思い立ったが随筆


 日々思う由無事を書き連ねています。



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2015/2/28 『思えば遠くへ来た……のかなぁ』第70回 一周回ってドリルカッコイイみたいなのは、結局パロディに過ぎない:紋別流氷ツアーガリンコ号U&氷瀑まつり

 折角北海道にいるので、北海道らしい物を見ておくべきだけれど、案外、旅行で来ていない時というのはモチベーションが上がり難く、いつかいつかで先延べになるもの。
 これが、地元民は観光地に行かないの法則で、それは横浜市民が港に結構行くとか、必ずしも絶対ではないのだが、行く事に微妙な時間や金がかかるとなると一気に法則が発動し始める。
 流氷観光が正にそれ。
 毎年、行こうかと少し思って、でも、ステージだし、練習だし、予約するにも勤務時間が変わったら何だし、結構お金かかるだろうし、みたいな色々が大体片付いたので、ようやく思い切って行く事にした。まあ、本当のところさほど思い切る程大変なものでもない、というのは、古来より「案ずるより産むが易し」とも言うヤツだ。

 「男のあんたに出産を語られたくない」という、「殺人もしてないのに殺人描写をするなんて」「蜘蛛の味を知らないのに蜘蛛を描くなんて」と同様に説得力のある指摘を受けないように一応補足しておくと、これは昔からある諺で、「色々考えるよりもやってみろ」という意味で、出産やそれを行う女性を軽んじる意図はない。
 ただ、この諺の出自を想像するならば、恐らくは出産死亡率の高かった時代に、今よりも遙かに深刻なレベルで不安になる嫁に対し、「大丈夫、死にゃあしないよ、現にあたしなんか……」と、死ななかった姑その他が、村内で出産で死んだ人がいた事をさっぱり忘れ、ただひたすらに自分や記憶に残っている今生きている人ばかりを引き合いに出す「賢者は歴史から学び、愚者は経験から学ぶ」のパターンであろうから、単なる出産時の比喩としては正しくはないが、日本の出産時の安全性の向上はこの言葉を正しい物にしていく可能性はある。とかなんとか。

 確か流氷観光は、ガリンコ号という船が出ていたなぁ、という認識で調べてみると、果たして、ガリンコ号乗船を折り込んだバスツアーが幾つか出て来た。

 バス……ねぇ。

 バスの乗り心地の悪さについて、以前から幾度となく言及しているところだ。
 車内が狭く、カーブが絶望的に多く、事故率も恐らくは高い。
 だがしかし。
 ガリンコ号が出ている紋別は、鉄道が繋がっていないのである。
 最寄り駅である遠軽から、ざっと四〇キロ。そりゃあバスは出ているが、北海道の、しかも辺境である。本数は朝で1時間に一本、実際に使用出来る昼間だと2時間に一本である。朝の7:09に出て遠軽からバス乗り替えて流氷公園に12:19着。最寄りのガリンコ号に乗って、13:30〜14:30、終電に合わせると紋別の出発時刻が17:29。家に帰り着くのが22:55となる。で、運賃はバス、列車合わせて片道で8,000円、割引あっても5,000円までは下がらない。各停のフリーパス系を使うと安いだろうが、日帰りは無理で結局宿泊費分高くつく。
 それらひっくるめて考えると、札幌発10,500円で乗船料込みのバスツアーを選んでしまうのは、まあ、仕方が無いと言えば仕方がない。
 選んだのはクラブゲッツの「流氷砕氷船『ガリンコ号II』乗船&層雲峡氷瀑まつり日帰りバスツアー 1日間」。

 当日。
 準備らしい準備もないが、とりあえずシャツ一枚多く着て、道中で万一に備えての文庫本一冊だけバッグに入れて、地下鉄で大通駅へ。
 そこから徒歩で集合場所の一つである全日空ホテルに到着した。
 んー、バスが停まってるな。
 これか?
 流氷がどうの書いてあるが、座席一覧に名前はナシ。
 って、向こうにも別なバスがあるな。
 でもこっちにも自分の名前はない。
 まあロビー集合になってたから、まずはロビーに行けば良いか。
 ホテルに入ってみると、まだ本格的に営業を始めていないロビー内に、ぽつぽつと人がいる。
 で、添乗員のおねーさんが一人。
「ツアーに参加される方ですか?」
 名前を告げる。
「お昼におにぎり弁当は出るんですけど、男性には足りないと思うので、何か買っておいた方がいいですよ」
 との助言を受ける。
 そのお昼がどんなものであるかは、別のツアーを利用した時の経験から想像出来るので、ホテル直結のセイコーマートを覗く。自由時間の少なさから考えて、向こうで食事が出来るとは思えないので、空腹で耐えられないという状況を回避する程度の量と、万一食べなくても面倒なく持って帰られる、この二点に搾って、「ミグニョンウェハース」とかいう、キットカットのパクリみたいな形の、オーストリア製のチョコレート菓子を買った。
 その後ロビーに戻ったが、まだ動きがない。
 時間を気にしながら少し待っていたら、添乗員さんが「まだ乗車されてない方ー」と、呼びに来た。
 なんだ、来てたのか。

