思い立ったが随筆


 日々思う由無事を書き連ねています。



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2015/5/29 『思えば遠くへ来た……のかなぁ』第72回延長戦

 前月、ただの毛玉しか見られなかったホッキョクグマの子供だが、年間パスポートもあるので日を改めて行ってみた。
 ゴールデンウイークで、ヒーローショーをやっていたのも足を運んだ理由の一つ。
 円山動物園でヒーロー?
 そう。円山動物園のそこかしこに姿が描かれている、美しくも可愛くも格好良くもない、いかにも狙ったんだろうな、という感じがプンプンしてその名を口にするのもうんざりする、マルヤマンである。その登場が、ゆるキャラという言葉が流行語大賞にノミネートされた翌年の2009年という辺りも、後追いで狙ってやってるっぷりに拍車をかける。
 従って、これを「こんな変なキャラがいておもしろい」みたいな事を言うのは実にセンスのない話で、「うわぁ、狙いに狙って作ったキャラが、どんな因果か微妙に上手い事行って定着してるよ……」という痒みを我慢するような気分で眺め「いつ飽きられるんだろう」「調子に乗りすぎて炎上するのはいつだろう」等と思いながら、ちょっとつついたりするのが適切な付き合い方であろうと思う(注:筆者は、2010年の6月にも、マルヤマンを同じ感じにディスっていました)。

 無論、ヒーローショーはそれだけではなく、プリキュアシリーズ通算第12作10代目の『GO! プリンセスプリキュア』や、なんたらライダーみたいなののショーとかも日を変えてやっている。
 プリキュアの方もどうなるのか興味は湧くが、ひとまず先の土曜にマルヤマンショーがあるのでお試しがてら行ってみる事にした。
 愛車ぽす太で30分前後で、円山動物園に到着。
 おうおう、連休の入りのせいで、割合に混んでいる。この前とは大違いだ。
 ささっとホッキョクグマを見に行く。
 警備の人が「こちらは一方通行です」と声を上げている。
 おお、ホッキョクグマの前に、見事に人垣が出来ている。
 前回は意味がなかった、後ろから見る為の足場も有効に使われているな。
 それで、肝心のホッキョクグマの赤ちゃんは……。
 いた!
 動いてる!
 タイヤにはまって遊んでいる。
 うん、うん、出来ればもう少し小さい時を見たかったが、良いとこ良いとこ。
 なかなか可愛い。
 猫比で0.6ぐらい可愛い(ちなみに普通の人間で0.4、上位の人間で0.7)。

 しばらく見た後、少し時間を潰してからマルヤマンショーの会場に向かう。
 会場と言っても、西門の土産物屋の前を「ここから入らないで下さい」にしただけのもの。
 暫し待つうちに、人垣が出来てマルヤマンショーが始まった。
 ソーランドラゴンなるご当地キャラとのコラボという事で、主にソーランドラゴン主体で悪役と戦う。
 つか、マルヤマン、なかなか出て来なかった上に、出て来たらすぐに倒されてしばらく舞台の隅で寝ているという……。
 ぶれないところは良いな、と、思ったら、一応ラスト近くで復活して攻撃してた。台無しだよ!
 ……まあ子供は、最後までマルヤマンに寝ていられても嫌だったろうけど。
 何だかんだで見たい物は見られたし、良かった良かった。

 翌日、また行ってみたところ、門の外まで行列が出来ていたので、入らずに帰った。
 これはなんなんだ? プリキュアの効果なのか?
 はるはるの百面相とぬるぬる動く戦闘を始めとして、前作の反動で好感が持てるキャラに設計された岡田、ちょっと今までとは別方向であざとい黄色、安定の青と、見どころの揃った、GO! プリンセスプリキュアの力なのか!?
 真相は謎のまま(単に、土曜より日曜の方がお休みのお父さんが多かったのでは)。


<出費>
入場料:0円(大人600円のところ、年間パスポート使用) 計:0円



2015/5/25 『思えば遠くへ来た……のかなぁ』第73回 ゼロ戦、レイ戦どっちかな?:川崎汽船シルバーフェリー青森県八戸行き

 仕事の加減で金土日の三連休になったので、少し遠出を考えた。
 道内だと景色もあまり変わらず遠出感が薄いので、やはり道外が良い。けれど、飛行機は高いし、鉄道は行き帰りで確実に二日潰れる。
 ここはフェリーが良いでしょう、となる。
 木曜の夜から出る便なら、宿一回分浮かせられるし、移動もそれ程苦にならない。
 さて、だとして、どこが良いだろう。
 自分が北海道発で乗っていない長距離航路というと、苫小牧・大洗、苫小牧・名古屋、苫小牧・秋田、苫小牧・八戸、小樽・舞鶴となる。敦賀行きで秋田は通過しているけど、船を降りていないからノーカン。
 今の仕事場が小樽なので小樽発があると都合が良いけれど、舞鶴行きしかないな。苫小牧発で、仕事が終わってから行けそうな便があるのは……八戸だけか。
 八戸周辺について調べてみると、博物館やちょっとしたタワー、少し足を伸ばせば三沢の航空科学館があるので、それなりに見る物はありそうだ。

