思い立ったが随筆


 日々思う由無事を書き連ねています。



 月記帳 バックナンバー

2006  5月  6月  7月  8月  9月  10月  11月  12月
2007  1月  2月  3月  4月  5月  6月  7月  8月  9月  10月  11月  12月
2008  1月  2月  3月  4月  5月  6月  7月  8月  9月  10月  11月  12月
2009  1月  2月  3月  4月  5月  6月  7月  8月  9月  10月  11月  12月
2010  1月  2月  3月  4月  5月  6月  7月  8月  9月  10月  11月  12月
2011  1月  2月  3月  4月  5月  6月  7月  8月  9月  10月  11月  12月
2012  1月  2月  3月  4月  5月  6月  7月  8月  9月  10月  11月  12月
2013  1月  2月  3月  4月  5月  6月  7月  8月  9月  10月  11月  12月
2014  1月  2月  3月  4月
2014/5/30 『思えば遠くへ来た……のかなぁ』第61回 はいきょ!:夕張市石炭博物館

 以前も話したかも知れないが、大学時代、自転車で遠乗りした事がある。
 一度目は太平洋へ抜けて長万部から北上して日本海へ向かい戻って来るルート。二回目は、海岸沿いに留萌へ向かい、内陸を通り札幌へ戻るルート。
 留萌から戻る道で、綺麗に整備されつつある公園と、博物館のような施設を見かけたが、金もなく疲れてもいた為、入る事はなく、ただ、地名の夕張だけを認識して通り過ぎた。
 あれが何であったかは、今となっては曖昧である。通ったルートもイマイチ判然としない。

 当企画の行き先を探す時に、夕張が遡上に上がることは時折あった。
 けれど、夕張はご存じの通り破産した市であり、施設や行事など、見るべきものは極端に少なく、それに合わせてか鉄道の本数も少ない。結局、行きやすい他のところになっていたのだが。
 今回、北海道のイベント検索をしていたところ、丁度石炭博物館が営業している時だったので、行く事に決めた。ちなみに、石炭博物館の営業日は、今年だとゴールデンウィークに合わせて始まり、11月の始めに終わる、冬場は完全閉鎖のパターン。うかうかしていると営業日を見逃す。

 当日。
 妙な時間で目が醒めてから寝付けなかったので、4時頃に朝食をとってから、ダラダラと過ごした後、雨降りの中、JR琴似駅に向かう。
 気温が10度前後で冬と比べれば暖かいものだが、この時期だとかなり寒く感じる。一枚多く着て正解だ。
 JR琴似駅の券売機で一日散歩きっぷを購入する。
 一日散歩きっぷは、西は小樽、長万部、東は美瑛、様似、新十津川辺りまでの普通列車乗り放題のきっぷである。詳しい人の場合は、「いやいや、新夕張、新得の間は特急に乗れる」とか言うかも知れないが、そういう文脈ではない事を理解し、筆者の述べたい事を推し量る必要がある。尚、国語の問題において「『作者の気持ち』なんて、早く原稿を上げたいとかそんなのだけだ」とか言ってドヤ顔をする向きがあるが、あれは「文意を取れ」という事を、学生にも分かる言葉で表現しているに過ぎない。大体、その作者の本当の気持ちとやらが推察出来るのならば、出題者の言わんとしているところも察して然るべきである。
 9時42分発のJRに乗り込む。
 早起きしたのにノロノロし過ぎ?
 いや。
 これが、夕張行き普通列車における始発なのだ。
 ひどいね!

