眠りしたり起きたりで、ようやく宇都宮に到着した。
 宇都宮だけあり、土産物屋では餃子キーホルダーなどもあった。イヤげものの割と上の方ランキングに違いない。
 さて、日光線で日光へ――と、乗り場へ行ってみると。
 何だかんだありながら結果的に電車一本分しか遅れなかった。
 到着時刻は、四十分も違うが。
 一時間に多くて二本しか出ていない電車なんだが。  再び長々と電車に揺られ、到着したのは十時前。
 四時間そこそこかかった計算だが、新幹線使おうが特急使おうが三時間かかるので、各停で、乗り継ぎ失敗してこれならまあまあってところか。

 スイカの読み取り機すらない改札口で精算を済ませ、外に出る。
 と、駅前のタクシーターミナル(というほど、大きくも何ともないが)の辺りで、揃いの衣装を来た集団が何組かいた。
 なんぞや、と思ったら、すぐ近くの商店街で『日光よさこい祭』をやっていた。
 どこでもやんだねぇ、よさこい祭って。
 それを見入る気は全然ないので、まずは駅の中で観光マップを貰い、見所を確認する。
 東照宮は二、三キロ先で、割と近いが、中禅寺湖、華厳の滝はいろは坂の先だから結構遠く、二十キロぐらいある。
 バスでも乗ろうかなぁと思いつつ、バス乗り場に行ってみるが。
 バス乗り場プレートの表示が、何だか訳が分からない。
 時間で分かれているようでもあるのだが、そこに書かれている数字は路線番号のようで、しかも運賃に関する記述が何一つない。
 ……まあ、いいか。
 という事で、歩いて東照宮へ向かう事にした。
 観光地図で国道を位置を確認して……東照宮はあっちだな。
 歩き始める。
 少し歩くと、食べ物屋や土産物屋が増えて来て、東武日光駅前になった。
 ……JR日光駅、分が悪いな。
 土産物屋は、もっぱら湯葉、湯葉、湯葉。それから葉唐辛子と、たまり漬け。
 湯葉や豆腐が名物ってのは要するに、綺麗な水ぐらいしか誇るものがないという意味なんじゃ……ゲフ、ゲフンッ!
 食べ物屋では、湯葉を様々に利用しており、定番刺身湯葉、湯葉懐石、湯葉ラーメンに、湯葉アイスクリーム、湯葉ハンバーグに湯葉丼……いや、あのさ、ええと、こういう事はあんまりいいたくないんだけど、ないんだけど、応用部分がただのっけただけか豆腐の二番煎……ゲフッ、ゲフッ!
 正直なところ、どの土地でも名物「料理」があると思う事が間違いなんじゃあないかと思う。狩猟、水産、採集、農耕、何に付けても豊かな土地、豊かでない土地というのは厳然として存在する訳で、「食べ物が名物」「景色が名物」「建造物が名物」「伝統芸能が名物」といった感じに、同列になるもんじゃあないかなぁ。無論、それに甘んじてると観光客は減るんだろうけどさ。

 しばらく、も一つまばらな土産物通りを進んだ後、明らかに裏口っぽい寺社の入り口に到着した。
 結構急な階段を上って行くと……。
 出た、観光バスが何台も停まっている駐車場。
 向こうに見えるのは――地図によると――日光山輪王寺。
 東照宮はその先か。
 進もうとすると、参拝チケット販売所が。
 ……ああ、そういうの必要なのね。
 二社一寺に庭園も見物出来るセットで一千三百円!
 ちょっと高くないか?
 まずは逍遙園へ――って「しょうよう」で変換されるんだなぁ、ATOK強し。
 中央に池を配した庭園。
 時期が時期だけに、水辺に赤とんぼが飛んでいて、水面にはアメンボがいたりして、石や地面は苔に覆われ、なかなかに風情がある。
 次に宝物殿。絵巻から仏画や曼荼羅などが数十点。
 それから、輪王寺の本尊も見物。大仏と言って良いサイズの千手観音、阿弥陀如来、馬頭観音が並ぶ。これは、それぞれ男体山、女峰山、太郎山に相当したりで、神仏山の習合したものだ、というのを後でウィキペディアで調べて知った。

