思い立ったが随筆


 日々思う由無事を書き連ねています。



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2011/5/7 『思えば遠くへ来た……のかなぁ』第25回 時は金なり、つまり時給:新日本海フェリーで西日本紀行』
 ひょんな事でまとまった休みが取れたので、旅行に行く事にした。
 さてどこに行くかな、と、考えていたが、今まで旅に使用していない交通機関を使うのも良いな、と考えて、船旅と洒落込んでみた。

 自分は、特に用もないのに東京湾フェリーに乗ったり、横浜のシーバスに乗ったり、船で生まれて船で育ち船で通学して船で結婚式を挙げ船を棺桶にした前世があるかないか分からないぐらいに船好きとして有名だが、実は船で旅行というのはした事がなかった。
 実際、企業の非効率的収益構造と、遵法精神の欠如と、労働者の権利意識の低さ等々が相まって、大人が長期休暇を取る事は難しい日本で、ダラダラと移動に時間をかける旅行はマイナーな手段になりつつあるだろう。
 で、そこに逆張りで船旅にしたのである。
 別に珍しい発想ではない。

 さて、北海道の船事情はどうなっているか、と、確認してみたところ、札幌の近傍では小樽と苫小牧から定期便が出ている事が分かった。
 そして便数やら何やらの関係から白羽の矢が立ったのが、

・苫小牧〜秋田〜新潟〜敦賀航路 寄港便(新日本海フェリー)

 19:30発の便で、翌日に秋田、新潟に寄港して、その翌日の5:30に敦賀に到着するというゆったりした便である。
 寄港しない直行便だと、23:30〜20:30となる。船のサイズが小さく、スピードがあるものが当てられている様子。

 ちなみに、所用時間は33時間と、21時間という事になる。
 直行便の方が圧倒的に早いのだがしかし、直行便を使ったところで到着するのは夜である。敦賀がどんな街かは知らないが、夜中に観光できるような場所なんてのはそうそうなかろうし、宿に泊まって寝るだけの事だ。早朝に到着する寄港便でも活動時間に差はない。
 更に、これが大事な事なのだが、運賃は「どちらも変わらない」。
 つまり、船の上で寝るか、宿泊費を余分に出して地面の上で寝るか、という違いにしかならない。
 だったら、ゆっくりの便で丸一日船の上を満喫するのが良い、となった。

 新日本海フェリーの公式サイトで登録し、デビットカードで支払う。9,000円也。
 両方船だとあまりに疲れそうなので、帰りは空路。到着翌日にスカイマークの「神戸――新千歳空港」便とする。出遅れたので、最安で9:05発の16,800円。滞在時間が短いのは勿体ないが、目的そのものは船に乗る事だから、まあそれはそれで良かろう。
 宿は漫画喫茶にでもしけ込む事にしてこれで準備完了。



<5月3日>
 身支度と腹ごしらえを済ませ、家を出る。
 出発前の1時間前には来ておけ、という事だったので、15時頃に琴似を発つ。
 ガタゴト揺られて苫小牧へ。
 さて、港は苫小牧東港らしい。
 この前行った港は、西港だったけれど、東港はもっとずっと東になる。
 最寄り駅が浜厚真駅らしい。
 さて乗り換え……。
 乗り換え。
 あ。
 どこ行きか確認するの忘れた。どれに乗ったら良いのか分からない。
 迷った末、駅員さんに尋ねる。
 様似行きか。了解。
 苫小牧までは容易いのだけれど、この先が一気に本数が減って厄介だ。
 停車中の列車に乗り込む。
 あー、運賃表示機付いてる。2両編成のワンマン列車だ。
 出発ー。
 ディーゼルの振動を響かせつつ、動きはじめる。
 浜厚真は二つ先の駅だが、割と距離がある。
 あっという間になくなる人家。
 5月だというのに、枯れ草ばかりの原野が広がる。
 こう、いきなり人家がなくなるよな、北海道ってのは。そして、その向こう側にも人家がさっぱりないという。
「次は浜厚真ー、お降りの方は前の車両に移動して下さい」
 前?
 ああそうか。
 そうだった、忘れてた。
 車両出入り口がそのまま改札になる、ワンマンバスと同じ形態だった。
 車両内の改札機に切符を入れ、外に出る。
 ぼちぼちワンマン列車に慣れそうだな。
 ホームは……。
 砂利敷き?
 舗装は?
 なんかもう、色々と凄い。
 ワンマン列車だから改札に相当する機能が車両内で済んでしまうのは分かるけれど、スカスカでどこからでも出られる駅って、やっぱり不思議な感じがするな。
 ホームの外というかなんというか、傍らに、駅舎の代わりに列車の車両を使った待合室が一つ置かれていた。
 入ってみると、中に時刻表が掲示され、フェリーターミナルへの行き方が描かれていた。それと、ベンチの上に交流ノートが置かれていた。一言だけメッセージを書いて、フェリーターミナルへ歩き始める。
 駅の真ん前にはぽつぽつと家があるが、商店もなければバス停もなく、すぐに荒野になり、その先にフェリーの姿が見える。
 コンビニの一軒ぐらいあるかと思ったが、まず建物自体が皆無だ。
 土地代とか幾らぐらいなんだろう。
 いや、市街化調整区域か何かか。
 走ったり歩いたりしながら、橋を一つ渡って砂利道を越えて、苫小牧東港に到着ー。
 フェリーがすぐそこに見える。舳先に書かれた船名が「ばからし」になっているなぁ。
 傍らに自衛隊の車両が駐車していて、何かと思ったら「災害復興支援」の旗を付けていた。ご苦労様です。

