思い立ったが随筆


 日々思う由無事を書き連ねています。



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2006  5月  6月  7月  8月  9月

2006/10/29 『お気に入りはクマ』
 PS2版『ダカーポ・プラスシチュエーション』クリア。
 攻略に隠しの条件が入っているキャラについては、攻略サイトなど見つつ。
 そこそこ面白かったが、みんながみんなクライマックスで泣きが入る気がする。
 分析するに、このゲーム選択肢がほとんどなく(特に、ヒロイン個々のルートに入った後)主人公の行動にプレイヤーが介入出来る要素が少ない為、感情移入し難い。だから、ストーリー自体の盛り上げでどうにかしようとすると、こういうドラマティックな山谷を作るしかない、と、そういう事かなぁ。シナリオにせよキャラにせよゲームシステムにせよ、基礎体力があれば平々凡々とした日常でも楽しませられるんだけどねぇ。
 他に、ワゴンセールでPS2版『スペースインベーダー アニバーサリー』を買った。
 要するに何種類かのインベーダーゲームが入ってるヤツ。
 自分はインベーダーゲーム世代とは若干ずれるのだが、そこはかとなくノスタルジックな感じ。しかし。
 こんなに難しかったのか……。
 いや、自分がアクション系弱いのもそうだけど、残り三匹ぐらいになってから先が、とんでもないスピードになる。もう少し難度が緩やかに上がれば良いのに。
 同時収録されている3D版は、そこそこ爽快感があるが、やっぱり最後の一匹が果てしなく厳しかった。
 もう一本ワゴンセールでPS2版『第二次スーパーロボット大戦α』を買った。
 しばらく敬遠していたスパロボだが、そろそろ良いかなぁ、と。一番最後にやったのが、魔装機神(SFC版)だったりする。
 現在四〇話ぐらいで、少々息切れしないでもないが、なかなか面白い。
 シナリオ自体は、あまり派手な分岐もなさそうだが、まあそれはそれ。
 精神コマンドが随分変わってるなぁ、というのが印象。
 かつての精神コマンドは、ほとんど自分にしか効果を及ぼさなかったが、この作品だとかなり相手に効果を与える事が出来る。
 そしてそういう支援系の弱いキャラでも、小隊に組み込んでしまえば、おこぼれで経験値が貰え、レベルは上げられる。
 総じて、支援役という立場を確立させようという意図が見える。
 そして、逆に主戦力側の影が薄いという事もなく、支援役の猛烈な支援によって、ド派手な活躍をさせる事も出来る。
 他に、お題をクリアすると難度が上がる熟練度システムがあるが、これを狙おうとするとプレイがそこそこ辛味の効いたものになり、歯ごたえが出る。
 欠点らしい欠点と言えば――小隊を組むのにやたらと時間がかかるという事か。
 いや、ロードがどうとかこうとかじゃなくて、迷うから。精神コマンドの組み合わせと、移動力と、火力と、色々考える部分があって。



2006/10/12 『遠くへ行きたい……って訳でもないんだが あやしげ、カプセルホテル』

 QBOOKSでお馴染みの詩人、大覚アキラさんが、本を作り、イベントで売る事にしたとか。
 こちとら小説書きなので、正直なところ詩にはほとんど興味がなく、読みもしない。
 でも、特設バトルで「詩のバトルにも投票が必須または推奨」なんて場合がある。そういう時にはまあ直観で選ぶ訳だが、気が付けば大覚さんばかりに投票していたし、現実一等賞の山を築いている、と、まあそういう格の人なのだ。
 そしてそのイベント『ぽえむばざーる』の会場は――京都。
 ……逆に行く気になるでしょ。

 とはいえ、交通費をあんまりかけたくはない。
 前回見つけた、JR東海のサイトを確認してみる。
 このサイトは、JRのみのルートしか出ない代わりに、早い、安い、楽の三基準のルートが出る。要するに、有無を言わさず新幹線を使ってしまう駅すぱーとと違い、特急も新幹線も使わないルート検索が出来るのだ。
 で、調べてみると――海老名、京都間が、

・新幹線を使う場合:12470円 3〜4時間
・普通列車:7350円 8時間

 往復で10000円近く違うか。
 お得な切符は何かないかなぁ、と探してみると。

・鉄道の日記念・JR全線乗り放題切符 9180円

 というのを発見した。
 9180円だが、3日分使用出来るので、日をまたいでの行き帰りにも使える。
 それから、有効期限が10月1日〜10月15日。イベントが10月8日。
 えーと、だとすると。

・新幹線を使う場合:24940円
・普通列車通常料金:14700円
・乗り放題切符:9180円

 新幹線を使う場合よりも、15760円ばかし安くなる。
 無論、新幹線込みのパックツアー系だと、若干安くなるが、それにしてもこの金額差を埋められる程ではない。
 ちなみに青春18きっぷの場合、一回辺りの値段は安いのだが、5日分になるので値段自体はちょっと高め、そもそも春夏冬休み辺りが使用期間なので、今の時期は使えない。

