思い立ったが随筆


 日々思う由無事を書き連ねています。



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2011/8/29 『思えば遠くへ来た……のかなぁ』第28回 上を向いて、歩かずにじっとしている:札幌天文台

 とある日曜、長編を書いている最中、地球から宇宙がどれだけ見えるかについて、疑問に思い、ぐぐったり、wikiったりした。wikiるとかいう言葉があるのかどうかは知らん。心で理解すること。

 で、宇宙の観測というと、やっぱり天文台だろうけど、そもそも天文台って言葉は、本当にイメージ通りのドーム型のアレで良いのか? ひょっとして、何かしら一つの複合的な施設があってその総称が天文台で、自分のイメージした使い方と違うんなんじゃないか、とか、世界一の天文台は何か、とか、電波望遠鏡ってつまりどういう風に見えるんだってばよ、とか、アメリカの天文台までの道をストリートビューで辿ってみたりとか、実体験が伴わない言葉だけに、まあ色々無駄に調べる羽目になった。
 こういう時に、ネットは大変便利だと思う。図書館や本屋で同等のデータを集めようとした場合、恐らくは見つからないし、見つかったとしても数百倍の時間がかかる。昔の作家が「そこまでは読者も知らんだろう」と、放置していた部分が調べられるのは有難い事である。例えば、青酸カリの「アーモンド香」は有名だが、その「アーモンド」はいわゆるチョコとかに入っているローストされた種の事ではなく、果肉の部分の甘酸っぱい香りであるとか、そういう事がサクサク分かる嬉しさだ。

 そして、調べる中で、「札幌天文台」のリンクが目に留まった。
 ……え? 札幌にあるんだ。
 ちょっとページを閲覧してみる。
 場所は。

 中島公園、だと?

 なんじゃそりゃ。
 山の上ばっかりじゃないのか。
 道外の人の為に言っておくと、中島公園ってのは、

 地下鉄で、さっぽろ、大通、すすきの、中島公園、の順だ。

 当然、まだまだ街中で、山でも森でもない。
 店は少ないが、ビルもある。
 街明かりで星なんか見えないんじゃないかねぇ。
 でもまあ、観測会とかやってるな。過去の遺物とかではなくて、きちんとアクティブな施設らしい。

 ……観測会?

 あ。
 今日やってるじゃないか。
 特に予約とか料金とかはなくて、問い合わせの電話番号だけが書かれている。
 20時から、22時までか。
 ……今から間に合うな。

 夜の札幌を愛車ぽす太で走る。
 天文台で星を観るなんて、自分にとっては間違いなく初めての事だ。取材にもなるし、旅ネタにもなる。なんてステキなんでしょう。
 こいうのが毎月あると手間がないんだけど、どこに行こうかとダラダラ考えるのもまた、人生にとっては大切な時間なのかも知れないが、そもそも人生にとって無駄な時間なんてものを設定するならば、もう丸ごと人生そのものが無駄なんじゃないかとも思うし、つまり自分の受け取り方次第だと思う訳で、毎日贅沢な食事が出来る金があっても過労で心身を壊したりとか、足るを知らないのが幸せで、足に幸せを覚えるのが足フェチで、しかし美的には脚の方が美しいと思うが、トゥルーラブストーリーの何作目かでベッドに腰かけるヒロインの裸足が妙に卑猥であったからイーブンとか、そういうのがアレでコレだったりするようなソレであり(まとめれ)。

 脳内オーディオで「天体観測」が自動再生される中、北五条手稲通りを走る。
 夜に札幌中心部に向けて走る事ってあんまりないから、ちょっと妙な感じがするな。
 引っ越して来た当初は、この辺の道の特徴のなさに混乱して迷ったものだが、もうすっかり慣れた。考えてみれば、二年以上過ぎてるんだもんな。
 こういう時間に走ってると、職務質問されるんだよなぁ。
 その時に妙な口実を与えない為にも、左側通行とかは出来る限り守って、のんびりペースで走る。自分は自転車は特に飛ばさない方である。脚力もそんなにある訳でもないし、自転車もシティサイクルだし、そもそも体内スピードの上限が低く、速さを制御仕切れないのだ。
 札幌中心部に近くなったので、植物園の手前で南下する。
 それから、東へ東へと進んで中島公園到着ー。

 駐輪場に自転車を停め、公園の中を歩く。
 人がほとんどいないな。
 灯りは少なく薄暗い。
 いや、二、三人で立ち止まって話してる学生っぽい人がいるな。
 ああいうのの側を通る時って、緊張するなぁ。
 ええと案内図によるとこっち……あれ、出ちゃった。
 庭園が閉まってるからか?
 まあいいや、こっちの……渡辺淳一文学館に近いとこの入り口から入って、こっちの……。