 JRでガタゴト揺られて進む。
 札幌駅で乗り換え、千歳駅で乗り換え、JR石勝線で新夕張、また乗り換えて夕張へ到着した。
 12時22分。
 地図を見れば分かるが、札幌と夕張はそれほど離れてはいない。旭川の方が遠いぐらいなのだが、列車の本数とかルートとかに足を引っぱられて、妙に遅く、行きにくい。自動車を使う事が前提の交通事情か。
 列車から降りると……やっぱり雨模様。
 んー。
 駅舎内には売店とも何とも付かない空間が一つ。駅前は屋台村っぽい建物、セイコーマート、ガソリンスタンド。裏手は「レースイリゾート」とやらになっているようで、ホテルが一軒。宿泊客以外も入られる温泉もある様子。
 さて、昼食はどうしたものか、石炭博物館に何かあるかなぁ、と考えながら、歩きはじめる。
 距離にして2キロぐらい。まあ歩けない距離ではないし、バスもあるんだかないんだかだし、歩き一択だ。

 雨は降り続けている。雨足は強すぎる程でもないが、ジャンパーのフード一つでしのげる程でもないので、傘をさす。
 ダラダラと歩くうちに、建物が見えて来た。
 屋根が凹んで窓が破れて……かなりでかい廃墟だぁ。
 そう、この町は、廃墟感が全体的に漂っている。
 市役所の建物の裏手を過ぎる。使われている建物の筈だが、古いままの薄汚れた感じのせいか、先入観からか、どうも廃墟的印象がある。
 その先に、映画の絵看板が見えて来た。
 映画館……というワケではないらしい。
 よく見れば、民家のあちこちの壁に、映画看板が付いている。それもシェーンとか七人の侍とか、往年の名作ばっかり。思い起こせば、駅前のホテルにも看板が貼られていた。夕張で映画祭とかもあるから、映画イメージ付けてるのか。面白いと言えば面白い。
 映画看板以外、見る物が現れない。ちょっと立ち寄って風を避けるような店もなく、小学校や図書館も廃墟になっていたり、柵が倒れていたりする(北海道の柵は、雪の重みを受けるので、手入れのされていない場所はすぐ倒れる)。
 歩く事30分、ようやく見張り台のような塔と「夕張市石炭博物館」の表示が見えて来た。手前に花畑牧場の店舗があったが、それはスルー。義剛イメージが最悪に働いた気がするんだよな、ここは。

 石炭博物館は、公園の中の一部という作りをしている。
 まずは大きな駐車場と土産物屋――の、廃墟があって、煉瓦のゲートの前にレストランのビッグボーイみたいなマスコットがある。色褪せた炭鉱夫人形、炭鉱の児童労働は禁止された筈だが。
 中に入るとお土産屋――の廃墟があり、分館の生活館と化石館――の廃墟があるが、その先の坂を上がる。
 雨のせいか、路面のあちこちにミミズがいた。良い土なんだね(フォロー)。
 坂を上り切ると、煉瓦張りの文化会館とか図書館みたいな二階建ての建物が見えて来た。
 これが石炭博物館である。
 建物の正面には、アジア圏の石炭の元となったと言われるメタセコイアの大樹と、大きな石炭、掘削用のカッターが展示されている。
 中に入り、受付のお姉さんからチケットを一枚購入する。
 食事とのセット券があるような事が書いてあったが、食堂があるようには到底見えない。
 では、順路に沿って進もう。