 よっしゃよっしゃ、じゃあ買いに行くぞ、どっかのみどりの窓口に。
 と、思ったのだが、丁度月初めで、バイトが長引いたり、他の用事があったりで、何となくタイミングを外し、寸前の10月5日。
 ……しかも、激しく雨。
 とはいえ、仕方がない、泳ぎに行ったついでに、厚木駅の近くのびゅうプラザに寄った。
 ふーむここは狭いというよりも、本来事業所のところに申し訳程度にカウンターが付いている感じだ。
「あー、チミチミ、この乗り放題切符というのをくれないかね」(乗り放題切符のページを印刷した物を見せながら)
「はい、お待ち下さい」
 ……待っている。
 ……待っている。
 ……待っている。
「えーと、どの切符でしたっけ」
「ははは、こちらですぞ」
 ……待っている。
 ……待っている。
 ……待っている。
「お待たせしましたー、9180円になります」
 あんまりメジャーではないらしい。

 切符を買い、もう引っ込みが付かなくなったので、なんか適当な宿はないかなぁ、と思いつつネット検索を開始。
 京都だの宿だののキーワードで調べていると、じゃらんのページにヒットした。
 しかし、出発日が3日後という状況では、京都の宿はなかなか空いておらず、しかもも一つ高い。
 どちらかと言うと、大阪の方が宿が多いかなぁ。
 今度は、大阪に標的を変えて検索する。
 ……3000円?
 ホテル大東洋……ああ、カプセルホテルか。
 カプセルホテル自体は、先輩が愛用しているというのを以前聞いた事があり、少なくともそう悪いものではないらしい。
 「男性限定」とかの響きが付いていて若干の不安はあるが、カプセルホテルは使った事がないし、ビジネスホテルよりもずっと金がかからないので丁度良い。
 じゃらんに入会して――予約、と。
 なんか凄く簡単に予約出来たな。
 前金なしだが、すっぽかすとじゃらんから強制脱退処置になる、と。
 ふむ。
 そこだけ気を付ければ良いのだな。
 後は、予約画面を印刷して、持っておけば大丈夫、と。

 準備万端整い、当日。
 午前5:10海老名発の相模線狙いで。
 ……無論、小田急線を使った方が早いが、乗り放題を有効活用したいので、鈍足の相模線でも無理矢理使う。余計な交通費は使わない。
 若干の余裕をもって海老名駅に到着した。
 さて、この乗り放題切符は、乗り始め駅で日付を入れて貰う事になるのだが……。
 改札に誰もいない。
 えーとその場合は、車掌に申し出ろと、なるほど。
 ホームに降りると、出発を待つ電車から、車掌とも運転手とも判断の付かない乗務員の人が出て来た。
「あー、もしもし、おぜうさん、このチケットに日付を入れてはくれませんか?」
「はいどうぞ」
 と、切符に日付のスタンプを捺して貰い、出発した。
 茅ヶ崎で乗り換え、熱海行きへ。
 後は東海道五十三次、鉄道唱歌そのままな感じで進む。
 熱海から149分で浜松、33分で豊橋、80分で大垣、35分で米原、50分で京都。
 しかしあのよく見かける緑地にオレンジのラインの車両は正直座り難い。横座りシートは言わずもがなだが、ボックスシートにしても背もたれの角度が直角で長時間の移動には向かない。それに、テーブルらしきものはないので、書き物も不可能ときた。してみると、新幹線のシートってのはかなり上手く出来ているんだねぇ。今さらだけど。
 外を眺めたり、眠ったり、新美南吉短編集『てぶくろを買いに』、『ジョニーは戦場に行った』など読みつつ進む。
 作品を見比べると、てぶくろを買いにというのは、異色作品って気がするなぁ。クリティカルヒットという意味で。
 ジョニーは戦場に行ったは、正直読み辛い。というより、何を書きたいのか最初分からない。ので、回想シーンはほどほどに、現実シーンばかり拾い読みした。だってさぁ、くどいんだもの。
 こうして、当初の予定と寸分狂いなく、京都に13:13に到着した。

 ぽえむばざーるは、13時からだが、まだ終わるまでには時間があるので、まあ先に食事でもするかなぁ、と、京都駅の食堂街を歩く。
 しかし、トンカツやラーメン屋や定食チェーンなんかを見ても、も一つ食べようという気にならない。 あ、吉野家。景観の条例のせいで、看板に白い部分がある! でも出される食べ物は多分全然変わらないぞ!
 京都らしいったら京都らしいが、そうじゃなくて、京都らしい料理がお手頃価格で。
 ――当然、そういうものに運良く辿り着くという事はなく、時間ばかりが過ぎる。
 仕方がないので、先にぽえむばざーるに行く事にした。
 場所は、迷うという程でもなく見つかった。何しろ、隣の駅前郵便局が目立つ目立つ。
 会場に行き、入場チケットを買って中に入ると。
 学校の教室より少し大きいぐらいの会場で、教壇様のステージが用意され、何やらスペースの人が自分のところの宣伝をしているところだった。
 なるほど、小規模イベントというのは、そういう個々にスポットが当たるんだねぇ。
 さてそれはともかく、大覚さんのスペースはどこじゃらほい。
 渡された配置表を見る。
 大覚さんと会ったのは、丁度4年前になるので、一見したところでこちらが判別出来るか、あちらが判別出来るか、甚だ疑問なのだ。無論、その事態に備えて、本の表紙画像なんぞを見覚えておいたのだが、はてさて――。
「出店者一覧:犬飼愛生さん+大覚アキラさん」
 サークル名とか、特にないのね。
 えーと、ここだ。
 ……と。
 あ、大覚さんだ。
 いでたちのコンセプトは全く変わっておらず、何も迷う事はありませんでしたとさ。
 軽く挨拶などして、大覚さんの本『textrock』を自分の分を1冊、11月の文学フリマ出品用を4冊仕入れて会場を後にした。
 もっとゆっくりしていけ? いやいや、スペースの前で陣取るのは営業妨害だし、こちらもこちらで京都観光はしたいしねぇ。