 苫小牧、八戸航路は、川崎汽船が運航をしている。ブランド名はシルバー・フェリー。
 苫小牧西港を木曜の21時15分発で、八戸には金曜日の午前4時45分に到着する予定の便だ。
 帰りは金曜日中の22時発、土曜日の午前6時着。
 八戸で一泊もしない形だが、丸々一日行動出来るのだから、いわゆる二泊三日旅行と大して変わりはないだろう。移動と宿泊がぎゅっと折り畳まれているのがフェリー移動の利点と言える。
 さあ、チケットをまだ定員には達してないな。さっさと買おう。
 二等船室利用で片道5,000円のところ、ネット割引または往復割引で10パーセント引き、4,500円。
 んー、安い。
 もしも鉄道で行ったなら、片道で一万円ぐらいかかる。
 港までの移動については、当日の仕事の具合もあって、バスを使う事にした。バスで行く場合には、「なかよしきっぷ」なる、片道5,400円でバス代の付いたプランがあったのだが……最初にチケット買っちゃったし、間際までJRだかバスだか迷ってもいたし、仕方がないか。


<1日目>
 そして当日。
 仕事を定時にさっさと上がり、一度家に戻る。
 服をすっかり着替え、ジャケットを引っかけ、タオルを一本と文庫本二冊、充電済みの髭剃りをいつものバッグに入れ出発。
 行動するのは実質的に明日一日だけだから、着替えなんか要らない。万に一つの可能性で汚したら、その時は買えばいいだけの事。
 予定通りに地下鉄で大谷地へ到着。
 東急ストアで買い物を済ませた後、苫小牧西港行きのバス、高速とまこまい号に乗った。
 相席が必要な程混んではいないぐらいの客の入り。
 バスは市街を抜けて高速に乗る。
 夕食にしよう。
 見切り品のおにぎり3つと、同じく見切り品の五連のクリームパン、それから、野菜が欲しいのでミニトマトの食べきりパック。
 まずはミニトマトを。ふむ。うん。とりあえずトマトを食べていれば野菜は大丈夫みたいな風潮あるよね。
 実際、割と良く食べる。
 ミニトマトと言うと、あかまるトマトというブランドでやっている商品があるが、あれは危険だ。サイズが小さいから一口で食べられると思うと、微妙に大きくて少し口が開く場合がある。その状態で歯を立てると、これはもう、覿面に中身が噴き出す。もう、イメージ的にはごま蜜団子ぐらい噴き出す。あれは恐ろしい。
 トマトを食べたので、次はおにぎり。旅行と関係のない部分で無駄に金をかけるのも面白くないので、見切り品特化で買ってみた。鮭二つに梅一つというバランスの悪さも、半額だと思えば許容できる。
 デザート代わりかつカロリー補填のための、ヤマザキ薄皮クリームパンは二割引。
 パンは「焼きたてパンの店 DONGURI(どんぐり)」で買う事が多い。道外の人にどれだけ認識があるか分からないが、DONGURIはツナ入りのちくわパンの元祖で、結構な人気店だ。昼時に行列が出来ている事も多いが、五つぐらい並んだレジで店員さんがてきぱき対応するので、さほど待たされる感覚はない。商品の回転が良いお陰か、焼きたてが頻繁に出るのも人気の秘密だ。定番のものは120円前後でボリュームもある。自分がよく買うのは、ポテメン(ポテトサラダのホッとサンドチーズ明太載せ)、サボージュ(白パンのクリームアンパン)、クリームパン、クリームドーナツ辺りか。前述のちくわパンは油が強いので、焼きたてでもない限り食べない。
 そういう自家製寄りのパンと、ヤマザキパンのような工場パンを比べると、工場パンはふわふわ度が高い。悪い言い方をすると、麦が薄い感じ。でもまあ、比べればの話で、そんなに悪いものではない。
 とっぷり日が暮れた後、バスは苫小牧西港に近付いていく。
 遠目に船が見えて来た。
 ライトアップされた船の煙突には「K」の文字。
 謎の中国人K(金?)?。
 否!
 このKは、川崎汽船を意味するK! そう、「汽船」の「K」である(多分違う)!
 あれが今回乗るフェリー、シルバープリンセス。日本語訳すると、老王女だ(違う)!

 苫小牧西港ターミナルに入る。
 階下のチェックインのカウンターでは、手続きを行う乗客が5、6名並んでいた。
『徒歩での乗船のお客様、ご乗船下さい』
 アナウンスが入る。
 乗船開始から出発までかなり間を空けるのがフェリーなので、まだ余裕はある筈だが、少し急がされる感覚があるな。
 チケットは購入済み扱いだけど、チェックインはどうやるんだっけ。ええと? 書類書くんだっけ? 自分の住所ぐらいは書いたような気がするけど……あ、自動チェックイン機あった。
 長い通路を通り、タラップからフェリーに乗り込む。