 ターミナルの建物内に入る。
 入ってすぐの場所にあるカウンターで、受付番号と支払いに使ったクレジットカード(自分の場合はデビットカード)を提示。この辺は飛行機と概ね変わりない。
 チケットを受け取って、二階の待合ロビーへ。
 うわ、結構人いるなぁ。
 船なんてそんなに使う人なんかいないと思っていたけれど、ゴールデンウィークなせいもあるのか、体育館ぐらいあるフロアの椅子に万遍なく人がいる感じ。
 テレビと喫煙所と、土産物屋兼食堂がある。
 西港よりも二回りぐらい小さい印象かな。
 特に見るべきものもないので、椅子に座って「ロシアにおけるニタリノフの便座について」を読む。
 と、隣の人が貧乏揺すりをしたので、席を変え、また読む。
 連結された席で貧乏揺すりをするのは、想像力が足りないのだろうなぁ。大学生の頃、顔見知りが講義中にやらかして、辟易した事がある。

 出発時刻間近になって、出航口に並ぶ者が出始める。
 うーむ、どうなんだろ。
 二等で雑魚寝組がそんなに多いのか?
 まあ、今さら慌てても仕方がない気がするので、列がはけるのをぼんやりと待つ。
 待つ。
 待つ。
 遅いな。
 どうなってんだ?
 と、見ると、職員の人が一人で手でもぎりをやっている。
 自動改札じゃない事にも驚きだが、こんだけ行列作らせておいて一人しか人員を割かない事も驚きだ。
 ひょっとして、偽造チケットを見破る非常に高いスキルを持った者しか出来ない、超高難度作業なのかも知れない。けれどそれでも、いやだからこそ技術の継承をすべく、もう一人を配置して修行をさせるべきではなかろうか。
 たっぷり三〇分以上かけて、ようやく列が短くなって来たので、自分も並んだ。
 もぎりを通過した後、エスカレーターで上がりながら、チケットの半券を見る。へえ、下船券なんてものが付いてる。
 なるほど、下船地がいくつもあるのだから、そりゃあチェックが必要なのは当然か。ここは飛行機じゃなくて、列車のイメージか。
 空港と大体同じ船体に直付けの通路を通り、船内へ。

 おお、受付カウンター、ロビー、螺旋階段。売店にゲームコーナー。
 全体的にこぢんまりしているが、ホテル的だ。
 部屋やベッドの指定がある旅客はカウンターで受付と鍵の受け取りをしている。
 しかし二等雑魚寝の自分には関係のない事。
 「敦賀行き二等」の案内貼り紙に従って、通路を通り船室へ。
 船室の前には、改めて「敦賀行き」の貼り紙があった。
 なるほど、行き先別に部屋が分けられているようだ。
 自由席の筈だから、必ずしも守らなくても良いのかも知れないが、下船地で声をかけてくれたりするって事だろうか。
 奥の方の部屋も確認してみたところ、秋田行き、新潟行き、それとツアー客、警察の団体客の部屋が設定されていた。
 なるほど、部屋単位そういう貸し方になるのか。
 では部屋に入る。  入ってすぐに下駄箱があり、端っこにはいわゆる試着室がある。後は全部が寝室という作り。  床はそのまま寝られる布? マット? 張りで、ずらりと並ぶ毛布とまくら。窓は二つ。ハンガーは片方の壁にだけある。棚は枕元に蓋や扉のない凹みがあるだけ。開閉式の棚があったが、救命胴衣の置き場だったので客は使えない。
 他の客は、親子連れが一組、男性二人連れが一組。
 収容人数が二列の十八床なので、互いに接触する距離でもなく、広々としている。
 空間が贅沢に使えて有難い。
 貴重品は受付カウンターに預けられる旨案内の放送が入ったので、預けに行く。この後も、食事の時間とか、売店の開閉店とか、連絡に放送が多用されていた。
 貴重品は用意された封筒に入れ、封印部分にサイン、シール保護。なかなかしっかりしている感じだ。

 荷物から一応目が離せるようになったので、船内探検と洒落込む事にする。
 まずは一階……嘘。
 徒歩の旅客は三階より上しか入れない。
 それより下は鎖に繋がれた漕ぎ手がひしめいていたりするのだ(嘘)。
 ロビーにはテレビが設置され、皆、その前に陣取って視聴している。椅子が時化時に動かないようにフックで床と繋げられているのが船らしい。
 子供用スペースもあり、クッションブロックで囲まれた中に、ぬいぐるみや絵本がある。
 売店はどうだろう。
 土産物がちらほら、それから、酒とつまみと、菓子類と雑誌。食事になるものは『やきそば弁当(東洋水産)』のみが売られている。他に、レンタルのスリッパ、洗顔セット、使い捨て剃刀等。
 どれも少しづつ高い感じだが、定価の一、二割増と言ったところで、手数料と考えれば納得行く程度の額。時代だろうなー。
 次にゲームコーナー……は、子供が入っていたので後回し、自動販売機コーナー。
 自動販売機には、酒とジュース類の他に、ニチレイの軽食自販機があり、焼きそばや唐揚げ、おにぎりなんかが売られている。うまそうにも見えるが、地域性は全くない上に、400円という価格設定ではどうにも一つ買う気にならない。
 個室ビデオルームも一つだけある。DVDはデポジット500円、レンタル料金500円のカウンター貸し出しだが、ラインナップは不明。所蔵DVDリストは気軽に見られるようにしておくべきじゃないのかな。
 給湯室もある。ロビーでカップラーメンの類を食べている人がちらほらいたが、お湯の出所はここのようだ。
 コインランドリーは、使おうと思っているところの設備。全自動で洗いが150円、乾燥機が三〇分で100円。洗剤と柔軟剤は各50円だけど、下着類をさっと洗いたいだけなので不要だろう。