 京都行きは、以前一度思い立って、ギリギリで体調を壊してキャンセルした事がある。
 その時、どこに行こうとしていたかというと。
 鞍馬寺なのだ。
 その目的は、観光もあるのだが、長編やいくつかの短編に、「僧正坊」つまり鞍馬の天狗を出演させた話があり、その辺りの背景強化のために、取材という名の散策をしようと考えていたのだ。
 これが実はこの旅行の裏目的だったのだ。
 ――と、その前に腹ごしらえ。
 鞍馬へは、市内の地下鉄を色々乗って、出町柳から鞍馬駅へ行く事になるようだが、地下鉄でごちゃごちゃ金が取られるのも嫌なので、出町柳までは歩く事にする。
 その道中で食べ物屋ぐらいあるだろう。
 ほらあった!
 ああ、安い安い。
 さあ、何食べようかなぁ、やっぱりうどんにしとくか。工夫ないけど、関西らしいしね。
 はい、肉うどん、380円っと。
 うむ、なかなかうまいなぁ。
 うまいなぁ。
 なか卯のうどんは。

 どこでも喰える、どこでも喰えますぞ!

 いやぁ、あんまり高い観光地然とした食べ物を見ていると嫌になってさぁ。
 大体、ここで10000円出して、懐石のランチ食べました、なんてのは、どっかのテレビとか旅行雑誌とかでやるこったろう。
 あんた、八百屋に来てドリアン欲しがられても困るだろ、それと同じだよ、ドリアン欲しかったら助川だよ、もうその名前の人いないけど(逆ギレうやむや芸)!
 まあブドウも酸っぱいんだけどさ。
 名物を狙ったところで、ちゃんと旨い店も知らなきゃ安い店も知らない。仮にそこでしか食べられないものが実在するとして、たかが旅行の3回4回の食事でそれに遭遇出来る可能性なんてゼロに等しい。本当に旨い物を喰いたいなら、地元で必死に探す方が本当じゃないか。
 少なくとも、旅疲れのコンディションで、旅の無駄な高揚感の中で、旅の異常な金銭感覚で、探せやしないじゃあないか。

 さて、出町柳へ向かって歩く。
 昔恋しい出町の柳と来たもんだ。
 おー、とんでもなくでかい寺だなぁ。
 む、門に菊の紋が入ってる。
 なるほど、でかいも道理だ。
 バス通りなんだな、ここは。
 えーと、現在地は……そうだ、観光協会か駅辺りで、観光地図を貰い忘れてた。
 失敗したなぁ。
 ああ、ここにも案内図あった。
 えーと、出町柳は……あ、鴨川の東側?
 じゃあ、随分西を歩いてる。
 東へ東へ。
 おや、一つ賑やかな通りが。
 この辺を通れば、昼食に事欠かなかったかなぁ。
 アーケードを素通りして、鴨川の東岸へ。
 鴨川は、川沿いに公園が作られている大きめな川で、遠目にはそこそこ綺麗にしてあり、観光客とも地元の人とも取れない人々がくつろいだり遊んだり演奏したりしている。
 一つ不思議なのは。
 どうして、その川のすぐ近くに、平行する形で水路が走っているんだろう。水量の調節か、さもなきゃ農業用に取水でもしてるんかねぇ。
 それと、川沿いの料理屋らしいが、ベランダのようなものをこしらえて、オープンカフェスタイルみたいな事をやっている様子。対岸なので分かり難いが、多分そう。
 川沿いというと、柳が何本も植わっている。川、柳、京都、新撰組、幕末、とかなると、幽霊がうじゃうじゃ出そうな舞台だなぁ。
 そんな事をつらつら考えながら歩くうちに、何だか足が疲れて来た。僅かに膝が痛む。
 まずいな、結構距離があるんだよなぁ。
 と言って、ここまで来て地下鉄に乗るのもアホらしいし。
 仕方がないので、そのまま無理矢理歩き続けると、ようやく出町柳駅に到着出来た。
 さあて、切符切符、鞍馬行きの切符。
 鞍馬:410円
 高いなぁ、なんだかえらく高いなぁ。
 でも仕方ないなぁ、タクシー使ったらもっと高いし、バスは路線が全く分からないし。
 諦めて切符を買う。
 と、切符売り場の脇に京都タワーの展望台の割引チケットが「ご自由にお取り下さい」状態になって置かれていた。
「ここまで来るとは大したものだ、褒美をやろう!」
 みたいな感じか。
 塔には上ってみるのが習慣なので、一枚貰っておく事にする。