 ロビーで、乗員の人がチケットの確認と船室の案内をしている。
 えっと、二等がこっちか。
 通路の両側に、二等船室がずらりと並んでいる。
 へえ、ドアがないんだ。いしかりがそんな造りだったっけ。
 寝台(ベッドはないが)は指定式で、個人の区画が壁沿いに10ぐらい並んでいて、奥にテレビが一台据えられている。
 数名、先客がいて、各自、自分のスペースで思い思いに寝転がったり、一杯やったりしている。
 個人で占有できるスペースは、物入れとその前のマット一枚分の床ということになる。
 マットは三つ折りで10センチ角柱ぐらいの枕がついている。全部一体型で外す事はできない。これを伸ばして寝転がるシステムで、広げ方の説明が上に書いてあった。説明が必要な程のもんにも見えないが。
 掛け布団の類はないが、ロビーの受付で毛布の貸し出しを350円でやっている。まあそんなに寒くなるワケでもなかろうし、安さが売りの2等なのだから敢えて借りずに済ませる。
 個々人の区画の区切りは、2、30センチ程度の板が床から壁にかけてくっついていて、壁にびったり寄り掛かって座っている時は、少しだけ隣りが見えにくい程度、寝ている時は、一応目が合わない程度。それと、壁にはコート掛けの折りたたみフックがついているので、ハンガーをかけると座りにくく、寝ていると船が揺れたときに顔の上に落ちてくるという構造をしている。
 物入れはリターン式の100円ロッカーが上の方に付いていて、その上に救命胴衣入れがある。ロッカーの扉は、カギをかけなくても磁力でくっついて、少し力を入れないと開かない。これも船の揺れ対策だろう。
 太平洋フェリーや新日本海フェリーと比べると、毛布がオプションなのはイマイチ、仕切り板はいしかり未満、その他以上。雑魚寝はどうしても窃盗の不安があるので、寝台に大きなカギのかかるロッカーがあるのは大変助かる。ハンガーフックもちょっとした事に使えそうで良い。
 総じて言うなら、悪くない設備だ。流石は新型の船か(2013年就航)。

 出港までまだまだ時間があるので、先に風呂に入る事にする。
 ロビーでは、乗客が思い思いにウロウロしたり、オートレストラン(自販機)を利用して仲間内で酒盛りをしたり、そこそこ賑わっている。
 小さい階段で上のデッキに上がると、すぐのところに男湯女湯の暖簾がかかっていた。窓辺にはマッサージチェアが置かれている。このデッキは、他は船室で共用のスペースは少ない。
 脱衣室結構狭いな。ロッカーも10人分ぐらいしかない。
 下駄箱は……この縦に長い棚か。ブーツは絶対入らないタイプだな。
 じゃあ服を脱いで、それからロッカーにカギを……。
 あ。
 100円リターン式だ。
 財布持って来てないよ、もう。
 服を着直して、一度戻って、金を持って来る。
 他のフェリーのカギは無料だったのにな。
 なんか、ロッカーがこういうカギだと、靴を外の下駄箱に曝しておくのがちょっと嫌だな。でも、ロッカーは靴を入れるようには出来ていないし。まあ、全員が靴を履いて乗船している訳だから、「傘がないから盗む」みたいなメンタリティのゴミクズがいたとしても、手は出さないか。
 フェリー特有の密閉性の高そうなドアを開け、浴室に入る。
 仕切り板にしっかりと区切られた洗い場が6、7個並んでいて、先客は一人だけ。
 適当に離れた場所の洗い場を確保し、備え付けのリンスインシャンプーとボディーソープで洗う。
 それでは、浴槽に入ろう。
 浴槽が奥と手前に二つあり、右手の壁は窓になっていて外が見える、フェリー定番の展望風呂。狭めだけど、手足が伸ばせるのはそれだけで素晴らしい。
 風呂から上がった頃に、他の客が入り始めていた。混雑を上手くかわせたようだ。
 さて、部屋に戻ろう――ん。
 足の小指の爪が引っかかる。
 足の小指の端っこが割れてるヤツが、悪さをしている。爪切りは持って来ておいた方が良かったか。
 とりあえず、あんまり当たらない感じにして、忘れたふりをする。

 船が動き始めた。

 濡れタオルをコート用フックにかけてから、船内探検に行く事にする。
 まずはロビー。
 受付カウンターがあって、毛布の貸し出しや、土産物の販売をしている。おつまみ類などもあるがマガジンラック程度の棚一つ分だけ。新幹線の物販ワゴンよりも品揃えが悪く、「売店がある」とはとても言えない。
 他に、ロビーにはテーブルとソファ、テレビモニタが3つばかり並んでいる。マガジンラックがあって、閲覧できる雑誌も置いてあるが、数はほとんどない。誰かが持って行くのか、元々ないのか。
 次に、オートレストランを見る。カップラーメンや冷凍の焼きおにぎり、焼きそば、炒飯。サービスエリアとか何とかによくあるアレで、異様なボッタクリはないが、お値打ち感もない。食事スペースはテーブルと椅子が並んでいて、端にカウンター席があるが、席数が少なく、食事時はすぐに一杯になってしまう。オートではないレストランは存在しなく、夕食や朝食バイキングといった営業もない。
 その奥にゲームコーナーがあり、ゲームセンター仕様のパチスロ機が主に並んでいる。
 この世界には面白いゲームが山ほど存在したのに、何だってそれを選ぶんだろうねぇ。博打用の機械って、ゲームじゃなくてスキナー箱と同じ、同一行動を引っぱりだす為の装置に過ぎない。
 ゲームを楽しむタイプの人間は、携帯ゲーム機やスマートフォンでゲームをやるから、いわゆるゲーム機を置く意味がない、てな判断なのかね(正解っぽい)。
 携帯ゲーム機主流ってのは、どうもしっくり来ないんだよなぁ。単純に画面が見辛いというだけでも、明らかにゲームの品質が落ちるのになぁ。まあ物が売れるというのは、品質だけじゃない、というのは分かるんだ。ソニーがトランジスタラジオを売った時の故事だって知ってはいるんだが、それにしても、「面白い」という事に淡白だよなぁ。美術が「美」を抽出したものであるのと同じように、ゲームは「面白い」を抽出したもんなワケよ。その主軸からブレて、携帯性やら課金やらを重視した「ゲーム」っつーのは、もうゲームとは別の何かなんだよ。
 例えば、絵画という「絵」は美術だが、同じ「絵」でも、食品パッケージの「ここから切り取る」の時に書かれているハサミの絵は美術ではない。何故か? そこに、美しいと思わせようという意図がないからだ。このハサミの形に面白味を見出して、まとめて本として出版したとしたら、これはまた美術になる。だが、それを作ったのはその本の作者であって、ハサミの絵を描いた人間ではない。そのハサミの絵は、絵の具や鉛筆と同じただの表現のための道具だ。
 コンピュータゲームは今、ハサミの絵の方向に凄く強いバイアスが働いている。課金であるとか、機能的な制限であるとか、他者とのコミュニケーションツールとか。ハサミの絵は、パッケージを破った後に捨てられる。財布から金を抜き取った後に捨てられるような道具が、ゲームという作品と同じカテゴリに括られ、むしろ主流となる事を危惧する。棲み分けなら良い、だが、悪貨に良貨が駆逐されるような事は、あってはならん。あくまで主流は、面白いを追求したゲームでなければならんのだ。
 喉が渇いたので、MATCHを一本買って飲む。170円だった気がする。レシートが出ないものはちょっと曖昧。
 ウロウロするうちに22時の消灯時間になったので、とりあえずいびきをかかれる前にさっさと寝る事にする。
 二等船室は、先に寝た物勝ちなのだ。