 十一時を過ぎ、そろそろ腹も減ったなぁ、と考えてつつ、東照宮へ向かう。
 東照宮に向かう参道は、途端に人が多くなった。
 焼きダンゴの屋台と、ヤキトリの屋台が出ていた。門前でヤキトリはどうなのか、と思ったがよく考えると成田山だって鰻の大虐殺が行われていたし、気にする程のもんでもないのだろう。
 少し進んだところで、レストランというか喫茶店のような場所があったので、食事にする。
 休憩所だかレストランだか仕切りが曖昧な作りで、恐る恐る椅子に座ったら、一応少し間があってから注文を取りに来た。食券式やセルフじゃなくて良かった。セルフのとこで、うっかり先に座ってしまって怪訝な顔をされるのってイヤだしねぇ。どちらかと言うと、店の側が「分かりづらくてすみません」と謝るべき状況だと思うのに。
 食べものは誇張抜きで冗談抜きでカレーと蕎麦しかない上、一番安い蕎麦でも八百円とかする「海の家以下」状態であったが、まあどうせこんなところ(観光地)で値段相応の物が食べられるとも思えないので、山菜蕎麦(八百円)と日光ビールの小瓶(五百三十円)を頼む。
 先にやって来た日光ビールを、まずは一口。
 無駄に冷やし過ぎておらず、軽い感じでうまい。
 まあ、ビールの善し悪しは、余程まずいかうまいかしないと分からないんだけども。
 蕎麦の方は……具が少なかったけど、蕎麦は麺を喰うものなので別に良し。高いけども。
 その後、東照宮に入ろうとしたら、その手前で「御仮殿特別展示」などという表示が出ていたので、行ってみると、御仮殿が特別展示されていた(小学生の読書感想文並)。お堂という表現が正しいかどうか分からないが、普段閉まっているそれが、風を通す為に開いているんだと。中の作りは色鮮やかで丁寧であったけれど、希少価値以外のもんはなさげでもある。

 仕切り直しで東照宮へ行くと、塔の前に何やらステージが作られていた。
 よさこいの会場だそうな。
 まあ、あの寂れた日光駅の前だけでは済まされないわなぁ。
 そっちは気にせず、チケットを渡してさっさと東照宮の中に入る。
 早速野ざらしになっている三ザル発見。
 ん……もう少し低い位置にあったような気がするけど、まあ気のせいだろう。
 陽明門前の階段を上る。
 いつぞやにテレビで「これは一段上る毎に門の彫刻が一段づつ見えるようになっている」とか何とか言っていたので気にして見たが、そもそもそれが何を意味しているかの部分を失念しているので、「ああ、上の竜は阿で、下の竜は吽だなぁ」というぐらいしか気付かなかった。
 デザインは中国風とも言える派手な感じだが、徳川家康を祀った神社という事もあり、実に三つ葉葵が多い。よく、ナルシストキャラが、自分のポスターやプロマイドを部屋中に張りまくるという描写があるが、あれに近いかも知れない。
 陽明門をくぐると、シーズンオフなのにそれなりに人がいる。
 眠り猫へ続く入り口があったが、五百円以上追加料金を取られるのでパス、本堂に入れるようなので下駄箱で靴を脱いで入る。
 小学校の頃、眠り猫は見た覚えがあるが、他の部分はほとんど記憶に残っていない。
 本堂で、何やら解説をしていたが、人が多く入れなかったので素通りした。
 次に、薬師堂に鳴竜を見に行く。
 これも、あんまり印象に残っておらず、そもそも鳴き竜の音自体聞こえなかった記憶があるが、大人になったら多少は違うんかなぁ?
 入ってみると、人がぎっしり足止めをされて、説明係の人が喋っていた。
 鳴竜というのは、元来、天井と床の反響を利用した細工なのだそう。
 従って、床の上に人があまりいない状態で、はっきりした音を鳴らさないと、きちんと聞こえないのだとか。小学校時代、みんなで手を叩いていて「音しねえ!」とか言っていた訳だが、それもその筈だった訳だ。多分、当時聞こえていた人というのは、耳の良い人か、さもなければ暗示に弱い人という事になる。
 で、説明係の人が、拍子木を鳴らすと、反響に倍音が乗るような形で、確かに「鈴のような」音がきちんと聞こえた。倍音と耳鳴りの区別をしない人の場合、感知出来ないかも知れないが。
 この二十年の間に、客あしらいが進歩したというこっちゃね。
 東照宮はあらかた見たので、日光二荒山神社で酒樽や御輿を見て、日光廟大猷院(家光の墓)を見た。日光廟大猷院は、割と階段を上るが、上から見下ろせる景色なんぞも仕込まれており、悪くはない。
 と、これで参拝チケットは全て消費された。