 鞍馬行きの電車は、と。
 うーん午後4時発か。
 多少暗くなるぐらいは問題ないが、心配なのは「入場は5時までです」とか言われて、門前払いされる事だな。
 割と観光地化された寺ってそういうのあるからなー。
 とは思いつつも、観念して待つ。
 二両編成の列車がやって来たので乗り込むと、車両の中には――。
 バスの中にあるような、料金支払い機、壁には運賃表示機。
 これは、身延線の時に見かけたワンマン列車装備ではありませんか!
 田舎列車特有のものかと思っていたら、まさかこんなに京都の近場で見る羽目になるとは。
 とはいえ案の定、というか、出発した列車は、山へ山へと入って行く。
 そして終点の鞍馬に到着した。
 ああ、案外客がいる、参拝時間終了という訳でもなさそうだ。良かった。
 ご自由にお取り下さいの観光地図を貰ってから駅の外に出る。
 ん、なんか空気がひんやりしてる。
 時間のせいか、ちょっと高いところにでもなっているからか。
 ふと左手の方を見ると、でっかい天狗の面発見。
 身の丈ほどもある。
 あー、何か普通の感じだ。いかにもだ。
 他に、顔出しパネルもある。これを最初に考えた人も、結構な発明家なのかも知れないなぁ。
 日が暮れると厄介そうなので、鞍馬寺へさっさと向かう。
 途中、3、4軒の土産物屋があり、天狗縁の土産物であるところの――天狗の面が売られていた。そのまんまだな。
 残りの人生において、どこかのタイミングでダルマは買うかも知れないと思う。
 けれど、天狗の面は買わないんじゃないかなぁ。
 なんか願掛けとか、副次的な効果を標榜しないと、天狗の面界の未来は暗いと思うのだけど。
 5分と歩かず、仁王門到達。
 鞍馬寺には、寺立のケーブルカーがあると聞くのだが「歩いて参拝してこそである」みたいなものらしく、使うことに後ろめたさがある。帰りに使ってみようかなぁ、と思い、ひとまず参拝順路を歩いて登る事にした。
 うーむ、何だか道が急だ。
 しかも、前日の雨か、さもなければ湧き水の関係か、地面が少し濡れている。
 もしも転んだら、服が泥だらけになってしまいそうだ。
 泥でダメになるようなデリケートは衣服ではないが、こちとら旅の最中である。着替えが、ない。
 ともかく、転ばないように細心の注意を払いつつ進む事となった。
 由岐神社を通り過ぎ、九十九折と呼ばれる人間スイッチバック風のくねくね折り返しのある急な道を登る。
 時間は遅めだが、知名度の高い場所であるせいか、他の客も割といる。平日の油壺マリンパークぐらいいる。流石。
 上から帰って来る参拝客は、やはり中年、熟年が多い。ふむ、だったら上まで行く事もそんなに無茶ではなかろう。
 途中、門をまた一つくぐり、義経の供養塔を過ぎ、歩いて行く。
 所々に封鎖されたルートが存在していた。参拝客用に階段が整備されたんだねぇ。
 進むうちに、ケーブルカーの駅に至る道と合流した。
 帰りはこっちを使うかな、と思ったら案内書きが。
「ヘイ、ボーイ、ケーブルカーの営業は16:45で終了致だ! HAHAHA! そんな顔するなよ、歩いたって20分もかければ降りられるんだ。勿論慌てちゃいけないぜ、こんなところで転んで怪我でもされたら、こっちの管理者責任を問われちまう、気を付けてゆっくり、そして万一怪我をしてもそのクソみてぇな口を真一文字に結んで、何を聞かれても所属と認識番号以外は答えるな、奴らに一切の情報を与えるな!」(意訳)
 ……営業終了か。
 歩けない距離でもないけど。
 最後に急な石段に差し掛かり、ようやく金堂に到着した。
 なんか、もうすっかり山の中という感じで、見晴らしも良く、近くや遠くの山が見える。下を見下ろせるような角度ではないが。
 本堂は、やたら重そうな扉がしっかりと閉まっており、中をうかがう事が出来ないが、そういうものなのか、単に遅いからなのか。
 境内は、土産物屋だのお守りやおみくじの売り場(それは神社だ)があるでもなく、見るべきは景色ばかり。
 他の客は、4、5団体ぐらいがぽつりぽつりいる感じ。寂しい程でも、やかましい訳でもない、手頃な人数ってところか。
 まだ上にも何かあるらしく、案内の看板が出ていたが、800メートルとか非常に面倒そうな数字が出ていたので無視して帰る事にした。立ち往生するのも嫌だし、山道っぽいところで日が暮れられたら一大事だし。
 通常の登山であれば、下山は足に大きな負担がかかるが、ここは30分程度の短距離なので、割と楽に降りられた。
 駅に向かう途中、土産物屋が軒並み店を閉めていた。
 ……まだ、17時過ぎなんですが。
 潔いんだか、商売気がないんだか。
 駅に行くと、丁度列車が出るところで、乗り損ねた。仕方がないので、駅の待合室でやっていた義経縁の浮世絵展を眺めながら、15分ばかし時間を潰し、京都駅まで戻った。