 座席表を見てバスに乗り込むと、自分の席に別な人が。
 座り位置の窓側通路側を間違えているらしいが、通路側の方が空間を広く取れるからそのままで良いや。
 ……いや、そもそも。
 二人掛けの椅子に二人ぴっちり乗るのか。
 狭い、狭いな。
 膝のぶつかる距離だ。
 なんか、他の席だと一人で座られている人もいるから、予約が遅かったとかそういう事なんだろうか。結構早い時期に予約入れたんだけどなぁ。
 バスは街を抜け、郊外に出る。
 天気はそれなりに穏やかである。
 二人席できついけれど、一番前の通路側なので、まあまあ開放感はある。
 風邪をひいて調子が悪いとかいう添乗員さんが、ガイドではないのできちんとしたガイドは出来ませんが、と、但し書きを付けながら所々の説明をしてくれている。
 サービスエリアで休憩を挟みながら進むうち、早々と昼食が配られた。
 寝たり、本を読もうとしてやめたり、ぼんやりしたりのうちに、11時近くなって来たので昼食をとる事にする。
 おにぎり二つに赤いウィンナー、小さい唐揚げ、薄い卵焼き、薄いタクアン。
 考えていたより少しだけマシな弁当である。
 唐揚げわりとうまい。
 物足りないのは確かで、やはり現地で食事が出来そうな気配もなかったので、朝に買ったミグニョンだかミクチャンだからミョルニルだかを食べる事にする。四角いパッケージを縦に切ると、中には棒状のウェハースをチョコでコーティングしたものが4本入っていた。ものすっごいチョコ融けてるけど。まあ、輸入物らしいと言えばらしい。ウェハースのサクサク感は薄め。キットカットの方が完成度は高い。

 11:30を過ぎた位の時間に、流氷公園に到着した。
 添乗員さんにシール状のチケットを渡されて発着ロビーに入る。ここから先は自由行動。
 ロビーには既に並ぶためのロープが張られている。早めに並んだ方が良い、との助言もあったのでさっさと並ぶと、すぐに後ろに並び始めた。
 ロビー内には食堂と土産物屋、それからガリンコ号の受付がある。
 周囲の施設にはアザラシを飼っている「とっかりセンター」と「オホーツクタワー」があるが、ガリンコ号が12:00発で1時間のクルーズ、バスが14:00出発なので、どちらかしか行けないだろう。まあ、自分の場合タワー一択なんだけど。
 時間が来て乗船が始まった。
 途中の通路で、魚介の氷漬けと、蟹爪の社(意味が分からんと思うがそのままの意味だ)があったりした。
 ガリンコ号Uに乗り込み、人の流れのままに1階に行く。1階フロアには、キオスクの1/4ぐらいのサイズの売店があり、二人掛け席が三列並ぶ。開かない窓から外が良く見える。窓に触れると冷たいが、室内の気温自体は暖かい。
 ガリンコ号Uが動き出した。
 ガリンコ号Uは、先代ガリンコ号の後を引き継いで就航した流氷砕船で、前方にドリル2門を装備し、流氷を砕きながら安全な航行が行える。客室は2階建てで、デッキに出る事も出来る。ガリンコ号の色は赤い、そしてドリルも赤い。
 窓から外を眺めていると、氷が海面を埋め尽くしているのが見える。
 これは……流氷なのかな? それとも海が凍ってるのかな? よく分からない。
 程なく、船長のアナウンスがあり、流氷本体は沖合20キロであるとの説明があった。
 の割には、氷は見えるな。
 細かい氷が無数に海を埋め尽くしている。
 流氷という字義で言うなら、氷が流れて来てるんだから、これで違わない気がするけど。
 ふむふむ、まあ充分な感じだな。
 席を立ち、ドリル部を見る。
 おお、回っておるわ。あんなに赤いヤツが回っておるわ。砕く必要のあるサイズのものはないから、融けかけの氷の入ったグラスをマドラーでかき回しているようなもんだが。
 そのままデッキへ上がる。
 吹き曝しになるが、氷点下2度前後なので、それ程寒いという事はない。
 ないが、揺れは大きい。ガリガリの振動ではなく、波にゆらゆらという揺れ。
 直ちに転倒はしないが、おっとっと感は強い。乗客が多くてバランスが取りにくいな。
 そんなに荒れた海ではないけど、少し波があるし、フェリーとはサイズが違うもんなー。
 船尾に回ると、航跡の形に氷が押し退けられているのがよく分かる。
 少しの間甲板で過ごしてから、また船室に戻り、程なくクルーズは終了した。