 一つ上の四階へ。
 船の両弦に面して椅子とテーブルが並んでいて、弁当やら酒やらを思い思いに飲食している。端っこにマッサージチェアが置かれているが、これは間違いなく利用する事はないだろう。
 食事を出す店が出来るのがグリル、レストラン、カフェの三つ。但し、グリルは予約が必要で、レストランはバイキング形式で、カフェがラーメンとかカレーとかを出す。どれも食事時限定の営業だ。今回は貧乏クルーズを想定しているので、「バイキングで食い溜め」を狙う事にして、今日の利用はなし。
 昼に風呂には入ったので、大浴場は明日使う予定。サウナは水着必須なので入れず。スポーツルームに卓球台はあるが、独じゃ出来ないので無視。
 甲板にも出られるが、寒そうなので明日にする。北海道の五月の夜なんて、東京二十三区の冬より寒い。

 五階はDVDシアターの他は、特等室とスイートルームが並び、利用客以外は入る事が出来ない。  シアターではDVDが流しっぱなしにでもなっているのかと思ったら、二日目の十時頃と、十九時頃に一本づつやるだけのようだ。
 ある程度ヒマ潰しの場所になるかと思ったのだが、あてが外れたな。

 これで一通り確認した。
 さて。
 寝るか。
 船室に戻り、横になる。
 いやはや、前日に長編に区切りを付けたり、深夜の馬鹿力聞いたり、夜更かししていたものでね。
 うーむ。
 枕が硬くて小さくて高いので、使い心地は良くない。更に、ぐっと床に押し付けると、エンジンの振動が伝わって来る。隣の毛布を丸めれば良さそうではあるのだが、使って良いやら悪いやらちょっと分からないので、も一つ手が出ない。
 ともあれ、姿勢をもぞもぞやっているうちに、眠気の方からやって来た。

 夜中にもなっていない時間に目を醒ました。
 さて、夕食にしよう。
 徹底して安い方向で。
 手持ちのリソースの内、マックスバリュで買っておいたブランサンドと豆乳、それから、ダイソーで買ったカロリーメイトの韓国産パチモノ「カロリーバランス」を半分食べる。ブランサンドはまずくない程度の味だが、98円で四百キロ近いカロリーが取れる事と、携帯が容易な事が利点。カロリーバランスは、105円でパチモノだがなんかうまいのが特徴。
 それなりに腹はふくれたなぁ。
 ああそうだ、ゲームコーナー覗いてみるか。
 よし、もうジャリボーイズ&ガールズはいない。
 んー、クレーンゲームに、スロットが何台か。それに、ビデオゲーム系ではメタルスラッグとホッとギミック。少ないな。パズルゲームと格闘ゲームぐらい置いておけば良いのに。まあ、自分はやらないけどさ。
 この時間、船内の施設で出来る事と言ったら、風呂に入るかロビーのテレビを視るか酒を飲むか、ぐらいしかないので、執筆作業に入る事にする。
 プリントアウトしておいた長編の読み返し。
 短編の連載という形で進めていた長編が、ようやく数揃ったのだ。
 部屋で読んだり、ロビーで読んだり、窓側の椅子のとこで読んだりするうちに、日付を跨いでいた。



<5月4日>
 長編は読み終えた。割と面白い感じだが、設定の整合や伏線の張り直し、主人公の確定等々、そのままでは使えないな。まあでも、PCがないからここで出来るのはこれぐらいか。
 ああ、なんか腹が減って来た感じがする。
 やっぱりご飯を食べないとお腹が落ち着かない。
 明日はたっぷりご飯を食べよう、等と思いつつ床に就く。

 ……他の客のいびき、凄いうるさい。

 自分の事は分からないから、彼を責める気はないけれど、うるさい事には代わりない。
 耳栓必須だったか。
 仕方がないので、ティッシュをちぎって耳に詰める事にした。
 でも、雑魚寝船室だからまだ離れていられるけれど、寝台ありの二等だと、逆に辛い気がするな。

 翌朝、六時前に目が醒めた。
 朝食は六時四十五分からになっていたので、まだ間があるな。
 ちょっと甲板に出て、外の空気でも吸おう。
 四階に上がり、卓球台のあるスポーツルームから、甲板に出る。
 甲板は何段かになっていて、階段で繋がっている。
 階段を一つ上がってみると、だだっ広く何もないスペースがある。
 その背後に見える船のメインの煙突が……。

 でけえ!

 記憶に残る東京湾フェリーと比べても、もの凄いでかさだ。
 そりゃあそうだ、各々のサイズは3,580トンと20,564トン。赤ん坊と小学一年生ぐらいの差があるのだから。
 甲板は風がかなり強い。天気の加減もあろうが、元々時速三〇キロとか四〇キロとかで進んでいるのだから、無風の日でもかなり吹くのだろう。
 ベンチに座って空を眺めつつ一杯、というのは、もっと暑い時期でないと成立しないようだ。
 残念。
 しっかし、ちょっとした運動場だな、この広さは。
 船室で固まった身体をほぐすべく、柔軟をしたり走ってみたり、動き回る。