 これからどうしようかなぁ、と思いつつ、出口から外に出ると。
 何だか随分と賑やかな土産物街に。
 バスも何台か停まっている。
 要するに、バス旅行組は、こっちに乗り付けるのがセオリーらしい。
 そして、電車よりもバスで来る人の方が断然多いらしい。
 確かに、電車が日光で終点になってしまうので、バスや自家用車が主力なのは無理もないか。
 さて、これからどうしよう、と時計を見ると、一時を過ぎたぐらい。
 中禅寺湖までバスに、と思わないでもないが、行って帰ってと考えると正直あんまり気が進まないし、どうも乗り方も分からない。
 まあ、そこらをブラブラして帰ろう、と、中禅寺湖方面へ百十九号線だか百二十号線だかを軽く歩く事にした。
 少し歩いたところに「日光カステラ」なる土産物屋の本店があり、ちょいと覗き、バイト先への土産物を探す。予算とバッグの都合もあるので、安くてかさばらないものを、と、選んでいると、「そのまま食べる湯葉」なる怪しげな商品(多分、スナック菓子)があったので購入。あちこちで湯葉湯葉言っていたし、これが一番名物らしかろう。
 日光カステラから出て、更に先へ進む。
 やっぱり、というか、中禅寺湖方面から戻ってくる道路は渋滞している。まあ、バスに乗らなくて正解かな、ブドウも酸っぱいし。
 そこの信号まで、そこの旧跡まで、とぼちぼち歩くうちに、何だか結構足が疲れて来た。
 いや、ただ疲れているだけなら良いのだが、少し膝が痛んで来た。三時間かそこら歩き通しだったぐらいでこれなんだから、年齢のせいかなぁ、なんか……嫌になるねぇ。
 そんなこんなでぼちぼち歩いていると、観光案内の地図があった。見れば、脇を流れる大谷川(だいやがわ)にかかる橋が近くにあるとか。
 さっきから側を歩いていながら、川自体は見られなかったから、これ幸いと見物に行く事にする。
 歩くうちに、橋の入り口が見えて来た。
 おお、吊り橋だ。
 と言っても、バイクが通れそうな(一応通行禁止)、舗装された大きい吊り橋だけども。
 揺れもしないので、気軽に渡る。
 半分程渡ったところで、大谷川を見下ろすと。
 いや、これは絶景。
 速く碧く澄んだ流れが、大岩の間や上をダイナミックに抜けて行く感じ。
 うんうん、綺麗だ綺麗だ。
 やっぱり水辺は良いやね。
 少し休んでから、引き返した。
 引き返しつつ、行きがけに通り過ぎた東大植物園にも入る。
 三百三十円也。
 日光の気候を生かした植物園という造りらしく……。
 何か普通の森に、ネームプレートが一杯立っているだけのような。
 一カ所、高山植物を生やす為に組み上げられた岩山のようなものがあったが。
 特に珍しい、とか興味深いとかの植物もなく、ダラダラと進むうちに、何だか眠くなって来た。
 朝早かったし、歩き疲れもあるんだろうが、歩きながら寝そう。
 でも入場料が勿体ないし、とにかく一回りはした。印象に残ったのは、種子保管庫かな。奥まったところに、防空壕のようにひっそりとドアが付いてるヤツ。扉開けたら、虫――いやむしろ蟲な感じのヤツが、うじゃうじゃ出て来そうで。
 植物園を出た後は、行った道を戻る気楽さで、特に問題なく日光駅に到着した。途中、「神橋が初の一般公開」とか言って、人を渡らせていたが、流石に橋一本の上を歩くだけの為に五百円も出す気にはなれなかった。あれは、むしろ近所に住んでいる人が「いつも通れないあの橋が渡れるんだって!」みたいな感動と共に行う事だろう。

 行きがけに帰りの時刻を調べておいたお陰で、慌てる事なく十六時の電車に乗り込んだ。
 宇都宮からは新宿湘南ライン一本で十八時半過ぎに新宿に到着し、どんどんでカツ丼大盛りを食べて帰った。
 帰り、雨に降られたが、雨合羽はちゃんと持っていたので問題なし。荷物にはなってたんだけど。
 しかし二十時ぐらいまでは電車も繋がるし、特急料金を使わずに日帰り旅行出来るねぇ、日光。

<費用>
交通費:6000円(海老名―480―新宿―2520―日光 往復)
参拝料:1300円
土産:630円
植物園:330円
昼食:1330円(日光ビール530、山菜蕎麦800)
夕食:650円(カツ丼大盛り)
駐輪場:200円
計:10440円



