思い立ったが随筆


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2015/1/28 『思えば遠くへ来た……のかなぁ』第69回 きらびやか王輝かせるダイオード:冬の特別展『深海生物展』円山動物園

 年末、地下鉄大通駅を歩いていると、一つの広告が目に留まった。

 円山動物園 冬の特別展『深海生物展』

 『深海生物』その一語を聞いただけで、私の心は決まった。
 深海生物、地球の生物の中で最も人類と遠い場所にいるもの。
 その意味不明さは、そのまま人の持つ可能性と多様性を示す。
 ――深海生物ってなんか良いよね。
 こう、分かりやすく珍しいものを見た、っていう気分になるし。
 しかも、円山動物園は、年間パスポートを買っている。
 交通費だけでお安く行けて、実に都合が宜しい。

 当日。
 あれこれと用を済ませるうちに時間が経ち、昼過ぎの出発となった。
 ドニチカキップで地下鉄に乗る。
 500円のイメージがあるけど、値上がりで520円なんだよなぁ。こういうのがじわじわ効いてきたりするのだが、まあ言っても仕方がない。
 瞬く間に円山公園駅に到着した。
 結構な数の乗客が下車していく。
 年始の頃なので、初詣の客が多いのだ。

 動物園に初詣?

 そう。
 アイヌ文化を引く北海道では、クマを始めとする幾つかの動物がカムイとして神格化されている為、初詣に動物園に行く事は自然な事なのだ。勿論ウソだ。単に、円山公園に北海道神宮が含まれるだけなのだ。
 地下鉄駅から出て、雪を踏み締めながら円山公園の中を歩く。
 雪の道を歩く時には、常に転倒を気にしなければならない。
 よそ見をしていると転ぶし、ぼんやりしていても同じ。
 介護現場における要介護者の転倒リスクの測定方法の一つに「歩いている要介護者に声をかけた時に、立ち止まって返事をするかどうか」というものがある。歩きながら返事が出来る場合は、歩行に割いても尚、脳の処理能力に余裕があるということで、転倒リスクはまだ低い状態なのだそうだ。
 雪道の歩行はこの「立ち止まってしまう要介護者」の気分が味わえる。
 よそ見は出来ないし、前をノロノロ走る人の脇をすり抜けて行くのも怖くなる。これで、転んだ時のダメージが全てクリティカルヒットになる感じ。そりゃあ骨もポキポキ折れるわな。
 林を抜け、車道沿いに5分ほど歩いた後、円山動物園の門に到着した。
 チケット売り場を華麗にスルーして、入場ゲートで年間パスポートを提示する。
 よし、入ることができた。オマケに、背が伸びて、マブいナオンにモテモテで、宝くじも当たった。買ってて良かった年間パス。

 入ると同時に、この前とは違った風景が。
 仮設のテントのようなものがあって、そこには。
 深海生物のスター、ダイオウイカさんじゃないですか!
 おお、氷に載って、触れる距離にある。っていうか、触っても良いけど、手が一日イカ臭くなるよ、って注意書きがある。
 もうなんか、魚屋の店先だな、死んでるし。今流行りで言うと、巨人の魚屋(多分、もう流行ってない)。
 ふむでかい。
 液体に沈んだダイオウイカは見覚えがあるが、この状態の展示は珍しい。
 皮がところどころむけて、保存状態はよろしくない様子(一応防腐処理はしてある)。
 4メートル程のサイズだが、ダイオウイカとしては小型になるらしい。実際、自分の背よりも大きい筈だけれど巨大感はない。太さもさほどではないし、質量感に乏しい。
 いわゆる海の怪獣としてのダイオウイカを再現するには、記録に残る最大級の18メートルぐらいのヤツを、海の中で見ないといけないのだろう。奇しくもマジンガーZと同じサイズだな。ということは、ガンダムとも同じだ。

 さて、深海生物展の本会場は――すぐ左手の動物科学館か。
 教室二つ分程度のホールは、落とし気味の照明で、深海生物が展示されている。
 お、登別で会ったダイオウグソクムシ先輩!
 でも少ないな。小判サイズのもいない。予算の問題だろうか。
 それからオウムガイ。なんというか、綺麗だよなぁ、この生き物は。動作は不格好だけども。
 それ以外の生物は、標本になったものばかりだが、いかにも深海魚っぽい形をしている。目が退化してたり、口だけ大きかったり。深海と言っても、光が微かにあるのと全くないのとで身体の色が違うとか、目の発達具合が違ったりとかの差もある。しかし、どの標本を見ても思うのは、小さいなぁ、ということ。餌の少ない環境で、あまり大きな身体は維持出来ないのか、それとも、そこそこ大きい生物はわざわざ深海のような辺境ではなく、海面に近い賑やかな場所でも生きられるということか。
 展示を一通り眺めた後、深海の水圧の実験が行われるというので、見ることにした。
 親子連れの人垣に囲まれ、係員の人が、訥々と説明をする。
 ブタメンの容器を、深海1000メートルに沈めた時にどうなるか、というもの。
 カップヌードルにしない辺りが、いかにもあのマルヤマンを未だに使う円山動物園的センスという気はする。
 考えてみると、深海生物展のパネル展示内にも、処々「生存戦略ーー!」とか書かれてたし。
 敢えて具体的に言うなら、意図的に狙いすぎ濃いめの味付けの面白い事をやってみて、直接ウケればそれで良く、そうでなくとも「こんな事を言っているオレ、滑稽だろ?」という部分で笑いを誘う、うすた京介辺りが始めた手法と認識している。この手法を行う際にモチーフとされるのは、ノスタルジーを感じさせる程度の古さの道具であり、ブタメンというロングセラーの駄菓子屋向けカップ麺はその要件に丁度合ったものだろう。
職員「深海に沈んだらどうなるかな?」
子供「爆発するー」
 みたいなやり取りの後、水圧を掛ける装置にブタメンの容器を入れ、いよいよ実験開始。
 職員さんが、機械のレバーを押し下げた! 更に! 更に! さらに!

 ――手動かよ。

 センチ100キロの水圧の中、ブタメンの容器からはプツプツと空気がはみ出し、その後に小さく縮んでいく。
 爆発はしませんでした!
 もしも、ダイヤの出来る1億メートルを遙かに超えるレベルの水深があれば、ビックバン的な爆発が出来るかも知れないが、職員さんがムキムキだけでは済まないレベルに強まってくれないとダメだろう。残念だったな、子供達!

 その後、圧縮したブタメンの容器(今やったものは濡れてるので、前回にやったもの)が欲しいちびっ子を募り、ジャンケン大会で選抜していた。貰えなかった子供が、駄々をこねて親に叱られていた。子供よ、それ、家に持ち帰る前に飽きるぞ、多分。

 その後、ちびっこ動物園で干支である羊を触ってから帰った。
 羊の生の毛は脂っぽいなぁ。
<出費>
交通費:520円(ドニチカキップ)
計:520円


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