 身体をほぐした後、前方の甲板へと歩いてみる。
 左弦と船尾の床に、「乗客脱出集合場所」とのでっかい文字が書かれていた。
 救命ボートがあるな。
 いわゆる船タイプと、ゴムボートタイプがある。用途別みたいな分かれ方なのかなぁ。
 歩いて歩いて、ようやく最前方に到達した。
 特等かスイート向けのサロンが窓から見える。
 舳先へ連なる甲板へは行く事は出来ず、脇の甲板から見下ろすだけ。タイタニック不可。
 一通り見終えて、部屋に戻ろうとしていた頃合いに、船内放送がかかった。
「ただいま、レストランにて朝食のご用意ができました。ご利用下さい」
 少し予定より早いようだ。よしよし、行くべし。

 レストランの入り口で料金の1,000円を支払う。
 アルコール類も売られているが、興味なし。あれは孔明の罠だ。基本の食料でいかに満足するかが、バイキングの本道である。
 さて、料理を貰おう。基本は少しづつでも種類を多く、だ。外食においては、量を二倍にするよりも、種類を二つにする方が高く付くものだ。
 ボイルしたウインナー、小松菜と揚げの煮浸し、筑前煮、異様に小さい焼き鯖切り身、焼き鮭、クリームコロッケ、潰しじゃがいもの揚げ物、冷や奴、白菜のお浸し、厚焼き卵、ゆで卵や半熟卵は卵がかぶるからスルーして、沢庵漬け、キュウリ漬け、焼きナス、ぶつ切りの辛子明太子はたっぷり、イカの塩辛、納豆、味付けめかぶ、味付け海苔、パンはいらない、スクランブルエッグは貰う。後は味噌汁とご飯は大盛り。大きな盆からはみ出んばかりの食事。
 んでは、いただきます。
 あ、ウインナーうまいなー。白菜のお浸しは冷たくさっぱりしていてかなり良い。焼きナスは冷蔵してあったようで、お浸し感覚で食べれば悪くはない。味噌汁が熱そうだったので冷や奴の豆腐を少し入れる。
 辛子明太子は好きなので、ちょっと多め。うむ、うまい。ひょっとすると、飯の友系で一番好きなのかも知れない。海苔と鮭とか、豚バラ炒めたのとかもそりゃあ強力ではあるが。
 ご飯が途中でなくなったのでおかわり。鮭に味付け海苔。本当は焼き海苔の方が旨いけど、まあ旅館の朝食というのは、このギャルの眉毛みたいに細い海苔が付き物で、既にそこには様式美のようなものが存在しつつあるので仕方があるまい。
 納豆とめかぶを食べる。うむ、うまい。
 味付けめかぶは、調味料で食べるようなものだが、こういうのも嫌いじゃないから困ってしまうな。
 野菜も万遍なく食べられて、昨日の粗食を補う勢いだ。
 さて、おかずとご飯のおかわりと行こう。
 ご飯はやはりたっぷりめ。
 おかずは、野菜を中心に。小松菜、白菜、ナス。後はウインナーと、辛子明太子をひと山。
 通風?
 今のところは平気だ!
 ……多分。
 いやぁ、やっぱり明太子はうまいなぁ。
 がばがばと食べる。
 通常は、肥満とか食後の気分とかを鑑みて、腹一杯を越えるような食べ方はしないのだが、今日のコンセプトは食い溜めなので、その辺のリミッターは外している。
 けど、なかなか腹にズシンとこたえて来た。
 最後にオレンジジュースか何かを飲もうかとも思ったが、そのスペースは既に腹になかった。
 後に残るは空の食器。
 最初に渡されたイエスノー枕みたいな札を、「下膳よろしく」にしてレストランを出た。
 しかし旨かった。
 空腹だった事を差っ引いても、いわゆるビジネスホテルの朝食バイキングよりも品数が多く、質も良かったような気がする。ビジネスホテルの場合は、品数がすぐに尽きて、ご飯でお腹を膨らせる感が強い気がするし。
 一杯になった腹を抱え、ゆったりと階段を降りる。
 げっぷの一つでも出れば、腹が少し落ち着きそうなのだが、それが出ない。中まで詰まっている感じか。
 仕方がないので、部屋に戻って横になり、ゴロゴロと過ごす事にした。
 秋田港に停泊していたのだが、起き上がって見物に行く元気はなかった。

 数時間横になっていて、腹はすっかり収まって来た。
 腹が痛いとか気持ち悪いとかはなく、単に窮屈なだけであった。
 良かった良かった。
 船上で体調を崩したら、かの有名な「この中にお医者様はいらっしゃいますか」になってしまう(船医ぐらいいるんじゃないか)。
 一〇時近くなったので、シアターに行ってみる。
 あ、もう始まってる。
 席も大体埋まってる感じで入り難い。
 仕方ない、今回はパスしよう。
 で、また部屋でゴロゴロし続けた。
 十四時を回り、十五時になろうという頃、腹も大分落ち着いて来た。
 そして、船は新潟に近付いていた。
 よし、今度は停泊の様子を見られるぞ。
 甲板に出て様子を見る。
 近付いて来る港。
 パンくずを放る乗客がいて、何羽もカモメが集まって来ている。
 波止場に接岸し、船尾からロープを投げ、それを手掛かりにもやい綱を引っぱり、杭にかける。もやい綱をウインチで巻き上げ、がっちりと船が固定される。
 通路をドッキングした部分から徒歩客が、側面の出入り口から乗用車やオートバイが降りて行き、最後に荷下ろし。  頭だけのチョロQみたいなトレーラーがフェリーに入り、コンテナを引っぱって出て来る。そして既にずらりと並んでいるコンテナの中に、ぴったりと収め、そしてまたコンテナを取りに戻る。
 車線の区別もないコンテナ置き場を、縦横無尽に走るトレーラーさばきは流石はプロと言ったところだが、ニアミスも多いし、多分、事故率も結構高いんではなかろうか。
 コンテナの積み卸し、積み込みも終わり、フェリーは新潟港を発った。