 丘というよりも盛った土ぐらいの高さの場所に、階段があり、その先にドーム状の建物がある。
 おお、天文台だ、実在した!
 うわ、屋根のとこが開いてる。
 灯り点いてなくて暗いけど、どうやらやってるっぽいぞ。
 階段を上ってみると、十人前後の参加者が、建物の傍らで職員の人の解説を聞き、少し離れた場所では、市販サイズの望遠鏡も空に向けている。
 受付も何にもある訳でもないので、「こんばんは」っぽい呻き声だけ上げて、参加者の後ろにくっつく。
 で、本命の天文台の方は……。
 おお、ドアが開け放しで、ドームの中に入れるようになっている。
 何のアナウンスもないけれど、時折入ってみる人もいたので、自分も入ってみる。
 事務室横の階段を三、四段上がって、ドーム部分へ。

 おお。
 望遠鏡だ。
 いわゆる市販の望遠鏡をでっかくした感じ。
 それが、真上を向いて固定されている。
 ドームの屋根部分は、長方形の部分だけが窓が空いている。ナントカ研究所のバリアみたいにパッカリ開いている訳ではない。
 何はともあれ星を見てみよう。
 んーと、どこから見るんだ?
 接眼レンズは……ああ、これか。
 ガイドの職員さんがいるでも、先達の見学者がいるでもないから、ちょっと迷った。
 確か望遠鏡は触ると狙いが狂う筈から、触らないように手を後ろに回して覗く。

 うん、星だ。

 外に出て、もう少し星について一問一答な感じで会話している職員の人を見てから、また、改めて天文台に入る。
 隅っこに棚が置かれ、「天文台発トピックス」なるチラシがあったので、貰っておく。
 ふうむ。
 望遠鏡だなぁ。
 と、眺めていると、職員の人がやって来た。
「見ましたか?」
「え? いや、良くは」
「どうぞ」
 勧められるままに、もう一度見る。
 星が二つ……三つか。
 何となく目が霞む。
「ダブル、ダブルスターです」
「星が二つに見えるのは、乱視ですかね」
「いや、ちゃんと二つあるんですよ」
 ああ、なんだ。
 明るい星が二つ、更に一つ一つが二重星になってるんだ。
 ほお、ふうん、凄いな。

 ……感動がイマイチ伴わないな。
 天体観測をしていて、最初にこれを見つけた人はもの凄い感動をしたろうに。
 ああ、そうか。
 こういうのは、前段階として、まず肉眼で星を見て、「あれを望遠鏡で観たら、ほら、この通り!」「わあ、凄い!」「オマケに高枝切りバサミが付いちゃいます」「どっひゃあああああ!」「今なら送料無料!」「うひぃぃ、あひぃいいいいい!!」みたいな流れがあっての事なんだな。

「外に出てて下さい」
 職員さんに言われ、ドーム部分から離れる。
 と、屋根がモーター音と共に回り動き出した。
 ほおお、こういう風に動くんだ。重い物が動くやかましい音だ。
 それから、望遠鏡を操作して別の天体に合わせている。
 なるほどなるほど、この辺は普通の望遠鏡っぽい。
「外に出てて下さい」
 あ、なんだ、建物の外って事か。
 改めて外に出て待っていると、職員の人が出て来て、次に見られる天体が星雲である事を一言二言で説明してくれた。
 見学者は随分増えて、二十人かそこら。年齢にばらつきはあるが、親子連れも多い。
 親子でちょっと来てみるのって良いかも知れんね。長い時間は保たないけど。
 順番が進んでいたところが。
「ISSが見えるんで、こっちを先にしませんか」
 職員さんが声をかけに来た。
 あい、えす、えす……宇宙……なんか聞いた事がある、すぐに見えなくなるような言い方をするという事は人工衛星……あ、国際宇宙ステーションか。
 天文台の外に出ると、職員さんがみんなに見える位置を説明している最中だった。
 言われた方向の空を見ると……おお、見えた見えた。
 星みたいな点が一つ、それなりに低い位置をのんびりと動いている。
 ビルの陰に一旦かくれて、その後また姿を現した。
 ほおー、こんなに簡単に見えるんだ。
 そうだ、小学校の頃、公園で人工衛星らしきものを見た事があったっけ。

 ISSを見終えて、改めて天文台に入り、望遠鏡を覗く。
 星雲だけに、ぽつぽつ星が見える。
 うん。
 凝視するよりもぼんやり見た方がよく見えるとか。
 しかし目をきっちりくっつけて固定出来ないせいか、どうにも視点がフラフラ動いて見辛いな。
 今度は別の星雲。
 星の数は多いけど、遠いからあまり感動的な見え方はないとかなんとか。
 ふむ、ぼんやりと星がいっぱいある感じだなぁ。

 出ると、夏の大三角形について解説をしていた。
 空を見上げながら、言われる通りに星を見る。
 あれがデネブ、アルタイル、ベガ。
 一番は蝸牛だと思うが、それをもって炉と決めつけるべきではない。何となれば、萌え方面にチューニングされた作品に出て来るキャラクタは、根本的に「かわいく、愛される」というテーマに合致するファンタジックな存在、言うなれば叡智の結晶だからだ(脱線し過ぎ)。

 観測会は続いていたが、まあもう一通り見たという判断で、二十一時頃に札幌天文台を後にした。
 やはり札幌市街は光害の影響は避けられない。定山渓だと星がいっぱい見えるらしいから、一度泊まりで行ってみるのも良いかもなぁ。

<出費>
なし



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