 さて、19時間近ではあったが、宿は大阪だし、食い倒れは大阪なので、京都は早々に去り、大阪へ向かった。
 こういう時に、何の気兼ねなしに列車が使えるのが、乗り放題切符の便利なところである。
 ……自動改札を通ろうとしたら「磁気異常」とかなって、通れないというちょっとした欠点はあるけれど。
 ガタゴト揺られて、30分程で大阪に到着した。
 4年ぶりの大阪ー。
 懐かし――いという程には、記憶がない。
 駅の中がゴチャゴチャしてて複雑だし。
 ともかくも腹が減った、ということで、駅から出たすぐのところにあったレストラン街の階段を上る。そしてこれまた、すぐ見えるところにあった串居酒屋の串膳とかいう店に入った。
 大阪というと串揚げであるが、スタンド型はなんか怖くて一人で入る気になれない、となるとこういう所になるんだな。
 ビールと串揚げ盛り合わせを頼む。
 お通しの類は一切出ずに、ビールが来た。
 ぐっと一口。
 いやはやうまい。
 よく歩いて疲れているし、朝、昼とあんまり腹に溜まらないものを食べていたせいもあるが、うまい。
 続いて、串揚げ盛り合わせ6本が来た。内容は、豚、牛、タコ、シイタケ、シシトウ、エビ。
 油切れがイマイチな感じはしたが、充分旨い。
 タコの串揚げもあるんだねぇ、しかし。
 もう少し何か頼もうかなぁ、でも、あんまり金をかけたくもないしなぁ、んじゃ、ひとまずこの店はここまでにしておいて、宿で荷物でも置いた後にふらりと外に出てたこ焼きの一つも食べようじゃあないか。
 という脳内会議の結論に従い、店を出た。
 1320円なり。
 お通しとか席料がなし、明朗会計。
 ではではホテルは、どこ、か、な。
 地図を確認しながら歩く。
 繁華街の中を抜けて歩くが。
 ん、見つからない。
 こっちかな。
 歩いてみるが、見つからない。
 えーと、一度元に場所に戻って――なんだこっちか。
 ああ、あれだ。
 一目で分かる。
 カプセルホテル大東洋。
 ネオン灯で文字が書いてあるし。

 ……ネオンかよ。

 えーと、これは、つまり、別に言い方をすると、要するに。
 いかがわしい安宿風? (最近流行りの何でも疑問系にする若者)
 サウナとか文字が光ってるしなぁ。
 うわー、入り難い事、火の如しだな。
 ちなみに安きこと、山(の市街化調整区域かつ松茸とか全然生えない場所の地価)の如しでもある。
 尻込みしても始まらないので、エレベーターで受け付けのある階へ。
 ――1階がロビーでない辺り、もう何がなんだか。
 下足箱に靴を入れて(ここからして根本的に違う)、受付カウンターへ。
「予約してた者ですが」
「(部屋の使用状況を見ながら)ではこちらの部屋をどうぞ」
 飛び込みで入れたね、どうも予約は不要だね。
 つまりは、終電逃したおっさんとかが、だらだらっと流れ込むイメージと思しい。
 チェックインの手続きを済ませ、ゴムバンドの鍵が渡された。
 ……ゴムバンド?
 そう、ゴムバンド。プールとか銭湯のロッカー風。
「お部屋はそちらの階段を上がったところになります」
 ふむ、上がるのね。
 と、階段を上がると、共通スペースのロビーがあり、テレビが置かれ、椅子が置かれ――。
 浴衣姿の中年ないし熟年男性がずらり。
 これは、居心地が悪いなんてもんじゃない。
 ここは鬼門にして、さっさと部屋に行く。
 ロビーからドアを一枚開けると。
 おお、ずらりと並んだカプセルの入り口。これはイメージ通りだな。
 えーと208番だから――なんだ、ドアのすぐ近くの上の段か。
 階段とも梯子とも付かないステップを、ひょいと上り中へ入る。
 ほー、入り口はちょっと狭めだが、奥が広くなっていて、座って頭がぶつからない程度の高さはある。それから、寝転がった体勢で見られるテレビと、丸い鏡が一枚。鏡は、圧迫感を与えない為の窓代わりと見た。空調がかかっており、一応の空気の循環はされているようないないような。
 注意書き類が壁に書かれていて、カプセル内での飲食は禁止、泥酔者は宿泊不可、入れ墨のある者も宿泊不可。
 と、それは良いんだけど。
 ドアとかはないんだね。
 薄い布のシャッターが一枚。ブラインドと言っても良い。鍵なんてものはなく、フックが引っかかるだけ。
 あれ? だとしたら、この鍵は何だ?
 カプセルの壁に貼られた館内図をよくよく見ると、ロッカールームがあった。
 そうか、ロッカーね。
 そこに荷物を置いて、ここで寝る、と。
 ロッカールームに行き、自分の部屋のロッカーに荷物を入れる。
 中に浴衣が置かれていたのだが、更衣室がある訳でもないし、おっさん軍団の中に混じって大浴場に行く気にもならない。いや、おっさん差別ではなく、純粋に場違い感が強すぎるのだ。ある程度の雑多な人間が集まった場所なら、自分も紛れ込み易いのだが、同じ服を着た同じぐらいの年齢の人間が同じ方向を向いて同じテレビを見ている空間にはとてもじゃないが紛れ込めない。
 という事で、唯一のプライベート空間であるカプセルにこもってテレビでも観ている事にした。
 しかし、慣れない場所で入り口に鍵がかからないという状況は、どうにも不安だ。これ、日本だから良いけど、治安の悪いある種の外国だったら、絶対目が覚めた時には手首にはめたロッカーの鍵がなくなって、ロッカーの中は空っぽとかになっていそうだ。
 このカプセルは、ロビーとの境目のドアの脇にあるのだが、そのせいで人が出入りする時のドアの音とか、話し声とかもはっきり聞こえてしまう。これもまた、落ち着かない感じがするものだ。
 イマイチくつろぎ切れないまま、テレビでジャッキー・チェンの香港国際警察なんぞを観る。ジャッキーのカンフーがほとんど役に立たないという、何ともスッキリしない話だった。銃ばっかり使うし、ラスボスなんてある意味自殺だし。ラスボスをカンフーで叩きのめすシーンがないジャッキーは、印籠の出ない水戸黄門みたいなもんだと思う(暗に石坂浩二批判をしている訳ではない)。
 一眠りして起きたところ、時間は午前2時。
 だが、ロビーを覗いてみても、まだ結構人がいる。
 帰りの足がなくなった人の憩いの場みたいなもんなんだねぇ、正しく。
 すぐには寝付けそうになかったので、ガンダムSEEDデスティニーの総集編みたいなものを観る。
 ちなみにいわゆるアダルトチャンネルは無料だが(以下略)。