 新潟港を離れ、また船内に戻った。
 根が小原庄助さんなので、明るいうちに風呂に入ろうと考え、売店で使い捨て剃刀(三本ひと組230円)、受付でフェイスタオル(100円)を借りた。
 大浴場の脱衣室に来る。
 リターン式のコインロッカーに脱いだ服と財布を入れ、いざ、風呂場へ。
 大きく窓が開いた、湯船三つの大浴場。
 身体を洗って湯に浸かる。
 船内なので湯船のサイズは一つひと坪より少し大きいかってぐらいだが、手足を伸ばす分には充分の広さがある。
 うむ、なかなか気分が良い。他の客も一人二人しかいないので、気兼ねしないで良い。
 のんびり浸かってから出た。
 湯上がりの足で、コインランドリーへ向かう。
 下着類とタオルだけ水洗いする。
 風呂付きの個室なら、風呂場か洗面所で洗って部屋で干すんだけどねぇ。
 洗濯機氏が労働をしている間に、売店でビールを二本、つまみに明治のクラッツのベーコン&ペッパー味を買う。乗船前は、船内でビールを買うつもりはなかったのだが、飲んだ事のないエチゴビールの商品を見かけたので、予定変更をせざるを得なかった。缶から直接飲むと味が悪いので、コップも買う。プラコップが欲しかったが、売り切れとの事で紙コップで我慢する。
 窓に面した椅子に座り、窓枠をテーブル代わりに、こしひかり越後ビールをまずは一杯。
 んー。
 んまい。
 何となく米の香りがするような気もしなくはないが、細かい味の違いは分からんので誤差の範囲だ。
 クラッツをかじりながら、またビール。
 日の暮れかける空と、少し暗めな水平線。
 広々としていてよろしい。
 のんびり飲み食いし終えた。
 それから洗濯物を乾燥機に入れ、微妙に乾き残っているヤツを部屋に広げておいた。
 十九時からシアターでDVD上映があるようなので、それまでの間に夕食を済ませる。
 ブランサンドを半分と、カロリーバランスをひと箱、野菜ジュース。
 ふむ、やはりカロリーバランス旨い気がする。
 カロリー量は本家よりも少ないけど。
 食後、部屋でひと息付いた後、時間になったのでシアターに向かった。

 シアターのドアは開き、ウェルカムな状態。
 まだぽつぽつとしか席は塞がっていなかった。
 一番前の席を選んで座る。
 待つ事暫し。
 照明が落とされ、ディスプレイに輝かしく「SANYO」の文字が!
 DVDプレイヤーの待ち受けタイトル画面ですな。
 程なく、DVDが動き始め、映画のタイトル画面が表示される。
 「チャプター」「本編字幕」「映像特典」
 何か、タイトル画面をどーにかずらす事は出来なかったのだろうか。
 映画が始まった。
 作品は『インクハート/魔法の声』(2008年米英独合作)。
 本を読む事でその内容を現実に出来る能力「魔法舌」を生まれ付いて持った男の物語。
 ウィキペディアによれば、日本では劇場公開されず、DVD販売のみだとか。
 内容はヒーローの成長譚とか、物語の人物が現実とのギャップを起こすコメディとか、家族愛とか、そういう感じ。
 ハラハラドキドキの度合いは少ないが、ぼんやり観る分にはまあまあな作品。
 少し考えようとすると、途端に破綻するが。

○良かった点
 ・話の筋立てが「物語に閉じこめられた(と思われる)妻を救い出す」という一点で、目的を見失わずに済む。
 ・現実に引っ張り出された物語の人物、という部分が映像で見られるので楽しい。
 ・ラスボス以外の全員が、大体それなりのハッピーエンドに到達していて、後味は良い

○悪かった点
・メインの仕掛けである「物語を音読すると、現実の何かとその箇所が交換される」という能力が、曖昧で定義され切っていない。
 これはかなり酷い部類と言える。
 ある物語から人を呼び出した場合、その人物の帰るべき世界が、その「本」ではなく同一の物語ですらない。物語の書き換えは、作者以外の手によって行われても良いという破綻ぶり。敢えて解釈するならば、「魔法舌が、それを同一の作品であると認識して音読しているなら、その世界は共通している」てなところか。
 更に、この能力最大のリスクである「現実の何が交換対象になるか」はランダムで、ご都合主義の介在する余地が大きすぎる。言うなれば、カイジで本当に運の博打が行われるようなもの。
 ヒロイックな物語の面白味の一角は、ある危機的状況を、キャラクタが限られた力を駆使していかに切り抜けるところにある。
 リスクを伴う力であるなら、リスクを明確に定義しないと、リスクを回避するヒーローの努力が見せられないだろう。実際、後半ではバンバン魔法舌を使っているのに、メインキャラの誰も本の中へ飛ばされていなかったし。

・キャラクタの唐突な心変わりが全員分用意されていて、場当たり的
 協力出来ない、と言っておいて次のカットで思い直して帰って来るパターンの多用。
 そのキャラクタなら当然ある得る行動をしているのではなく、物語の「谷」を作る為に無理矢理前半の行動を取らせているような印象。

 こういう所で流すんだとしたら、そうだなぁ、『少林サッカー』とか、『男はつらいよ』とか、『レイダース 失われたアーク』とか、割と手垢付いててもまた観たくなりそうだな。

 映画が終わってから、部屋でゴロゴロしていたが、さして寝付けもしなかったので、買っておいたノートでキトラを少し書き進めたり、サッポロクラシックとブランサンドとクラッツの残りを食べたり、また部屋でゴロゴロしたりと、やっているうちに、船は敦賀港へ到着した。