 下船と同じタイミングで、オホーツクタワーの送迎車が来ていたので乗り込む。
 バスツアーはこういう急ぎ足になりがちだな。
 タワーは港から見える距離にあるが、歩くと結構かかりそうだ。
 送迎車両から降りてタワー内に入り、エレベーターで上がる。研究機関の一施設を一般開放している形のようである。
 受付カウンターの、何となく役所っぽい職員さんにガリンコ号チケットを使った割引入場料を支払い中に入る。
 オホーツクタワーは、海上38.5メートル、海中7.5メートルの上だけでなく下もある展望台である。
 上の方はタワーと呼ぶには低すぎ(恐らく、海抜では日本でもワーストかも知れない)るが、海中まで見られるのが特徴的である。
 上部三層に分かれたタワーは、流氷や海に関する展示が色々とある。
 冷凍庫があり、保存されている流氷に触る事も出来るというので触ってみる。軽く叩くと、コンコン、という澄んだ音がする。べちべち、という感じの製氷された氷と違うような気もするが、同じ形にした氷を同じように叩いた記憶はないから、実際には違うかも知れない。
 一番上の展望台まで上がり、ぶらぶらと一周する。
 流れ着いた氷が海面に線のように並んでいる。波でゆらゆら簡単に動く様子を見る限り、確かに流氷が来るやら来ないやら全く分からないのも道理だなぁと思ったりした。
 それから、観測データも展示されていたが、平成に入って急に流氷が減っているのが分かる。なんだこれ、2000年問題か(どこまでも違う)?
 上を見終えたので、今度は下。
 窓から海の中が見える。見えるが、濁っていて目と鼻の先しか見えない。
「濁りはプランクトンが豊富にいる証拠」
 と、説明書きがあったが、それを見せたくて窓を作ったかは疑問だ。
 隅っこにイソギンチャクぐらいしか付いていない窓を見ながら進んでいると、突如蛸が!
 ……って、なんだ、窓の形をしたモニタだ。いきなりで驚くわ。
 その他、近海にいた海の幸も展示されている。
 ホッケも泳いでいる。
 タッチプールにあるのは、定番のヒトデとウニだけ。ウニはトゲトゲしているが、とんがってはいない。
 一通り見終えてから、戻る事にする。受付のカウンターで、
「帰りの送迎を希望の方は声をかけて下さい」
 との貼り紙が出ていたので、職員の人に伝えて外に出ると、丁度送迎車が来ていた。行きと同じくタイミングが良い。
 それから、公園内で恐らく雪祭り合わせで作られていた氷像を少し眺めてから、ガリンコ号のターミナルで職場への土産物を買ってバスに戻った。
 通常は道内旅行で土産物を買ったりはしないのだが、丁度バレンタインデーの時期だったので、あげる側になって色々うやむやにしてしまおうという意図が多分にあった。これをやっておくと、この時期の近辺に「お一つどうぞ」くらいのトーンで渡された菓子類について色々考えずに済む。あまりしっかりお返しをするのも妙だし、何もしないのも礼儀を欠くだろうしね。

 バスは、パックツアーの定番の大体の高額な土産物屋に立ち寄ってから、今度は層雲峡の氷瀑祭りへと向かう。
 層雲峡は紋別と札幌の中間点ぐらいにあるので、ツアーに組み込みやすかったんだろう。日帰り旅行の制限があるから、まともに昼食を取る時間がなくなる諸刃の剣でもある。実際、別のツアーだと、さっき寄った土産物屋のところでカニだの海鮮丼だのが付いているパターンがあった。
 走るうちに、天候が荒れ始めた。
 吹雪で見通しがどんどん悪くなる。
 前に車がいなければ、テールランプも見えない恐ろしさだ。