 翌日、6時半頃に目が覚めた。
 正直居心地がイマイチだし、海老名に帰り着ける時間が16:00京都発でもあるので、早々に身支度をして出発する事にした。
 ちなみに、使い捨て歯ブラシと使い捨てカミソリが、洗面所の脇に山もりになっているので、使い放題。だからと言って、10本も20本も持って行くと窃盗罪が成立するので注意。
 忘れ物はないか散々確認した後、チェックアウトして外に出て、深呼吸一つ。
 さあ、朝飯はどこへ行こう。
 歩いてみるが、この時間に開いているのは、24時間営業の店ばかり。駅前の繁華街の中には、「閉まっていない」居酒屋などもあるにはあったが、そういう昨日の疲れを繰り越したような場所には入りたくないし、入れない。これという店もないので、定番の松屋に入る事にした。
 朝定食を頼もうとしたのだが、ご飯大盛りに相当するボタンが見当たらなかったので、豚めしに急遽変更した。或いは、無料で大盛りサービスだったのかも知れないが、今となっては分からない。
 運ばれて来た豚めしと味噌汁。
 昨日は昼がうどんで夜が串揚げとビールという状態だったので、久々の米という感じだ。
 豚めしに紅ショウガをがばがば散らして、ひと混ぜ、ふた混ぜ――熱いのは苦手なのだ――では一口。
 うむ、うまい。
 松屋は吉野家と違って、つゆをそれほどかけないが、自分としてはその方が好みである。つゆが多いとご飯の歯ごたえと舌触りがなくなってしまうし。同じ理由で、粥や雑炊もイマイチ。
 食事を終えて、大阪駅へ向かった。
 今日は大阪を軽く見物して、京都を軽く見物する予定なのだ。
 大阪は、一度来た事がある訳だが、それ故に「あー、こんなとこあった、あった」とか言ってみたいのだ。
 大阪の移動は、実のところ地下鉄が一番便利なのだが、今回は乗り放題切符を最大限有効活用するという事で、JRの環状線に乗る事にした。
 改札で、切符の二回目部分にスタンプを貰って、環状線に乗り込む。
 行き先は、前回行きそびれて、通天閣の上から眺めるだけだった大阪城。
 寝不足と旅疲れでうとうとするうちに、列車は大阪城公園駅に到着した。
 さてさて降りて、と。
 ホームを歩く途中で、ジュースの自販機があった。
 野菜が足りない、とても足りないと思う、足りないんじゃないかな、改善しておこう。
 野菜ジュース一本飲む。充分ではない事は知っているが、多少なりとも、ねぇ。

 駅の外に出ると、イベント事があるらしく、人通りがそれなりに多い。
 そもそも、この大阪城公園というのは、ホールやらグラウンドやら大阪城やらが色々あるので、客のタイプも様々なのだ。
 グラウンドを見ると、野球をやっていたので、何かの大会だったのかも知れない。
 昨日の疲れが残り、膝がも一つ本調子ではないのを騙し騙し進み、堀まで到着した。
 堀には柵が立てられ――その内側で釣りをする人が何人か。
 釣り禁止の看板が出てますが?
 不法行為を平然とやる人種と会話が成立するとは到底思えず、また彼らの唯一の言語たる暴力から我が身を充分に守れるだけの力もないので無視して進む。
 見上げる天守閣は、銅張りの屋根に金シャチ、それに黒漆の壁に金で虎か何かの絵が入った、かなり派手な造りをしている。
 見通しの悪い典型的な城の通路を進み、天守閣の近くまで来ると、ちょっとした広場になっており、土産物屋や食べ物屋があった。
 そして、これは臨時のものだがステージがこしらえてあり、何か友好都市との友好イベントがあるような事が書かれていた。
 しかし、時間は9時にもなっていないせいで準備中、加えて天守閣見学も営業時間外で入る事は出来なかった。残念と言えば残念だが、足の疲れもあるので、少々ホッとしたのもまた事実である。