<5月5日>
 敦賀港に到着したのは、予定よりも早い午前5時10分。
 その前に貴重品を受け取って、タオルを返して、ゴミを捨てて、準備万端。
 乗客中二番目ぐらいで敦賀港に降り立った。

 さてここからは、まず、敦賀駅に行き、そこから普通列車で大阪まで二時間だ。
 まずは敦賀駅に行くべし。
 確か、大阪直通の快速が6時2分とかだ。
 6時頃に出るシャトルバスでは間に合わないけれど、徒歩なら結構行ける筈。
 バッグをリュック型に背負って、小走りに進む。
 ああ、ターミナルに隣接した部分が公園になっていて、ずらっと釣り人の人が並んでいる。
 よく釣れるのかな。
 走る、走る、歩く、走る。
 冬は通勤に五キロぐらいノンストップで走っていたから、身体が走り慣れている。
 フェリーしらかばが遠ざかる。
 またご縁がありましたら、あばよ!
 行く手に巨大なパイプと繋がった建物が見えて来た。
 入り口まで行くと、火力発電所だと分かった。
 んー、でかいな。建物の尺が違う。
 港の近くだと、色々都合が良いんだろうな。燃料の輸送とか、電気を使う工場が近いとか。
 進んで行くと、今度はセメント工場らしきものがあった。でかいな、いちいちがでかい。セメントって、これだけでかい施設がないと作れないものなのかな。
 トンネルに差し掛かる。
 山肌がごっそり削られているけど、セメントに使う粘土でも取ったんだろうか。
 トンネルの中を走る。
 途中、花が供えてあった気がするけれど、華麗にスルー。
 トンネルから出て少し進んだところで、敦賀市街の表示があったので左へ曲がって進む。
 道なりに進み、敦賀駅の表示を発見。更に進むと、商店街に差し掛かった。
 走るうちにふと。

 メーテルと哲郎?

 ん?

 アルカディア号?

 んん?

 次々と目に付く銀河鉄道999関連の像。
 バス停のプレートにも絵が入っている。
 敦賀って松本零士縁の地なのか?
 不明なまま進む。
(後で調べてみたところ、「駅」「港」「科学都市」のイメージで、別に明確な関係はなかった)
 像の出来は良いな。
 絵のイメージそのままで、違和感はない。
 けれど、もうすぐ六時だ。のんびりと眺めているヒマもない。
 商店街を抜け、敦賀駅に到着。
 六時寸前。
 運賃表示が京都までしかなかったので、初乗り分だけ買って改札を通り、列車に乗り込んだ。
 席は長距離用で、進行方向に顔を向けられるタイプ。背もたれをがしゃんと動かして前後の交換可能。
 敦賀発なので、座席はガラガラ。
 やれやれ、汗かいた。
 リュック型のバッグは走りやすいけど、背中が汗だくになるのが欠点だな。
 あまりに濡れているので、洗濯したTシャツに着替えた。
 発車時刻になり、列車は動き出した。
 街を抜け、列車は山の中に入る。
 んー、田舎の風景だ。
 あ、山が切れて水面が見えて来た。
 海……じゃないんだろうな。
 琵琶湖だ。
 おー、でっかいな。向こう岸がほとんど見えないぞ。やはり海みたいだ。
 田んぼは棚田が並んでいて、田植え中。こんな風景もあるんだな。
 それから、時々ウトウトする程度で、二時間が過ぎ、大阪に到着した。

 おお、懐かしの大阪!
 という程でもないが、来た事のある大阪!
 食事は店の多い難波が良いと思うので、地下鉄に乗る事にする。
 お、一日券の安い方が使える日だ。これなら、一回途中下車で元が取れる。
 地下鉄でなんばへ。
 降りると、こんな時間から結構人出がある。
 店もぽつぽつ開いている。中にはまだやっている飲み屋なんてのもある。素敵。
 ともあれ、飯屋だ。
 食事の出来る店はないか。
 ぶらぶらと歩く。
 大阪らしくて手頃に安くて旨そうなもの、となると、うどん屋なんですけどね?
 赤いラーメン屋もあるけど、あの店入り難いんだよなー。
 手頃なうどん屋……。
 あ、吉野家ある。
 けど、まあ、それはナシ。
 金はあまり使いたくないけど、旅情を完全に無視しなければならない程切迫もしていない。
 なんばグランド花月だ。
 こんな時間から行列が出来てる。
 観たい気もするけど、吉本ってテレビイメージが強すぎて、金を払って観るものという感覚が乏しくもあるよな。以前に観た事もあるしね。
 更に進むと、「うどん170円」の看板が見えた。
 相変わらず安いなー。
 よし、ここにしよう。
 券売機もあるし。
 えーと、かけうどんと、かやくご飯かな。
 店内に入り、大きなお姉さんに食券を渡す。
 業態は立ち食い蕎麦屋。
 天ぷら類は自家製で、揚がったものが並んでいる。
 うまそうだが、今さら天丼を追加注文するのは無茶なので諦める。うどん、そば類に天ぷらを入れるのは油っこ過ぎて好きではない。麺類はさっぱり行きたい派。
「お待ちどう」
 うどんとかやくご飯が出される。
 まずはかやくご飯を一口。
 ふむ。
 ゴボウの香りがして、味付けは薄味。材料は、みじん切りにした人参、ゴボウ、鶏肉。それから桜漬けが添えてある。塩気が足りない場合は桜漬け、という味の構成だな。ご飯物は丸1日ぶりなので嬉しい。
 うどんは太すぎない麺、ゆで麺の温め直しなので腰はあまりなし、汁は――ずずっ――ふつうのうどん汁。細かいところは分からないが、うまい。
 ふう、ごちそうさま。