2006/9/11 『ロボ子さん考』
 ドラえもんに、『ロボ子があいしてる』(タイトルうろ覚え)という話があった。
 恋人型ロボット(恐らく)の話。
 のび太の要望で、ドラえもんが借りて来た友だちロボット「ロボ子さん」は、外見も可愛らしく、のび太の全てを肯定し、時には実力で守ってくれる理想的な存在だった。が、反面嫉妬深く、のび太に仇なすものにはその怪力で暴力を振るいまくる、危険極まりない代物で返品せざるを得なかった。
 最後は、「もっと大人しいロボット」という事で、女装したドラえもんが出て来るオチな訳だが。

 これって、結構なハードSF的な話だよなぁ、と思う。
 察するに、このロボ子さん、「借り賃が安いから」(ドラえもんの台詞「大人しいロボットは借り賃が高いんだよ」より)こういう性能だったのではない。
 元々、上記の結果をもたらす為に作られたロボットなのではないか。
 23世紀の前段階の世界で、ロボメイド時代やら、人型パソコンの時代やらがあったに違いないのだ。
 そこで作り上げられたパートナーロボットにより、異性と付き合わない人間が出て来た。もしくは、出て来る事による大幅な出生率低下を危惧する思想があった(恐らく後者が真相と思われる)。
 その為に、ロボ子さん計画は生まれたのではないか。
 ロボットを恋人にする事に対するタブー、言ってしまえばトラウマを植え付ける為に、敢えてああいう調整をしたロボ子さん型というロボットに、第二次性徴の前段階の子供と接触させる。
 更に、通常流通している性格や行動がまともなロボットは、ドラえもん、ドラミタイプに顕著なように、人型と敢えて形態を異ならせる。
 そんな世界で、「教育」が行き届かなかった者が、どのような扱いを受け、どのような末路を遂げるのか。
 ドラえもんの生まれた23世紀世界が、僅かながら垣間見られる話である。



2006/9/6 『クマーズ・アタック』
 PS2版『ジルオール インフィニット』を買ったのだが、シナリオ云々以前にシステム周りが非常に使い辛く、チュートリアルシナリオで挫折、売り払った。
 具体的に特に問題だった二点、画面の切り替わりが多いのに読込が長い。戦闘時、必ず主人公の背後の映像から始まるのだが、実際にコマンドを受け付けるのは素早さ順で、どちらのキャラのコマンドを入力しているのか分からなくなりがち。進めると面白くなるのかも知れないが、二日ぐらいやっても慣れないし諦めた。

 その後、あんまり時間を喰われる重いゲームをする気にもならず、ウィキペディアでギャルゲー一覧なんぞを眺めていた。で、泣きの入らないシナリオである、ということで、PS2版『ダカーポ プラスシチュエーション』を買った。中古1500円、安い。
 幼児期のトラウマか、現代人のストレスか、最近の若い者だからかは知らないが、泣きが入るゲームは可哀想でイマイチ好きになれない。ドラマとかでも、怒られてるシーンとか苦手なのだ。
 このゲームはゲームと言いつつ18禁PCゲームからの移植(PS2版は12禁)なのでゲーム性は薄い。プレイヤーが出来るのはお目当ての相手がいそうな場所を選ぶだけで、中盤以降は選択肢もない紙芝居が延々続きエンディングという代物。
 初回プレイはクマを狙っていたらバッドエンド、二回目も同じくクマ狙いでハッピーエンド。
 かなり特殊なシナリオから入ったせいかも知れないが、確かに明るく楽しい感じ。
 ラブコメ漫画読んでる感じ、で良いのかな。そう割り切れば悪くはない。安く買ったからってのもあるが。
 しかし、二回ぐらい、シスプリネタが入っていたのは、角川とメディアワークスの対立の構図か何かなんだろうか。まあ「さくら」という名前のキャラに「はにゃん」とか言わせている部分で、パロディ精神の強いシナリオライターなのかも知れないが。

 主題歌を聴いて再認識したのだが、以前このゲームのラジオ番組聴いてたな。あの時は、主題歌がエンディングに流れていた気がする。
 冒頭に入る初音島(物語の舞台)の説明だったり、コーナーに「もしも彼女がピンクのクマだったら」とか「手から和菓子」ってのがあったりしたが、なるほどこういう事だったか。
 実際に記憶があるのだから、デジャヴでも何でもないが、こういう巡り合わせ感というのは、ちょっと楽しい。




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