 大阪城公園を後にし、次に向かうのは難波。
 地下鉄が必要かなぁ、と思っていたが、よく見ると環状線から一本支線が出ており、難波に行ける。やれうれしや。
 地上の線から、急激な下りを経て地下のJR難波駅に到着した。
 外に出ると、他の難波駅とは、少々離れた場所だった。何だか村八分にされているような……。
 ちょっと調べてみると、そもそもJR難波駅は、湊町駅という名称だったのを「難波に近いから難波でいーじゃん」という発想で改名されたものだそうな。
 でもそんな経緯はどうでも良いんだ、案内標識をちゃんと出してくれよぅ、地下道の案内プレートにどうして一つ「JR難波→」の文字が入らないんだよぅ。お陰で戻ろうとした時に、妙に手間取ってしまった。
 さて、難波である。
 難波と言えば、グリコの看板だよなー。
 案内図などを確認しつつ発見。
 あったあった。
 以前と変わらない感じだが、やっぱり難波の街はゴチャゴチャしていて自分の位置がよく分からない。
 何か見覚えのある場所はないかいな、と、当てなく歩いていると、なんばグランド花月が見つかった。
 ああ、この辺りは見覚えがある。うんうん。
 後は日本橋の電気街でも覗いてみよう。
 日本橋駅を発見、思ったより距離がなくて良かった。
 さあ、て、と。
 電気街は――あれ? あれれ?
 この近辺の筈だったんだけど。
 歩いている。
 歩いている。
 歩いている。
 ??
 おかしいな、引き返してみよう。
 歩いている。
 歩いている。
 歩いている。
 ええい、どこだ!
 ――日本橋駅で、案内図を見ましたとさ。
 階段を下るのが辛いんだって。
 なんだ、ちょっと南へ行くんだったか。
 無駄に歩いてしまった。
 日本橋電気街であるところのでんでんタウンで、ヲタショップ系をつらつらと廻った後、JR難波駅に戻ろうとして――なかなか見つからず、またしばらくウロウロした後に、ようやくJR難波駅に辿り着いた。
 時刻は昼間近、もしもこのまま京都に行ってしまったら、確実に混雑しまくる食べ物屋にうんざりさせられると判断し、駅ビルOCATモール内のレストラン街を目指す。
 色々探す元気もなかったので、実演手打ちうどんの杵屋に入った。
 相変わらず全国チェーンな訳だが、別に良い。名物に旨い物なし秋の空。そんなに名物を売りたければ、名物頭巾に名物法被、名物幟をおっ立てて、名物ソングを歌いつつ、名物おじさんが売りに来れば良いのだ。足を棒にして探し回らなければ遭遇出来ないようなもんは、名物とは言わん。名物とは、自然と目にする口にするようなものであると、あたしは思う。
「あー、おぜうさん、このお稲荷セットをくれたまえ」
「稲荷セットですね」
 ……お客の言葉をそのまま返せとは言わないが。メニューに「お稲荷セット」って書いてあるじゃん、「お」の分安くしろとか言われるぞ。
 頼んだのは、生ビールとお稲荷セット。
 まずはビールでひと息。
 続いてお稲荷セット。
 稲荷寿司は三角。関東風の俵ではなく、揚げが闇雲に甘くもなく、それなりにうまい。
 うどんは、おぼろ昆布(とろろ昆布)が載っている。このおぼろ昆布という代物は、うまいのかまずいのかいつも判断に苦しむ。食感も頼りないし、濡れるとぬたりぬたりするし、箸にかかりにくいし。