 も一つ物足りない感じはするけど、昼に豪華に行きたいので抑えめにしておく。
 繁華街内をまた歩いていると。  んー?
 行列が出来てる。
 長い、長いな。
 1つのブロックをぐるりと回るぐらいある。
 一体なんだ?
 先頭に回ってみると――。
 パチンコ屋の整理券の行列だった。
 難波には何軒もパチンコ屋があるので、行列だらけだ。
 大阪で極端にパチンコ人気があるのか、今日はパチンコの得意日なのか、元来休日のパチンコ屋というのはこんなものなのか?
 謎は深まる。
 その後、日本橋のアニメショップ街に行こうとしたが、場所をいーかげんにしか把握していなかったので辿り着けず、疲れも出て来たのでさっさと大阪を後にした。

 JRに揺られ、神戸は三宮駅に到着。
 ここも久し振りだな。
 うーむ、眠気が。
 スポーツドリンクを買って飲み、僅かに気を紛らわせる。
 出来れば一眠りしたいが。
 なんかこう、昼からチェックイン出来る安いビジネスホテルとかないかね。
 一応東横インの場所だけ把握していたので、つらつらと歩く。
 んー、一泊6,000円の、チェックイン十六時か。
 これだったら漫画喫茶のナイトコースを待った方が良いなぁ。
 気を取り直して、商店街に向かう。
 昼食は、神戸牛のステーキを食べようと、予め決めていた。
 えーと、店はステーキランド、だったな。
 ああ、あったあった。
 普段は二の足を踏む感じだが、最初から決めて来たので躊躇わずにさっさと入る。
 お手頃価格で食べでのあるまんぞくセットを注文。
「ぐるなびクーポン使えますか?」
「はい。ビールとワインが選べますが?」
「ビールお願いします」
 入口付近がカウンター席で、目の前のでっかい鉄板でいちいち焼いてくれるスタイル。店は狭く、カウンターの後ろは人一人がどうにか通れるぐらいの隙間、肘が辛うじて当たらないぐらいの席幅。
 さして待つ事もなく、前菜のスープが出される。
 肉の少し入ったトマト色の澄んだスープ。
 うむ、脂っ気は強いが、空腹時なので良い。
 次にコールスローサラダ。これは特に珍しいものもなし。
 そして、鉄板を使った調理。隣の客二人とまとめての扱い。
 まず、前菜にシメジ、ズッキーニ、こんにゃくのバター焼き。
 鉄板に半分ひっかける感じに置かれた皿に、焼き上がりを載せてくれる。
 ぽん酢を付けて食べる。
 ふむ。
 メインのステーキ。二百グラム。
 焼き方はミディアム、ニンニクは使用可で。
 レアの方が肉のうま味が云々言われるが、ミディアムはその料理人がベストと考える焼き加減であるからミディアムと呼ばれるんではないかなー、とか思う。少なくとも、初めての店ではその店の「普通」を食べない事には調子が分からんやね。
 バターにニンニクで香り付けしてから、焼く、焼く、焼く、切る、断面を焼く、焼く、そして皿へ。
 ソースはぽん酢またはニンニク風味のステーキソース。
 ようやくやって来たご飯、漬け物と一緒に、箸で食べる。
 んー、適度な歯ごたえと、バター主体の濃厚な味わい。
 うまい。
 店でステーキなんて喰う事ないから、比較も何もないけどな!
 それから、モヤシ主体の炒め野菜にコーヒーが出ておしまい。
 うむ、なかなか満足した。
 クーポンのビールは結局来なかったが、今さら来ても飲む気にならないし、葡萄は酸っぱいし別に良い。
 会計は、2,680円也。
 居酒屋で一杯やったと思えば高いという程でもない。

 店を出て、海へと歩く。
 睡眠不足だが、何となく目は醒めたし、軽くその辺を見て、後は漫画喫茶でゴロゴロしよう。
 と、歩いていると。
 『神戸市立博物館:古代ギリシャ展』のポスターが。

 ――そりゃ入りますよ。
 大英博物館にある、教科書でしか見られないよーなものが展示されてるとなりゃあ。

 一つ一つ大理石の像やら、ツボの絵やらを見ていく。
 有名な円盤投げの像から、ゼウス像、漁師像。
 指先の爪の根本まで作り込まれている様は生身の人間から型取りしたかのよう。
 この辺りは、写実である事そのものが目的だったんかいなぁ。
 美術が美を目的とするのであれば、写実であるか否かは無意味な議論だ。
 芸術が主張を伝えるものであるとするなら、やはり写実そのものに価値はない。
 そこには、素朴な造物主になる愉しみがあったのではなかろうか。
 どれほど写実的に作られるかという、ゲーム、競技、オリンピックそっくり彫刻部門そういった部類のものだ。

 特別展の後は、常設展示を観る。
 おお、神戸の外国人居留地の事に触れてるじゃないか。
 作品の関係で、丁度この辺の事を知りたかった。
 犬も歩けば棒に当たる、正しくこれだな。
 後でガイド買っておこう。