 まずは巨大なエアコンプレッサー。可燃性のガスや粉塵が発生しやすい鉱山内は火気厳禁のため、圧縮空気で動く機械が主となる。その大元がこの機械なのだそうだ。
 それから、巨大な石炭の塊。巨大なつっても、そもそも石炭は地層の一部分であるから、掌サイズのものの方が小さい例外的か。一つ一つ、エネルギー量の表示がある。キロ当たり8000キロカロリーとかそういう表現。当たり前と言えば当たり前だが、炭脈の状況によっては不純物が多くて発熱量が少ないのとかあらあね。ゴミみたいなのは捨てられてボタ山になる訳だ。
 それから、鉱山の定番、化石。主にアンモナイト系がゴロゴロ展示されている。炭鉱で働いている時に化石が出て来たら、嬉しいのかそれとも面倒なのか。落盤とかガスとか、運に左右される事も多い場所だし、ああいうものは縁起を担いで疎かにしないのかも知れないな。
 化石の後は、樹木の模型の展示。表にもあったメタセコイアと近隣の植物。
 これらの植物が水に沈んで堆積するなどの経緯を経て、石炭になっていく、と。
 この説明を見るまでは、植物が堆積して石炭が出来るっていうメカニズムはちょっとピンと来なかった。木の葉にせよ枝にせよ、地面に落ちたものは腐り分解され、次の植物の養分になってしまうのではないか、と。でも水に沈んだと考えれば確かに理解は出来る。民話で言うところの木竜漆の状態だろう。
 一通り見てから順路は2階へ続く。
 2階では、石炭の利用や生成に関するちょっとしたパネルの他、炭鉱で働いていた人たちの白黒写真の数々が多くのスペースを割いて展示されていた。
 炭鉱に入る前のチェックであるとか、ダイナマイトを入れる穴を開けるところだとか、地上に上がって風呂に入っているところだとか。顔はシャネルズ並にまっ黒になっており、その過酷さが知れる。坑道内での食事の様子も撮られているが、上から石や何かが落ちて来る為、弁当箱の蓋で覆いながら食べており「この写真は自分が仕事を辞めるまでは女房には見せてくれるな」とのモデルになった作業員の言葉が付いている。
 これらだけも過酷さは伝わって来るが、その先には事故に関する展示がされていた。ガスが噴き出す、落盤が発生する、火災が発生する。昭和に入ってからも炭鉱事故は数十人規模の死者を出した。
 エネルギー政策の転換や大事故の発生によって、結局夕張の炭鉱は閉山され、今の廃墟だらけの夕張の風景をもって展示は締め括りであろう。
 炭鉱で使う道具類の展示もあった。ヘッドランプの充電装置というのがあるが、なるほど、ライト単体で成立しているのではなくて、弁当箱ぐらいのバッテリーパックと繋がってるんだな。毎日、一日付けっぱなしにするんだし、単三乾電池というわけにはいかないのだろう。

 順路は、地下へ向かう。
 エレベーターに入ると、明かりが消えアナウンスが流れる。
「これから千メートル下の坑道へ参ります」
 2分もしないうちに、到着、扉が開く。
 ひんやりとしている。
 むむ、地温勾配は摂氏0.03度/mの筈だから、千メートルだと30度は上がる筈なのに、なるほど、観光用にエアコンをガンガン使っているな。しかも広々とした穴を作って、かなり手間をかけている。
 穴に沿って、炭鉱で働く人々の人形が展示されている。
 その先に、神社があり、いよいよ炭鉱内か?
 入ると、説明の音声が流れ、掘削機械が動きはじめる。
 やかましい音で動く機械やベルトコンベアに、説明はよく聞こえない。
 機械類を見終わって順路を進むと、係員の人がヘッドランプ付きのヘルメットを貸してくれた。

 ここから先が、史蹟夕張鉱になる。
 ヘッドランプで処々に置かれた説明書きを照らして見ながら進む。「まっくら坑道」の名ほどに暗くはないが、影の部分はそこそこ暗い。
 これはエアテント、ガスの噴出時には逃げ込んで口を閉め救助を待つ、か。中は2畳程の樹脂製のテントで、圧迫感はこの上ない。ふむ、こっちは非常時にかぶると新鮮な空気が出て来る装置……って、ただの袋に管が付いてるだけだ。
 坑道の天井からぶら下がってるのは、砂箱と水袋で、爆発が起きた時に衝撃で落ちて火を素早く消す、原始的なスプリンクラーのようなもの。
 掘削の機械が壁を削らんとしているのもある。
 ここから坑道は下へ少し下る。実際の坑道を再現しているのか、坑道の天井を支える支柱がずらりと並ぶ。過去は木組みだったが、現在は伸縮型の金属支柱。簡単に言えば、タンスの耐震用突っ張りの親玉みたいなのが、50センチ置きぐらいに並んでいる。こうまでしないと潰されるって事だよなぁ。掘り尽くしたら取り除くらしいけど、外すのは凄く怖そうだ。
 順路はこれで一回り、後は上り。
 階段の先に表の明かりが見えて来た。
 階段の途中で「タヌキ掘り」なる、古い堀り方の穴と人形があった。横になりながらツルハシ使ってる。相当怖そうだな。
 そしてようやく地上に辿り着いた。
 やったー!
 千メートルの地下から無事に出て来た。ものすごい上昇速度だ!
 で。
 ヘルメットはどこで返すんだ? 生活館?
 ええと、あ、ここに回収の箱あった。
 ノーチェックか。盗まれたりしないんかな……まあ、回収の人を雇う方が高く付くのか。