 食事を終え、一路京都へ。
 予定では、任天堂本社を見物して、京都タワーに上ろうと考えていたのだが、既に12時を過ぎている。
 移動時間と滞在時間を考えると、デッドラインの16時を超える可能性が高く、何より時間に追われての行動はつまらない。
 という事で、任天堂は取り止め、京都タワー見物のみに絞る事にした。
 京都駅に到着し、京都タワーへ向かう。
 駅の真ん前にあるので、向かうも何も。
 かつて、新幹線の車窓から眺める事の多かった京都タワーだが、こうして見ると。
 ……下にビル付いてんのね。
 流石に土地を無駄にしない関西気質――かと思ったが、通天閣も、神戸ポートタワーもただのタワーだわなぁ。単に土地がなかったとか、ビルが軽くて風に飛ばされそうだったとか、そんなか。
 土産物屋の奥にある展望台の入場チケットを購入する。
 自動券売機があったが。
 我が手に割引券あり。出町柳駅にご自由にお取り下さい状態だった割引券あり!
 団体、割引券受付の窓口で、チケットを買った。
 本来770円のところ650円。お得。
 展望台行きエレベーターに、エレベーターガールの人と他の客と一緒に乗り込む。
 エレベーターが動き始めると「ようこそおいでやす――」と、京言葉の案内メッセージが。
 明らかに読まされてる感のある、方言指導を受けた他の地方の人みたいな喋りが痛々しくてナイスっぽい。ローマ字っぽく読むと、ニセっぽい。各所でネタにされていそうだ。
 展望台に到着し、外を眺める。
 サイズが小さい事もあり狭い。狭いが、有料望遠鏡は所狭しと並んでいる。ぼったくりますか?
 とは言え、見晴らしが良い。晴れている事もあり、遠くまではっきり見える。
 京都の町らしい碁盤のような構造、というのはそれほど目に付かなかったのだが、瓦葺きの屋根の多さはなかなか面白い。ビルもあるが、同じぐらいの面積、瓦葺きの屋根が並ぶ。これが、京都の町並みなんだねぇ。
 充分に堪能して、下りのエレベーターに乗った。
 行きは良いよい帰りは怖いの例え通り、帰りのエレベーターは混雑気味だった。
 展望レストランで停まり、もっと下に降りたい人はそのまま乗っていろ、というアナウンスがあった。
 戸口付近に立っていたので、ともかく降りて後ろの人を通そうとしたら。
 誰も降りず、独り展望レストランに取り残されてしまった。
 当然の事ながら、塔のレストランは食堂施設の最下層に位置する存在なので(ラーメン・カレー・サンドイッチしかない、食品サンプルのスープとかがちょっと外れて傾いてる上にホコリが積もっている、値札が手書きで色褪せてる、値段は一番安くて700円)、食指も中指も動かない有様。
 さっさと退散とばかりに、階段で下りようかと思ったら、展望レストランは地上8階の高さで、しかも階段は関係者以外立入禁止になっており、再びエレベーターを待つ羽目になった。
 1階に降り、土産物屋を廻る。
 おたべはアンコ成分が八ツ橋要素を消してしまうので、100パーセントの生八ツ橋を探して歩く。
 と、それらしいものを発見。
 しかし、こう、箱にぎちりと入って見えるので、何人分だか分からない。
「あー、そこな大きなおぜうさん、この八ツ橋は――」
「(サンプルの蓋を次々と開けながら)これは、こちらになりますよ。20枚入りです。セットだとニッキと抹茶二種類ですけど、単品だとどちらかになりますね、それからこちらは超音波を利用した包丁なんですけど焼いたナイフをバターに差し込むようにどんな肉でもするすると切れます。今ならオシャレな携帯用ポーチ付きですが不要時に携帯すると銃刀法違反で――」
「そのニッキの八ツ橋を一つ下さい」
 カウンターの上には、蓋を取られた無数のサンプルが、ニッキの香りを漂わせていましたとさ。
 商売上手なお国柄。
 買った八ツ橋は、ずしりと重く、箱だけ見ると羊羹のようだった。

 16時よりも1時間以上早いけれど、帰る事にした。
 そもそも16時というのは、ギリギリのラインであって、何かアクシデント一つで帰れなくなってしまう。余裕は持たせなければね。
 しかし、列車の移動時間は約8時間。
 その間に晩ご飯を食べられるタイミングというのは、ないに等しい。
 指定席ではないから、車中で食べるのも難しそうだし。
 だとすれば、食い溜めをしておくのが一番の方法だな。
 という判断のもと、駅の構内にある立ち食い蕎麦屋に入った。
 ぶっかけうどんに、おにぎり、ビール。
 ともあれ、ビールを一口。
 やれやれ、お疲れのビール。
 程なくぶっかけうどんがやって来た。大根おろしが付いているタイプ。
 ざっくり混ぜてひとすすり。
 なかなかコシのある麺でうまい。あまり腹が減っていなかったが、それでもうまい。
 うどんや蕎麦は、冷たいのが良いのかも知れないなぁ。
 おにぎりは、中身には何も入っておらず、塩昆布と梅干しが横に置かれている。これは普通におにぎり。
 よく考えると、全部温かくないものだが、それはそれで良し。
 食事を終え、ホームに降りて列車を待つ。
 時間は14時40分頃。
 えーと、次の列車は……。
 15時?
 なんだ、本数少ないなぁ。
 ぼやきつつ列車を待ち、乗り込む。
 どんどん暗くなる車窓。
 おまけに、あちらで20分、こちらで20分と待たされる。
 居眠りをしたり、本を読んだり、居眠りをしたり、ぼんやりしたり、外を眺めたり。
 次第に乗客は少なくなって行き、浜松から三島に向かう列車では、ボックス席一つを完全に占有出来るぐらいになっていた。
 普通に座るには座りにくいけれど、丸ごと一つ占有出来るなら話は別だ。
 靴を脱いで向かいの椅子に足を載せ、ぼけーっとしながらtextrockを読む。
 そんな風にして長い長い乗車時間を過ごした。
 そして海老名に到着したのが、23時49分、16時出発だったら0時14分だから、25分早いだけだった。
 丸二日停めておいた自転車を400円払って駐輪場から出し、松屋でビビン丼を食べて帰った。
 金はかからなかったが、時間をたっぷりたっぷり使った旅であった。
 後一日分切符が残ってるんだけど、15日までにどう使ったものかなぁ。

<費用>
交通費(フリー切符):9180
ポエムバザール:300
テキストロック:1300
交通費(鞍馬線):820
昼(肉うどん):380
夜(ビール、串揚げ盛り):1320
カプセルホテル:3000
朝(豚めし):290
野菜ジュース:120
昼1(ビール、お稲荷セット):1280
京都タワー:650
おみやげ(八つ橋):420
昼2(ビール、おにぎり、ぶっかけ):750
夜(ビビン丼):390
駐輪場:400
計:20600円
     



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