 存分に吹雪き、日も暮れかけた氷瀑祭会場に到着した。
 氷瀑とは本来滝が凍って氷柱になったものだが、氷瀑祭の場合はそれと似た状態を人工的に作って(骨組みに水をぶっかけて凍らせて)建造物に仕立てている。
 最初から興味があった訳ではないが、どうせツアーに入ってるから、というノリで選んだものである。

 それにしても吹雪である。

 札幌でも吹雪く事はあるが、ここまで激しいものは珍しい。
 自分のコートは口元で閉じるフードが付き、それに加えて風邪用のマスクをしていたが、それでも顔を上げて進む事が難しい。顔を上げると首筋から、頭を押さえようと手を上げると袖から雪が吹き込みそうだ。
 こんなツアーで雪眼鏡が必要な状況になるとは。
 駐車場から会場まで歩く。
 会場は川沿いの低くなった場所にあるため、下り階段が作られている。
 積雪を回避する為に工事用のスケスケの階段が使われているので、強めの高所恐怖症の人だと一歩も踏み出せないかも知れない。
 入り口で一応自由意思との説明のあった協賛金300円を支払い、ドリンク割引券を受け取り、会場へ。
 会場にはスポンサー名の入ったかまくら状の氷瀑が並ぶ。
 何はともあれ中に入る。
 吹雪が遮られるのでホッと一息つけるが、置いてあるのはなんか、神像にエレキバンのように硬貨が貼り付いた代物で、長居したくならない。
 ん、こっちは氷酒場。ちゃんと氷でカウンターと、テーブルが作られている。期間限定で営業をするんだろうが、今は何もやってない。
 売店兼休憩所があるが、それは後で行く事にして、メインの氷瀑へ向かう。
 モデルはあるのかも知れないが、お城のような形をした氷瀑で、入り口が幾つか、上の方にもある。色とりどりにライトアップされてキレイ。
 外観をのんびり眺める間もなく中に入るべし、入るべし、寒い。

 ほう。

 中は入り組んだ通路になっていて、天井から無数に氷柱が下がっている。氷柱は適当に切られていて、ちょっとした鍾乳洞みたいな感じだ。というか、液体に溶け出した成分が凝固した鍾乳洞と、液体そのものが凍ったこの会場とでは、粘度の違いはあれど大体がそっくりになるのは当然か。
 作成側も迷路っぽいのは承知の上のようで、スタンプラリー用のキーワードが書かれていたりする。
 照明でキラキラした様子がキレイだな。でも狭いな。導線も一方向じゃないから人とすれ違うのが大変――。

 痛ぇ!

 頭ぶつけた!

 フードがなければ即死だった。
 もしくは、流石、頭蓋骨だ、何ともないぜ!

 氷固い。
 頭上注意か。
 まあ柔らかくて落盤が発生するよりはずっとマシだが。
 一通りメイン会場を見て、売店に逃げ込む。
 吹雪がちっとも止まず、みるみる体力を奪われる感じだ。
 会議室の長テーブルのようなカウンターで売られている手作り感覚溢れる甘酒を、最初に貰った割引券を使って買う。
 うむ、あまい。
 凄い甘さだ。
 看板に偽りがない。
 甘酒って、ここまで甘かっただろうか。
 少し落ち着いて休憩所内を眺める。
 食べ物も土産物も手作り感のある売り場で扱われている。行者大蒜入りウインナーとか初めて聞くけど、ウインナーって結局皮の中に何でも詰められる餃子みたいなもんだからなぁ。
 ぎゅうぎゅうではないまでも、人が多い。みんな会場に長居出来ないんだろう。
 ん、なんか、妙な貼り紙があるな。
 なになに?
 40歳の人にサービス? ドリンク無料他、食べ物半額、土産物割引?
 ……気付かなかった。
 もう少し分かりやすくアナウンスしてくれよぅ。

 その後、帰りのバスは渋滞にはまる事もなく、20時過ぎに大通に到着した。
 添乗員の質やら、座席の配置やら、流氷の具合やら、引っかかる部分は若干あったけれど、何だかんだで氷は見られたし、タワーや氷瀑祭りも見られたし、程ほどの時間に帰る事も出来たし、値段相応には楽しめた。
 次回の流氷は網走に行けば良いな。あっちは鉄道通ってるし。
<出費>
交通費:500円(琴似―250―大通 大通―250―琴似) ツアー費用:10,500円(流氷砕氷船『ガリンコ号II』乗船&層雲峡氷瀑まつり日帰りバスツアー 1日間)
入場料:600円(オホーツクタワー 割引) 協賛金:300円(氷瀑祭り) 食費:270円(甘酒150割引、ミグニョンエウェハース120) 計:12,170円


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