<2日目>
 日付を回った頃、寝苦しさに目を醒ますと、隣の客が90度回って真横になっていた。
 足がこっちに当たって鬱陶しい。
 ううむ、閑散期のお陰で一人置きの寝床になっていたのに。
 しかしまあ、単なる寝相であって、悪意でやっている訳でもなし、ここで揺さぶり起こしても、双方微妙に嫌な気分になる事は必至だ。
 ほっといたらもう半周するかも知れないし、ひとまず起きてロビーに行く事にする。
 ロビーには、同じく何となく眠れない人が一人、二人いた。
 オートレストランの窓から外を見る。暗いのでよく分からないな。何かを食べたい訳でもない。
 さて、どうしたものか。
 ロビーのソファーに座る。
 マガジンラックを見ると、週刊ヤンマガと週刊少年マガジンが一冊づつあったので(それしかなかったので)、週刊ヤンマガを読む事にする。
 漫画誌って4コマ誌ぐらいしか見なくなってるよなぁ。
 ふむふむ。
 ああ、カイジってこの雑誌か。案の定、仲間の命まで賭けてるな。ぼちぼち同情出来ないレベルになってるな。となると負けの流れもあるか。指と耳の次はなんだろ。今後の連載に関係がないところで、腎臓、陰嚢、肝臓の半分とかが良いのかも知れない。
 福満しげゆきってここで連載してるのか、へー。でもエッセイ漫画の方が面白いな。あっちから入ったってのもあるんだろうけれど。
 青年向けのバイオレンスに寄った話って、どうも好かないよな。行為その物というより、それを行うキャラクタが不良とかヤクザとかそっち系になりがちなのがなぁ。リアリティなんだろうけど、現実で不快な物は見たくないんだよな。暴力は、ファンタジーの風味が欲しい。ロードス島って意味ではなく、少年漫画のような適度な現実離れという意味で。この辺は好みの問題だけど。
 ヤンマガに続いて、少年マガジンも読む。
 パラパラめくるが、話が小間切れで掴めない度合いが高い。
 しかし、船、結構揺れるなぁ。
 川崎汽船のフェリーは一番大きいこのシルバープリンセスでも10,536トンで、乗った事のある太平洋フェリー(きたかみ:13,937トン、いしかり:約15,762トン)や新日本海フェリー(しらかば:20,563トン)と比べるとずっと小さいし、スピードも遅い。その辺の差が出ているのだろう。
 テレビモニタに画像表示されている現在位置を眺める。
 青森が近付いては来てるなぁ。
 船室に戻ってみると、丁度隣の人が目を醒まして寝直しているところだったので、何食わぬ顔で横になる。
 横になると船の揺れが強く感じられる。枕に耳を付けるとエンジン音が響いて来るので、頭の方を枕に付けて耳を浮かせる。
 気にしすぎると本当に酔いそうなので、あまり気にせずぼんやりしながら、もう一眠りした。

 目を醒ましたのは4時前だった。
 結局あんまり眠れなかったが、元々旅行中にそんなにスッキリ眠れやしないので、気にしない。
 身支度を終えてから船室でぼんやりしているうちに、船は八戸港に到着した。船室に窓はあるっぽいのだが、ブラインドが下がりっぱなしで、窓際の人が開けなかったので、接岸の瞬間は分からない。
『徒歩で下船される方はロビーへ起こし下さい』
 下船準備が整い、乗員の指示に従い下船が始まった。それほど乗客は多くない。平日の強みだろう。
 タラップを渡り、八戸港上陸ー。