 展示をすっかり見終えて、神戸市立博物館から出た。
 大きな寄り道をしたけれど、目的地は変えずに海へ。
 埠頭が公園になっていて、今日はイベントをやっているようだ。
 傍らには、阪神大震災で崩れた元の埠頭が保存されている。
 今回の震災で、すっかり過去のものになった印象だな。
 日も傾きかけていたので、さほど長居はせずに、駅前に戻った。
 晩飯をどうしようかと迷いながら歩く。
 居酒屋は神戸に限ったものではないし、割高になってしまう。
 肉は昼に食べたから、焼肉、しゃぶしゃぶ、ステーキなんかは元より選択肢にない。
 お好み焼き屋の類もなくはないが、どことなく入り難い。
 一番入り易い回転寿司屋は見当たらない。
 ウロウロし続け、結局。
 三宮の駅に程近いうどん屋に入った。
 またか。
 そして、カレーセットのカレーが切れていたので、かやくごはんのおにぎりと肉うどんにした。
 しかもかやくご飯かぶってるよ!
 何の自覚もなかったのだが、こう、海苔が周りにぐるりと付いているタイプのおにぎりは、どうも白いご飯では据わりが悪い感じがするのだ。で、色の付いているかやくご飯。
 こっちのかやくご飯は、朝のと違って少し味は濃い目。醤油の色自体も濃いかな。これ単体で食べさせる味だ。
 うどんは、甘めの肉が味を強めて良い。肉は牛肉? 豚ではないと思うけど。
 うむ、うまいうまい。物足りなさはあるが、悪くない。
 食事を終え、店を出る。
 さて、漫画喫茶だ、漫画喫茶。
 手頃な漫画喫茶に目星を付けてから、看板持ちの人を見つけて割引券を貰って入った。
 漫画喫茶が多いのは有難いな。
 函館の漫画喫茶事情と来たら……。

 部屋はお座敷タイプを選んだ。
 貴重品入れの金庫が置かれているのが良い感じ。
 漫画喫茶泊の心配は、やっぱり財布を抜かれる事だからねぇ。
 PCの電源を入れる。
 あー、丸二日ぶりのPCだな。禁断症状って事はないけれど、家に帰って来たようなホッとする感じはある。



<5月6日>
 ニュース類などをざっくり見てから、漫画を読みつつゴロ寝する。
 PC卓の下に足を突っ込むと、コードが絡んで来るが、ガマンガマン。
 ゴロゴロゴロゴロとするが、何となく眠れない。
 目覚まし時計の類がないのも理由かも知れん。
 時間が来れば起こされる筈なんだから気にする事もないのに。
 けどまあどうせ徹夜したところで、明日は朝に飛行機で帰って眠るだけ。どうって事はない。
 開き直って漫画を読みふける。
 もやしもんの新しいとこまで読んで、テルマエ・ロマエを二巻まで読んで、あっちこっちを三巻まで読み返して、神のみぞ知るセカイをアニメの二期の終わりぐらいのとこまで読んで。
 朝。
 支払いを済ませ、漫画喫茶を出た。
 食堂の類は開いていないので、ファミリーマートでおにぎりを買い、そのままポートライナーで神戸空港へ向かう。
 ポートライナーは人工島を縦断して空港へと到着した。
 所用時間は三〇分かからない。アクセスの良い空港だなぁ。
 搭乗手続きを自動チェックイン機で済ませてから、空港内をブラブラと歩く。
 三階建てのシンプルな作りの空港だ。羽田や新千歳や成田と全然違うが、むしろ、こういう空港の方が多数派なのだろう。
 本屋を覗くが、買ってまで読みたくなるようなものはない。
 R25でもあれば良いのだが、ここにはラックがないようだ。
 上の階では、タコ焼き屋が準備中で、うどん屋とレストランが営業していた。
 うどん食べとくか。
 朝なのでメニューが少ないが、めげずにざるうどんを注文した。
 セルフサービスの生姜を添えて、食べる。
 つゆに麺を浸けてすする。
 ぶっとい麺。
 今までと違う。
 讃岐うどんだから、こっちの名物ではないわな。細い方が好みだ。
 けれど、冷たい麺はやはりうまい。
 これは何なのだろう。
 つゆの味が濃くて分かりやすいから、ってだけだろうか。
 瞬く間に食べ終わり、ごちそうさま。
 店を出てから、空港内の椅子に座っておにぎりを食べた。
 まあまあ腹一杯。

 座っていると眠りこけてしまいそうなので、さっさと搭乗ゲートをくぐる事にする。
 ……使い捨て剃刀の残りがバッグの中に入ってるけど、平気かな?
 まあ捨ててもそれほどダメージのない額だけど。
 どうだろう。
 ゲートをくぐると――。
 ノーリアクション。
 やったっ!
 その後、飛行機の中で前後不覚に眠り、列車では乗り過ごす事もなく、無事に家に帰りましたとさ。どっとはらい。



<出費>
ノート:147円
鉛筆削り:294円
鉛筆:168円
交通費:1,790円(琴似――浜厚真)
交通費:9,000円(苫小牧東港――敦賀)
飲食:1,000円(朝食バイキング)
剃刀:230円
タオル:100円
越後ビールコシヒカリ:280円
越後ビール:280円
クラッツベーコン:130円
紙コップ:20円
コインランドリー:250円
交通費:2,210円(敦賀――大阪)
交通費:600円(フリーチケット)
飲食:330円(うどん、かやくごはん)
交通費:390円(大阪――神戸)
スポーツドリンク:105円
飲食:2,680円(まんぞくセット)
入場料:1,500円(大英博物館古代ギリシャ展)
神戸市立博物館総合案内:800円
飲食:650円(肉うどん、かやくごはんおにぎり)
漫画喫茶:2,000円(12時間ナイト)
おにぎり:420円
交通費:320円(三宮――神戸空港)
飲食:450円(ざるうどん)
交通費:16,800円(神戸空港――新千歳空港)
交通費:1,180円(新千歳空港――琴似)

合計:44,124円



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