 それじゃあ。
 帰るか。
 帰りの普通最終列車は16時27分発なのだ。
 ……寂れる訳だ。
 いい加減疲れたし寒かったので、駅に向かう路線バスの一つもあれば乗りたかったが、なさそうなので帰りの道を映画看板を眺めながら歩く。
 廃墟が多いし、田舎の常として住人が徒歩で外出をしないから、ゴーストタウンさながらだな。
 よく見ると開いている店も見えるが、入る気にならない。
 雨は降り続く。
 早足で歩き、ようやく夕張駅に辿り着いた。
 15時20分。
 出発時刻まで丸一時間あるな。

 よし。
 温泉に入ろう。
 ホテルの裏口のような温泉入り口から入る。
 券売機で貸しタオル付きの「手ぶらセット」のチケットを買い、カウンターでタオルを受け取り、ロッカー用の小銭の為にいろはすのハスカップを一本買って浴場へ。
 狭めな脱衣室で準備し、中へ入る。
 浴槽が3つ、サウナが2つあり、その奥に洗い場という特殊な作りをしている。
 身体を洗って、まずは――高温風呂? 42度。適温ぐらいだな。
 湯に浸かる。
 んー、冷えた身体が良い具合に温まる。
 その他に、38度ぐらいの低温の風呂と、マッサージの泡風呂。露天風呂がある。
 あ、加熱、加水についての注意書きがある。マッサージ風呂については、カルシウムの付着を防ぐ為に加水をしている。その他の風呂については、加水はしていないが泉温が低い為に加熱をしているとの事。うん、こういう風にはっきり言って貰えると良いね。
 尚、温泉の効能は、関節痛とか神経痛とかそういう方面。肋間神経痛とかやや出気味なので丁度良いかも知れない。
 身体が温まったところで、露天風呂へ。雨も露天風呂なら気にならない。ぬるめの湯は露天風呂の宿命か。湯が流れる石の壁が塗ったような赤錆色になっている。ふむ、いかにも温泉だ。
 他の客がほとんどいないので、のんびりとマッサージ風呂と低温風呂も入って、サウナは心臓に悪そうだから入らずに上がった。
 すっかり温まって、温泉を後にした。
 その後、セイコーマートで標津羊羹と札幌タイムズスクエア(小豆)を買い、帰りの列車で食べた。羊羹は金時豆を使ったちょっとクセのある味。タイムズスクエアは、萩の月のパクリとばかり思っていたが、小豆が入るとオリジナルっぽくなる。小豆とクリームの組み合わせは好きだな。パンでもそういうのあるね、サボージュとか――と、言いかけて、ちょっとググったら、札幌のパン屋どんぐり関係の言葉にばかりヒットする。ひょっとしなくてもローカルなパンか。
 その後、列車に揺られながら、本を読もうとして眠って起きて、ぼちぼち目が醒めたので改めて本を読もうとするとなんか声のトーンを調整できないタイプの人がいて気が散って、なんて事をしているうちに、妙に停車が長い事に気付く。まあ、いずれ動くか――と思っていたら、40分ばかり停車していた(17:26〜18:10)。なんかこれ終点と始発だよね? 路線検索だと「夕張――南千歳」で表現されてたから、完全に見落としてた。最初から分かってたら、改札を出て駅前を見るぐらいの事はしたのに。


<出費>
交通費:2,260円(1日散歩きっぷ 琴似―2,160―夕張)
入場料:1,230円(夕張市石炭博物館)
入湯料:1,150円(レースイの湯 手ぶらセット)
飲み物:120円(いろはす)
食費:300円(札幌タイムズスクエア150円 標津羊羹150円)
計:5,060円


トップへ