 よし、目標は概ね達成。
 後はオマケみたいなもんだな。
 午前5時前、八戸港は窓口も売店も営業しておらず、トイレが使えるだけ。
 バスも2時間かそこら経たないと来ないので、JR八戸駅まで歩く事にする。
 地図で見る限り5、6キロなので、まあ、無理という程の距離ではないだろう。
 八戸港ターミナルから外へ出る。
 んー、日は昇って明るいけど、ちょっとひんやりするな。夏用のジャケットでも一枚着ていて正解だな。
 駐車場を横切り、市街へ向かう道を小走りに進み始める。
 でっかい倉庫や何かがある。このひとけのない、巨大な建造物というのは、どうもそこはかとない恐怖感みたいなものが浮かぶ。なんだろうね、これ。一人取り残される感覚なんだろうか。完全に嫌、というのとも違うんだよなぁ。
 少し進んだところでローソンが見えて来た。
 朝食になりそうなものを買おう。この後に良さそうな店かなんかがあると嫌だから、お腹一杯にはならないけれど、エネルギー補給が出来る程度のもので。豆パンマーガリン……まあ、こんなところか。
 この辺で働いているっぽい人が数名たむろしているので、店の前で食べるのは止めにして更に進む。
 大雑把な距離感では5、6キロぐらいだったけど、どうだろうな(実際には9.2キロ)。
 まあ、分からなくなったらコンビニで地図でも買おう。
 トンネルを抜け、大きめな通り沿いを進む。
 銭湯あるな。こんな時間から営業してるんだ。
 バス停あるけど、この時間じゃ走ってもいまい。
 パンは多少日持ちするから、朝食が食べられるところがあれば入りたいけどないなぁ。吉野家とかファミレスみたいなもんで良いんだけどね。
 青看板を目安にしながら進む。
 む、分かれ道。
 一つは市場に行くとか表示があって、もう一つは森に入って行く感じの道、最後の一つは平地を行く道。
 平地を進むか。
 遠目に市街を見ながら、恐らくは田んぼの中の道を進む。
 青森の土地は、林檎畑ぐらいしかイメージがなかったけど、広々とした平地があるんだな。
 しかし、思いの他距離を歩いている。
 足の甲が痛む。
 革の紐靴の上の紐のパーツが食い込んでくるような感触だ(足の甲の疲労骨折の前兆っぽい)。
 この方向で本当に合ってるのか?
 不安になって来たところで、踏切を発見。
 おお、この線路は八戸駅に続く線の筈だ。
 方向は――あ、丁度列車来た。「鮫←⇒八戸」のプレートが付いていた。よし、方向確定。
 だとすると、線路沿いの道を進めば――うわ、行き止まりだ。
 反対側の道も舗装されてないし、別の道を進もう。
 見晴らしは良いから、大体あっち、というのは分かる。
 あ、学生増えてきた。
 よし、ようやく見えて来た。
 7時丁度ぐらいに、八戸駅到着ー。

 八戸駅は、ホテルがくっついた割合にモダンな造りをしている。
 三沢行きの第三セクター「青い森鉄道」は7:40発なので、それまでに朝食をとろう。
 改札脇の立ち食い蕎麦屋に入る。
 天ぷら蕎麦は油っこくていつもは選ばないけれど、かけそばや月見蕎麦では腹が減ってしまいそうなので、ちくわ天そばの食券を買って、店員のおねえさんに渡す。
 1、2分で蕎麦が出来上がった。
 足が痛くなっていたので、立ち食いはせずに椅子に座って食べる。
 やれやれ、ようやく温かい食事だ。
 ちくわ天でっかいな。衣でかさまししているタイプではなくって、適度なちくわ率。揚げ置きなので冷たいが、汁に沈めれば……やっぱりちょっと冷たいな。立ち食い蕎麦クオリティ。
 立ち食い蕎麦屋から出た後は、半分暗いままの待合室で座って、買っておいた豆パンを食べる。
 ふむ、豆パンで、ああ、中に確かにマーガリンぽいクリームが入ってる。生地に練り込んであるようなイメージだったが、こういうものか。悪くない。ふむ。もぐもぐ。
 食べ終わってから、駅の中をブラブラとしていると、ホテル側の入り口に「朝食バイキング」の文字が。
 ぬぅ、しまった、気付かなかった。こっちだったら、気の利いた物をたっぷり食べられたものを。
 そうこうするうちに、7:40分間近となって来た。
 券売機で切符を買って改札を通る。
 ちなみに、ICカードは使えない。
 ワンマン列車に乗り込む……と。
 座席がボックス型。
 そして、どこの席にも一人、二人座っている。学生多め。
 んー、これは座りたくないなぁ。まあ、大した時間でもないし、何とはなしに立っていようか。

 20分ほどで三沢駅に到着した。
 ホームの写真を撮ってから改札に行くと、改札は既に閉まっていて、駅員さんが手で開けてくれた。
 さて、ここから、三沢航空科学館への移動には、空港まではコミュニティバス、その先は徒歩にする。直通のバスも存在していたっぽいのだが、そのページが平成24年とかだったので考えない。
 駅で30分以上待ってから、駅前の乗り場に来た亀のマークの付いたコミュニティバスに乗り込む。路線バスより一回り小さい車両だが、中は路線バスっぽい座席配置をしている。乗客は他に一人だけ。
 バスは市街を進み、30分ほどで空港前のバス停に到着した。バス料金100円。この安さがコミュニティバスの魅力だ。
 さて、ここから先は、空港をぐるっと回り込むような形で進むだけだ。
 さあ、歩け歩け。
 草むらの傍らの舗装道路を歩く。場所が場所だけに、人家もあまりない。
 足の甲がどうも痛いな。
 柔らかい方の靴を履いてくるべきだったかなぁ。こっちの方が足に馴染んでるかと思ったんだけど。ううむ。
 頭上を戦闘機が爆音を轟かせながら通り過ぎて行くのが見えた。
 海老名にいた事もあるから分かっちゃいるけど、もの凄い音だ。あの機影はF15かなぁ。
 もうしばらく歩くと、ついに「航空科学館」の案内看板が!
 案内に従って道を曲がると、複葉機を模した街灯が並んでいた。複葉機を真正面から見て、井桁の井みたいなのの片方に電灯が、片方に電柱が付いている感じ。
 そしてその先に、やった、見えた!
 妙にひょろ長いモニュメントと、温室のように壁が一面ガラスの巨大な建物が。

 三沢航空科学館に到着ー。
 ふぅ、疲れた。
 早速中に入ろう。帰りのコミュニティバスを考えると、さっさか見た方が良いぐらいの時間だ。
 ロビーの土産物屋の前を通って、券売機へ。
 確か、フェリーチケットで割引になるらしいんだけど……。
「特別展のセット券がございますよ」
「ええと、フェリーチケットの割引っていうのは、どのように使うのだね(チョビヒゲを撫でながら)?」
「常設展だけなので、両方ご覧になる場合はセット券の方がお得です」
 あ、そうなの。
 割引あるな、と思うんだけど、結局のところそれが標準価格程度のもので、お得感がなくなってしまうというパターン。今回のフェリーのネット割引が正しくそうでしたね、ええ、ええ。
 チケットを買って中に入る。
 最初に展示されているのは、赤いプロペラ機。
 傍らのモニタにこの機体に関する物語が、アニメーションで流れている。
 ふむふむ、この飛行機は太平洋の横断をする予定で、三沢から飛び立とうとしているだけど、充分な飛行場がなくって、みんなが協力して浜辺に飛行場を作ったりしたと。んで、その時に青森のリンゴが渡されて、成功した後にリンゴのデリシャスという品種の苗木がお返しに送られて……。
 なんかもの凄く聞き覚えのある話だ。
 つか、小学校ぐらいの頃、なんかの教科書に載ってた気がするぞ。
 「太平洋を渡った5つのりんご」か。
 なるほど、当時の印象は事故による遭難からの復帰とか、そういうイメージだったが、実際には割と懸賞金やら名声やら目的の冒険飛行だったんだな。
 このサイズのプロペラ機で太平洋を無着陸横断って、大した度胸だとは思う。

 次の区画は、様々な航空機が展示されたスペース。
 主にプロペラ機が上からつり下がっていたり、下に置かれていたり、「所狭し」が、立体的にも成立している。かなり広い建物だが、狭く感じるぐらいだ。
 そして、その先に、一つ仕切られた入り口があり、セット券で中に入ると。
 おお、零戦の原寸レプリカと、十和田湖から引き上げられた一式双発高等練習機!
 零戦は平凡な形をしている感じがするが、これはつまりプロペラ戦闘機の標準的なイメージが零戦だからなんだよな。
 練習機の方は現物なだけあって、色々見ごたえがある。ダメージの入り方がなんとも趣深い。これの穴をやっつけで塞いだりすると、ナウシカに出て来たコルベットやバカガラスの風合いになりそうだ。ちなみにバカガラスは日本語そのままの意味で、帝国陸軍の攻撃機『深山』の蔑称らしい。コルベット(艦種)、ガンシップ(砲艦または即席攻撃機)、メーヴェ(ドイツ語でカモメ)と、全く統一性がない辺り、古代エフタル帝国に統一後の分裂という世界情勢の描写の為に敢えて混乱させているのだろう。
 このスペースには撮影用の台が置かれてもいた。

 折り返して、科学館関連の展示のスペースも通る。
 集音器で離れた場所で話をするとか、坂を上る玉とか、あの青少年科学館、なヤツ。
 嫌いではないけれど、そろそろ時間かな。

 航空科学館の本館から出て、向かいの別館の休憩所の自販機で抹茶ラテを飲んでひと休みしてから、ぼちぼち移動を始めようとすると。
 入り口のロータリーの辺りに、バスの時刻が書かれたプレートが。
 え?
 ここにバスが来るの?
 MISAWAぐるっとバス?
 あれ?
 確か、ネットで調べた時は、古い情報しかなかったり、土日祝日のみだったりして、使えないと判断した筈……。よく見ると、今年もやっており、ゴールデンウィークシフトで本日もやっているらしい。
 無料の上に、三沢駅直通だ。
 行きに気付いていれば……まあ帰りだけでも気付いて良かった。

 図らずも待ち時間が出来たぞ。昼食にしよう。
 科学館付属の食堂に入る。
 何を頼むか……ん、パイカ丼? 骨まで食べられるスペアリブ?
 なんか面白そうだから頼んでみよう。普通の一人前は少ないだろうから、おにぎりもプラスで。
 カウンターに食券を出して、番号で呼ばれるスタイル。
 丼飯の上に、煮崩れた感じの豚肉が載っている。色は濃いめ。
 柔らかく煮られているというよりも、ややパサパサ感があるような……豚バラ煮込みとかとは方向性が違うものなんだろう。んで、問題の骨だ。白くツルツルした塊があって、まあ、間違いなくこれだな。
 齧ってみる。
 うん、噛み切れる。
 ほうほう、なるほど。
 食べられるプラスチックみたいだ。
 面白いけど大して旨くはないな。値段や場所を考えれば妥当なところか。
 おにぎりは普通。少し時間を、とか言われたから、握り置きではないらしい。
 まあ、実のところ味は3割ぐらいしか分かんないけど。
 後で調べてみたところ、パイカというのは三沢が提唱しているB級グルメの類で、バラ肉を取った後の残った肉と軟骨の部位を煮込んで食べられるようにしたものらしい。ラーメンとか焼肉とかカツとか、色々な調理法で色々な店が出しているようだ。
 別の店の処理の仕方はどうだか分からないけど、この固さだったら凄く細かく砕いて餃子や焼売みたいな歯ごたえの少なめな挽肉料理に混入すると、ちょっと面白い食感になりそうだ。

 食事の後、併設された大空ひろばを見る事にする。
 航空機が何機も置かれている公園である。
 ほうほう、ずらずらと並んでおるわ。
 5、6機? いや、奥にまだある。ヘリコプターや輸送機もあるな。これ、結構な数だぞ。
 コックピットに入ってみる事が出来るように階段も付いている。
 わあい、コックピットだ、コックピットだ!
 自衛隊の基地祭とかだと絶対に順番が回って来ないだろうし、こうやって入れるのはお得感が強いな。
 日本の練習機だと、色々な部分に操作説明が日本語で書かれていて面白い。「押せば警報が消える」とか「押せ⇒ 計器飛行フードが開く」とか。外側も「救助用 把手を引けば風防が射出する」なんて書かれている。
 一昔前は、こういう警告は英語が良かったけれど、何となく今は一周回って日本語の方が格好いい気がする。まあ、もう半周ぐらいは来てるのかも知れないけど。エヴァのディスプレイ表示とか、日本語メッセージだった気がするし。でも、ガンダムとかに「機関始動後、これより後方に立つ事を禁ず」とか書かれているのは「DANGER!」みたいなものよりも良く見える事があるような気がする(やや弱気)。
 大空ひろば側から、航空科学館を眺めると、展望台が出っ張っているのに気付いた。
 よし、見ておこう。
 科学館に戻り、エレベーターで展望台に上がる。
 四方ガラス張りの展望台は……そんなに高さがないから、さほど見晴らしは良くない。近くに屋根も見えるし。
 でも、望遠鏡の類が全部無料なのは良心的だな。展望台自体で入場料を取る事もないし、交通の便は悪いし、商売っ気があんまりないんだろう。

 そうこうするうちに時間になった。
 ロータリーにバスが入って来る。
 運転手の人が行き先を聞いて来たので、三沢駅までと答えて乗り込む。
 これは正真正銘のマイクロバスサイズだ。
 乗客は自分一人。
 平日だしね。
 ああ、行きにあんなに苦労して歩いた道があっという間だ。
 空港周辺から早々と離れて、市街を進む。
 途中、別の乗客を一人載せた。
 運転手の人とは顔見知りのようで、雑談をしている。
 そもそも、運転手というよりも、地域振興のためのボランティアか、自治体の職員か、そういう感じだ。

 三沢駅から八戸駅に戻った時には、もう14時を過ぎていた。
 うーん、どうしよう。
 当初の予定では、三沢航空科学館から昼前ぐらいに八戸に戻って、昼食を取ってから八戸の博物館にでも行こうかと考えていたんだけれど、そんな感じではなくなってるな。
 少し歩いてみるが、辿り着けそうな距離ではない。コーラ一本飲んで引き返した。
 大体、この辺の地図は、建物の密度のせいか、ぱっと見よりも広い。
 八戸駅で少しダラダラした後、本八戸駅へ向かう事にする。
 何となれば、フェリーターミナルへのバスは、本八戸駅からしか出ていないのだ。

 本八戸は八戸からJRで二駅目である。
 店舗スペースが併設されており、誰でも使えるようにテーブル席がひとまとまりあって、学校帰りの学生がワイワイやっている。
 地図を見れば分かるが、周辺に5つぐらい高校があり、中学校はもっと多い。この学生の多さも納得である。
 今は16時過ぎ。バスは21時前の一本しかない。
 駅周囲をぶらりと歩いてみたが、このコンディションで歩ける範囲には目ぼしいものはない。
 んー。
 晩飯にするか。
 本八戸には大きな繁華街があるようなので、店選びにそれ程困りはしないだろう。
 駅の案内図を頼りに、繁華街へ向かう。
 駅とのこの半端な距離は一体何なんだろう。もう少し間を詰めれば良いのに。発展史的には繁華街の方が先のようだから仕方がないのか。そもそも車社会で列車を使う人間が少ないのか。
 進むうちに、人通りが増えて来た。
 繁華街に到着ー。
 あ、交差点の信号の音楽が「乙女の祈り」だ。確か子供の頃、ゴミ収集車が流していた記憶がある。

 どこの店を選ぶかなぁ。
 すぐそこの店は……「月あかり」? チェーンっぽくはあるけれど、札幌では見た覚えがない名前だし(「つき灯り」ならある)、個室みたいだし、ワタミ系列ではなさそうだし、ここにしよう。
 店に入ると、二人定員の個室へ案内された。狭いが、のんびり時間を潰したい時に、戸で仕切って貰える席は有難い。
「ご注文は?」
「瓶ビールを頼みます」
「タイムサービスで生ビール半額になっておりますが」
「んじゃそれで」
 流れには乗っておけ。
 メニューを見ながら飲み物を待つ。
 ふむ、2、3品つまみながらゆっくり飲んで、然る後にご飯物で落ちつけて、デザートで締める、なんてのが組み立てとして良いな。今回は根本的に貧乏旅行だが、目的地が一つ潰れた事もあって予算は浮き気味だし、あまり遠慮をする事はなかろう。
 「今日のお薦めの刺身」ってのがあるな。これ頼んでみるか。
「ビールお待たせしました、こちらお通しです」
 店員さんがやって来た。
「今日のお薦めの刺身ありますか?」
「すみません、やってません」
 がーん、出鼻をくじかれた。
「じゃあ、お勧めの焼き魚」
「だからすいません、やってないです」
「それなら、氷下魚」
「かしこまりました」
 メニューに載ってるものがやってないのか。
 早い時間で平日だからだろうか。
 それほど執着があった訳ではないが……あれ? 貼り紙にやっぱり本日のお勧めの焼き魚ってあるな?
 少しして、また店員さんがやって来る。
「すみません、本日のお勧めの焼き魚ありました」
「どんな魚ですか?」
「鮭のハラミかマグロのカマです」
「じゃあ、マグロのカマで」
「かしこまりました」
「それと、氷下魚はキャンセルで」
 いや店員さん、意外そうな顔をするな。氷下魚のオーダーが出るまでの経緯、目の前で見てたろうに。
 オーダーも無事に出したところで、乾杯。
 陶器のジョッキだな。
 泡がきめ細かくなるのが利点だが、泡の比率が分からないという欠点がある。これを解決するには、ガラスをこう、縦に一本いれておけば良い。これぞ、ストーブの灯油タンク方式!
 ……その方式は、まずそう。
 ビールを少しづつ飲みながら、お通しのサラダを食べる。
 あくまで酔わない程度に。
 酔う程飲むと鼻粘膜がかなりやられて嗅覚がまた一歩再起不能に近付くのが一つ。自分の家に戻る事が出来ない状態でコンディションを乱せないというのが一つ。前者の方が強いけどもね。この状況なのに歯止めが利かないと依存症陽性である。
「お待たせしました」
 サラダをあらかた食べた辺りで、マグロのカマが来た。
 むむむ。
 縦5センチ、横15センチ、高さ3センチってところか。
 それがひと皿に。
 二切れ。
 でかいな! 多いな!
 何はともあれ、いただきます。
 箸をいれると、ごろりと身が外れる。
 うむ、うむ、食いでがある。
 むぐむぐ。
 もぐもぐ。
 んぐむぐ。
「オールフリー一本」
「ありがとうございます」
 もぐもぐもぐもぐ。
 むしゃむしゃもぐむぐ。
 うむ、結構腹に溜まる。これは計画を変えなければならん。
 最後に考えていたご飯物やら甘い物やらは、少し時間を空けないと食べる気にならない。
 もう一品ぐらい軽い物を食べるぐらいにして、その他は外で買うか。
 その後、冷や奴を頼んでダラダラ19時前ぐらいまでいた。
 2,294円なり。
 まあお安い。
 本八戸までの帰り道、コンビニで買い物をする。
 船の中で欲しくなるだろうという予測の元に、ペットボトルの麦茶と、おにぎりを二つ、チーズケーキを一つ買った。
 本八戸駅に戻ってから、駅コンビニで土産物を買う。林檎のスティックケーキと即席せんべい汁。せんべい汁の方は、自分が食べる用で1食分だけで140円。即席スープと考えると高いだろうが、ちょっとした名物体験と考えるとなかなかリーズナブルだ。
 それから、本を読んだりぼんやりしたりしながら時間を過ごすうち、日はとっぷりと暮れ、店舗スペースも営業終了し、それからもう少しして、ようやくターミナル行きのバスがやって来た。
 無事にターミナルに到着し、乗船後に風呂に入り、コンビニで買ったものを食べた後、眠った。
 帰りはゆっくり休む事が出来た。
 同室の誰も真横にはならなかった。


<3日目>
 苫小牧に着いた後、ターミナルで一時間近く待って、札幌直通のバスに乗った。
 補助席まで使って乗客でぎっしりになった車内だったが、乗り降りはほとんどなかったので不便はなかった。
 バスから降りる頃には、昨日の足の痛みはほとんどなくなっていた。ひょっとしてその次の日にダメージが来るのかな、と、思っていたのだが、特にそういう事もないまま今に至る。
 筋肉痛は修復過程で起こる痛みとか言うし、何もないのも逆に気にはなるけれど。

 せんべい汁は、それから2週ほど後に食べた。
 お湯を注ぐように書かれていたが、その調理法はあんまり信用していないのと、ヤカンを出すのが面倒だったのとで、水菜とか少し足して鍋で作った。モチモチした麩のような、むしろモチのような、なるほど微妙に独特な感じで面白い。
 今度はもう少し上手い感じに動けそうだが、多分、次に行くのは大洗とか秋田とか仙台とか沖縄とかが優先されて、八戸の出番はかなり後だろうな。


<出費>
夕食: 401円(ミニトマト138、薄皮クリームパン(見切品)110、おにぎり(見切品)51×3)
交通費: 6,050円(地下鉄 琴似―350―大谷地 大谷地―1200―苫小牧西港 苫小牧西港―4500―八戸港)
飲み物: 170円(マッチ170)
朝食: 530円(豆パンマーガリン120、ちくわ天そば410)
交通費: 670円(青い森鉄道 八戸―570―三沢 三沢駅東口―100―三沢飛行場温泉前)
入場料: 920円(三沢航空科学博物館・特別展セット920)
飲み物: 110円(抹茶ラテ110)
昼食: 870円(パイカ丼650、おにぎり220)
交通費: 570円(青い森鉄道 三沢―570―八戸)
飲み物: 150円(コカコーラZERO)
交通費: 190円(JR 八戸―190―本八戸)
夕食: 2,294円(月あかり 2294)
土産物: 788円(青森林檎スティックケーキ648、ちょっとせんべい汁140)
夜食: 460円(胡麻鮭おにぎり110、わかめおにぎり110、ベイクドチーズケーキ140、麦茶100)
交通費: 6,350円(本八戸―300―八戸港 八戸港―4500―苫小牧港 苫小牧港―1200―大谷地 大谷地―350―琴似)
計:20,523円


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